1
2
3
4
5
6
8
9
10
11
12
13
14
15
16
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
11

 

「4 -quattro- 」あとがき

・・・・・・・・・・終わった・・・・? (結局11/22更新を守れず11/23すぎに更新したりぐのえる)
ふおふおうおおおおおおおおおお━━━━!!!!!//////
もう二度と木漏れ日での結婚式ENDになんかしないぞ!!!二度とだ!!
SS加工作業しすぎて右手クリックしすぎて超絶疲労だよ!
11/23深夜、ヘロヘロ状態で寝る前にふと拍手画面を開いてびっくり。
既にどんどん拍手数が加算されていって目が本当に熱くなりました!ありがとうございます。




まず最初に。
このご挨拶をするのが二度目というのも感無量ですが
ネットの片隅で書いている素人ストーリーに最後まで目を通してくださった皆様に厚く厚く御礼申し上げます。

途中体調崩したり、グラボが初期不良だったりPCがアレしたり、
アデルの番外編で半年も本編更新とまったり(ノ∀`)アチャーwww
とにかくとにかく色々ありましたが、お蔭様でこのたび2年11ヶ月続いた連載ストーリーが完結となりました。

コメントや拍手で感想を寄せくださった方々、
そっと更新があってもなくても応援の無言拍手パチパチをしてくださった方々、
黙ってリピーターになったくださってる画面の前のあなたも!!(`・ω・́)9m ビシッ
皆様ありがとうございました❤










■ご注意■
ここから管理人のストッパー完全OFFで親ばか愛満載であとがきを書かせていただきます。
そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
また、3年分なので本当に書きたいことが多いので、飲み物と何かおやつ的なものがあったほうがいいかも!(ノ∀`)アッハハ!









■4つのカップルについて
■イアン×ダイアナ
ほぼ3年かかりきりになった我が主人公たち(*´∀`*)詳しくはまた後の項目でじっくり。
もともとエリン達の話が終わりそうだったときに、「次はダイアナちゃんを若年でストーリーやるか~」とマスコンで成長させたら
フリーウィルONだったイアン(当時まだ「誘惑的」特質もち)が口説く口説く口説く口説く!
こうして彼らのカップルに開眼したことがきっかけでした。

■アレックス×エリン

『王子様とお姫様は幸せに暮らしましたとさ』の後日談な彼ら。バカップルフィーバー状態(*´I`*)
かつて誰にも懐いてなかった野良猫エリン、今やアレックスのお膝でごろごろにゃーんする家猫状態。
ちなみにアレックスがそんなエリンを見ているときの気持ちは、Sims3のゲーム内で子猫みたときに出るコマンドといっしょです。
「ああああああああああ」です、「ああああああああああ」(笑)もはや言葉に出来ない愛おしさ。
ゴールインした2人なので恋愛的にはトラブルはないものの、相思相愛でも擦れ違いはありました。

恋愛的展開をさせなくていいため、その分トラブルに見舞われるという法則が発動してました(笑!)
※アレックス扉破壊、エリン子供化、猫化、隠し子騒動などなど
彼らのおかげで日常どたばた回が出来たという意味でも彼らは今回も活躍してくれました✿



■庸一×リズ

幼馴染カップル。無口なグイグイ男子×生意気ツンデレ女子。
ダイアナ視点で彼女の友人達が必要&他のカップルも出したいということで登場。
幼馴染ならではの「友達だったはずなのに・・・・///」というリズを書くのが楽しくて堪りませんでした。
実は一番情熱に身をゆだねて行動してるのが庸一でしたね!wwww
押して押して押して━━━━ 一回も引いてないという!おとなしそうな男ほど・・・   (ノ∀`)アッハハ!

唯一、ダイアナの誕生日プロムの夜にリズがにっこりしているのはお気に入りの一枚。
今後もこんなにっこり顔は出ません。それがリズ!
チビ庸一がかつて持っていてダイアナを救ったきっかけになった、彼の宝物『おもちゃロボット・アンドリュー』。
文章にはしてませんがストーリーが進む中で時々再登場してます❤



■レイン×サニー+アンドリュー
ツンデレ男子×おっとり女子カップル。
もともと『王子様をつくろう!』という企画から生まれた彼らだったので、ちょっとしたお楽しみのために彼らを登場させたのですが
おっとり女の子の方が実は相手を振り回してる、という構図が楽しかったです(●´ω`●)

ただツッコミとなるレイン王子がとんでもねえヘタレ野郎で(ひどいwww)
アンドリューが最終回でお膳立てしても最後まで進展はしませんでした。
レイサニの場合は彼らの恋の進展というよりも、
彼らにアンドリューが交わることで将来義理父となるイアンとの交流を深め、
アンドリューは成長してく・・・という部分を今回は主におきたかっただったのがあります。
何より結婚するまで清らかなお付き合い・・・というのも”王子様企画”で生まれた彼らにはぴったりかなと思いました。
一番の原因はレインがヘタレなせいなんですけれど。サニーちゃんは言動が亀、レインは恋愛が亀。
レイサニの進展についてはシーズン3でもまだまだ続きます(ノ∀`)あはは







■主人公カップル:パンプキン×イアン×ダイアナを書くにあたって
「グレた悪魔パンプキン×イアン×ぶりっこ天使ダイアナ」という構図だけで堪らなく楽しかったです(*´д`*)ハァハァ

最終回がちょうど全50話で終わりましたが、パンプキン=ダイアナだと判明したのが何とちょうどド真ん中にあたる25話(!)
前半は「ダイアナ視点からの話」、後半は「イアン視点(真相あり)からの話」でした(*´∀`*)

そもそも第1シーズンはアレエリというカップルは決まっていたので(イアン・・・:涙ホロリ/お約束w)
イアンかダイアナの話を書こうかなと考えていた最中、前述のとおりイアン×ダイアナというカップルに開眼した管理人。
ということで展開を考えることとしました。

かつてのアレックス-エリン-イアンのように△関係が大好きなのですが、『くっついてないけど△関係』は、もうやってしまった。
では今回は『くっついてるうえで△関係』にするとなると、「第三者 - イアン - ダイアナ」ということになる。
二股厳禁のイアンがその第三者と付き合っててダイアナにふらつくのはおかしい・・・(;;`・ω・)
なにより私のかわいいおチビのダイアナちゃん(当時)にそんな適当なことするな!(`>ω<´)ということで即ボツ!(笑!)

何より11歳離れたダイアナちゃんに本気で一途に惚れてるイアンっていうのがやりたい!!というのが
強烈にあったせいもあります。
では11歳差がある上で、『徐々に大人になってゆくダイアナに戸惑うイアン、そして2人は恋に落ちる・・・』・・・?
ここまで考えて、アレックスに比べてイアン随分楽してることになるな!(*・∀・*)と思い、
これもボツにしたいなあと悩む(ノ∀`)アハハハ

そこでヒラめいたのがSims3アンビションのタイムマシン。
過去や未来にぴろっと飛んでいってるのを見て、「これだ!」と相成りました。
唐突にやってきた大人のダイアナにイアンが恋に落ればいいじゃん!!!で、△関係と思わせて実は違うカンジにしてみよう!
これにより『イアンへの試練(アンタ本当ひでえよwww)』、
年の差が大きめかつ子供の頃を知っているため『いつ、どうやってダイアナを恋愛範疇内とみなすか』、
両方がクリアされたので、こうして核となる部分が決定しました。

同時にダイアナの天才設定が決まり、当時の第1シーズンでチビダイアナ=頭いい設定が出ます。
また番外編EGOISTで初登場した性悪アデルを再登場させたかったのもあり彼女を隠れ蓑にすることに決めました(`・ω・´)✦

                      「ひっかかった奴、正直に手ェ挙げなよ」

なのでパンプキンの正体が判明する前はわざと白黒SS(かつピアスの印象を強めるためにそこだけ赤色あり)
もしくは髪の毛が入らないような角度撮影にしていました。動画でもそうでしたね(*´v`*)ムフフ!
あの独特の赤毛でバレちゃうのだけは面白くないと思ったのです。

そのとき書いていた第1シーズンでは「職業=泥棒、雇われ執事のアレックス」という部分しかSims3色がなかったので、
急に「タイムマシン」というぶっとんだ設定を出しても唐突過ぎないよう、
またせっかくだから、もっとSims3要素も躊躇なく入れまくるか~!(*´∀`*) と思い、
第2シーズンでは様々なSF展開を入れまくりました。
MODでオブジェクトを浮かせたり、
マスコンによるエリン子供化で俺のかわいいエリンに子供時代を擬似経験させてあげたり、
(なんかアレックス湧いてんぞ!wwwww)

何でもアリを最大に強調した「エリン猫化オチ」という超おバカなコント回をしたりして、
タイムマシンの種明かしへの布石をポチポチポチとしてました。

中でも1番はご存知、シムボット・アンドリュー。
心からダイアナに尽くす敬語で一人称が「僕」な彼がまさかのレインよりも早い童貞卒業(爆笑)

アンドリューの正体をわざと明かさずにサンセットバレーに連れ帰ることで
最序盤からイアンの嫉妬してる様子を出すこともできたのは好都合でした(*´∀`*) 一石二鳥!
アンドリューがダイアナの"息子"だと知ってから一転して、将来的に義理の親子としても良い関係を結べるようにと
イアンが彼との交流を積極的にとっていたり、さりげに教育してるのもポイントです。

こうして△関係に偽装した前半が進むこととなりました(●´v`●)
1話当時から実は「パンプキン=ダイアナ」というヒントを散らしながらも
わざとパンプキンという第三者がいるかのようにな言い回しや表現にしていたので「パンプキン=アデル説」が最も多く
そんなコメントを頂戴したときには超ニヤニヤさせていただきました。
ひっかかりましたね!(お前wwww)
真相が分かった25話更新当時ツイッターをやっていたので直後怒涛の反応をいただいたのも懐かしい思い出です!(*´∀`*)


目の前に本人が居たんじゃ、そりゃ寝てるときにチューしちゃうわ~ エロ夢も観るわ~





201511232139.png
2年以上経って使用している肌CCも変わり、このプールLOTも間違えて消しちゃって再建築したりもありましたが
物語が”1回り”したことで45話目のSSをやっと撮れた時は達成感でいっぱいでした!
イアンが16歳の少女ダイアナを図らずとも公開失恋させてしまってショックを受けてるイアンに
『やっちゃったね、イアン。あーあ!かわいそう!』とパンプキンが茶化す場面も、
1話当時だと「なんかこのイアンの恋人カンジ悪」なのが、45話目になると「ニヤニヤ顔で(ノ∀`)アッチャー」になるという
正体判明前後で受け止め方が変わる仕組みは書いていて本当にたのしかった!

なおパンプキン=ダイアナ判明以後に1話から読み直してみたお声を実は多く頂戴してまして(むっちゃ嬉しい!)
下手の横好き素人なりの叙述トリック(コレ!「叙述トリック」って言い回しを使いたかった!ミーハーなので!(ノ∀`)アハッハ!)を
楽しんだと言っていただき、と~~~~ってもとってもとっても嬉しかったです!!


ちなみに第48話でアレックスが『アクロイド殺し』を読んでいたのも、そこに関係したお遊び❤
これは英国が産んだミステリーの女王ア/ガサ・クリスティの代表作の1つ。くわしくはここでは触れません。
犯人を知らないひと是非読むべきですよ!(`・ω・´)!9m すげえから!ほぼ100年前の作品とは思えない!
ちなみに読む予定はない方はコチラから犯人の正体も含めてどうぞ→(『アクロイド殺し』wikipedia








(問題)いきなりですが、ここで問題です。
この第2シーズンにおいて、全編におけるヒロインは誰だったのでしょう?

(答え)ここで迷わずイアンと答えたあなた(`・ω・´)9m! !!分かってるぅ!!www








■主人公カップル:ダイアナ×イアン
ヒロインはイアンです(大事なことなので2度言いました:笑!)という半分冗談はさておき(*´∀`*) !

このあたりはかなり私個人の考えが出てしまうのですが
『男には常にヒーローとしてカッコよくいてほしいけど、常に男に守られるとか弱く扱われてるみたいで気に食わない』。
見事に二律相反してますが、ついつい・・・・私なんかはこうに考えちゃうんです。
王子様願望という少女じみた依存願望に普遍的にあこがれつつも、いい年だし現実的な自立心もあるといいましょうか(ノ∀`)!
なのにアレックス×エリンでは最後『王子様がお姫様を助ける』構図が強くでてしまってたので
(最初エリンの方から助けてるんですが)、
じゃあ今度は逆!ということでダイアナ×イアンのイメージが決まりました。

では「ダイアナがイアンを何から救い出すのか」というところを考えるに当たり、エリンのような王室云々はできない。
(ちなみにエリンのときは当時読みたてだった”亡国の王家の血統が云々”という海外ミステリーに超影響されてました!w)

もともとイアンのことは深く考えずフリーウィル当初にSims3の中である『職業CEQの金持ち』にしてしまってたので
現実的にイアンみたいな地位の若い成功者たち(Zバーグとか故Jブスとかですね)をサラ~っと調べたら、
パパラッチがすごいし、恋人のことをホント好き放題に書かれてて庶民としては「大変だな~」としみじみ思ったんです。
あと通常プレイするとパパラッチ、本気で邪魔!(真顔)

念押ししておくと、イアンは自分自身がそういう環境におかれることはまだ我慢できてましたが
自分のせいでダイアナが同じようになるのことにはほとほと弱りきってた、ということです。
で、ダイアナは異母兄アレックスの養子になることで、
アレックス達と同じくパパラッチ達を削除する権限を獲得しました(マスコンかwwww)


日本では相続税対策でおこなわれている「普通養子縁組」ですね。
親子関係も「実親」である母マーガレットとの間に存在したままだけども、アレックスがは「養親」であるという養子のかたちです。
そして相続も実子と同じよーにうけることができるっていう。
ま、要するにダイアナはマスコン使ってパパラッチ消せるってことです!(笑!!

で、ダイアナに恋に落ちるイアンですが、そのきっかけのくだり。
お気づきの方もいたでしょうが、ダイアナは特別なことをしてイアンを振り向かせたわけじゃありませんでした。
それどころかカナリ古典的な方法をとってます。
激しいロマンスとか、赤い糸だの前世だのの非現実的な運命論じゃなく・・・・・
現実でもフツーに使える、男を落とすときの大原則━━━
弱ってるときを狙え(wwwwwwwwwwww)


サンリットに来た当時のイアンは、
・エリン以降、遊んでるわけじゃないけれど恋愛は続かず
・親友エリンにとりかえしのつかなそうな心にもない言葉を吐き、
・(ダイアナが突然現れたせいもあるものの)仕事で大失敗

釣りやすい状況揃い踏み!(`・ω・´)! !!!
さらにダメ押しとして、ダイアナは手作りピザでイアンの胃袋を掴んでもいます。
もちろんイアンを釣り上げる釣り場に入るにあたって、
そもそも大前提として少女時代から繋がってきていた信頼関係があったからこそ、だったのですが。

わたしはこういうとき前の職場の先輩(巨乳)から教わった名言を思い出します。

先輩(巨乳)「りぐさん。恋というものはね。フィーリング、タイミング。そしてハプニング!よ!」(胸を張る)
後輩りぐ  「なるほどー!」(心の声:でっけえ!)

つまりダイアナ×イアンに当てはめると、
①フィーリング・・・・・既に友人として合うイアンとダイアナの関係(前提)。でもダイアナはただのガキである。
②タイミング・・・・・・ところがそんなダイアナが、大人として「イアンの恋愛範疇年齢」になり

③ハプニング・・・・・・突然空から降ってくる(wwwwwwwww)

✦(。◕∀◕。)ね!!
でも、そんな弱ったイアンのところへ意図せず現れるというだけで、やっぱり運命でもあるということでもありますが( ´ω`)
そんな運命だってやっぱり好きなんです❤








■ダイアナについて
この子の場合は子役脇役がスタートだったので、かつての第1シーズンでは「いいこ」性質しか出てませんでした。
だからチビちゃんだったときもエリンに妬いてもなかったし。
しかしそうなると・・・まあ・・・単にそのまま大きくなってイアンと恋するのも・・・・いいけど・・・・・・さあ・・・・
正直、ただのイイコって色気がない。

散々遊んだモテ男が男慣れしてない女の子に惚れてしまうというのは王道で大好きですし、
だからこそのイアンとダイアナという組み合わせの面白さだとも思うのですが・・・・・・・・
イアンの相手が色気がない女ってダメでしょうよっ!
そんなEAのダサT着てる場合じゃないんだよ!(机バンッ)

そもそも『全方面でイイコ』なんて、言い換えれば『皆から愛されたい』という常に相手ありきの姿勢であり、
また自分の本心を出してないということでもあり・・・
人に好かれようとその行動だけしているのは、自分の人生を歩んでることになりません。

勉強ができるだけで一切恋愛経験もなく、
年上の友人達に何だかんだでチヤホヤされたダイアナちゃんは所詮20歳なりたての歳相応のコでもあります。
過去に飛んだ直後はグレにグレて、
酒漬けの勢いもあって、ただ張り合うってだけで意味もなく歳まで嘘つくようなバカで愚かになってしまう彼女。
・・・彼女のお兄ちゃんを思い出してやってください。やはり血は争えませんなあ!(アハハハハ!!)

1回泥にまみれ自分の中のドロドロの醜さにと愚かさを知り、自己嫌悪でぐっちゃぐちゃになるからこそ
ただの純粋な愛情というものの尊さがを理解できるようになります。

自分がパンプキンだと気づく前のダイアナは自分の愛が実らなくてもイアンの幸せを祈ろうというと思えるようになりましたし、
気づいたあとは今までイアンがずっと注いでくれていた愛の大きさにも気づけました。
٩(๑òωó๑)۶だから彼女は彼のためなら無限大に強くなれるのです!

あと醜い黒さも露呈することで、生来からあった愛らしい白さが対比で一層浮き彫りにもなります。
そんな白黒の不安定さが人間くささのある『隙』にもなり、異性(イアン)にとってはなんかエロイ
(もっとロマンチックに言えないのかwwww)
いま一度サンセットバレーに帰って来たばかりの『ダイアナちゃん』を思い出してやってください。
太陽がピッカーンみたいな・・・そんな太陽の真下で誰がウフフりますか?!全然色気ない!
するにしたってパラソルの下か物陰でしょう?!(もうひどいなwww)

私は個人的には暗さのなかにこそ色気が出ると思う!!(`・ω・´)

真実がわかったときにダイアナは内面的な意味で『パンプキン』となりました。
強くて正しくて特別な”カッコいい”イアンじゃなく、
弱くてずるくて平凡な”ただの男”のイアンに改めて恋に落ち、愛し、慈しみ。
その彼と、自分の愛する人々を守るためなら例え正しい方法じゃないとしても選び取って、
『イイコ』を脱皮して自分の生きる道をすすんで彼らを救うという、おとぎ話でいうところの”王子様”の役割をやりました。

そして最終回で最終形態のダイアナへ。
やっぱりイアンの妻はエロい幼な妻じゃなくちゃ!!(笑!)
20151124 (2)
ファッションもかつてはピンクが中心でなんとなく子供っぽい、または時折垢抜けなかったりでしたが
(ちなみにヘンテコEAデフォ服を着てるのは部屋着でダサ服を着るのが密かな趣味という、結構どうでもいい設定です:笑)
『パンプキン=ダイアナ』は彼と同じく系統のノームコアなファッションに落ち着くこととなりました。
このあたりは私個人の好みがそのものでもあるんですけど、真実を知り、見えるものが変わって
服で可愛さ追求はしなくなったダイアナを表現してます。
あとイアンは可愛いよりもエロさに敏感だから(ここ大事)

そうそう。
元々少女時代からダイアナの顔立ちは、
かつて角度45度座りでのキャスター姿が有名だったボブショートの某美人アナウンサーをヒントにしてました。
垂れ目で二重くっきりでお目目パッチリで、鼻がしっかりしてる感じですね✿
(※似せてないです。念のため!要素だけです!)
でものちにティーンに成長したら結局影響受けてショートカットになったというエピソードがあったりします(ノ∀`)えへへ!

彼女の赤毛は『赤毛のアン』のイメージから。あと赤毛って可愛いから好きです///
(実は私自身、昔ヘアカラーが暗いワインレッドだったんです。アハハ!///;お堅い業界だったので暗めでね!ww)
苗字のヨークはイギリスの北部の都市。これは私とちょっと縁があった街だったので適当にそこから持ってきました。

そうそう。面白い話が。
この都市の名を冠する公爵位が「ヨーク公」と呼ばれ(大公of地名、っていう呼び名)ます。
(公爵のヨークちゃん!!(*´∀`*) !!ただ命名当時にこうなるところまで考えてませんでしたので偶然です:笑)
かつてのヨーク公は、英蘭戦争後にオランダから割譲した、とある大陸の都市「ニューアムステルダム」を国王に与えられます。
そうしてその都市は改称されました━━━━ そう、皆さんが知っているニューヨーク!(*´∀`*) 歴史って面白い!


20151124 (3)
チビダイアナがエリンと初めて出会ったときのエリンの年齢へにとうとうなって物語は終わることとなります(*´ω`)ジーン
かつての泥棒時代エリンと同じ歳になり、彼女とはまた違うセクシーさ(というよりもエロさといったほうがいいかも!ww)を
身に着けた、というところがダイアナの容姿の意味でのゴール。
エリンがゴージャスセクシー、アデルがク-ルセクシー、ダイアナがエロセクシー!
ちなみに、これによってイアンの先見の明があることも示したつもりだったりします。
エロさの先物買い(何言ってんだwwwww)

そしてもちろん、いままでもこれからもイアンひとすじのダイアナちゃんです。

そうそう!最後に重要なことを添えますと、イアンと夜を過ごすようになってからですが・・・・
ダイアナのお胸が豊かになってます(爆笑!)
イメージ的に2カップ上昇なレベルで。
奇跡のゴッドハンド━━━━ それでこそ、イアン!!ヽ(•̀ω•́ )ゝ✧






■イアンについて
第1シーズンのあとがきの通り、これはイアンのための物語でした。
散々当て馬だった彼ですが、彼、今回ヒロインだから(すっごく大事!✦)
前半はパンプキンが第三者のように書いていたので誕生日プロムは決定打。
悪役とみせかけて・・・評価下げて・・・ドーン!を株価のストップ高を目指してみました(*´∀`*) プハハハハ!!

でも実際はかつてのアレックス-エリン-イアンの△関係を経ても、
かつてのチビのダイアナちゃんにお願いされたら断れない、
エリンと親友を続けてやってる時点で相当優しい・・・というよりも、お人よしな男です。
一見人当たりがいいだけで実は全方面に優しいわけじゃないアレックスとは真逆ですね(サラッとアレックスを何故か下げるw)
例えばアレックスは「他の男とくっつくのを見守るなんてできない」と宣言してました。でもイアンはしました。

かつて第1シーズンのあとがきでは、以下のように書いてました。
>お金があっても手に入らない、よくあるテーマですがそれは『時間』と『愛』かなと。

と、いうことで第2シーズンはそのままイアンにはどうしようもない『愛』と『時間』がテーマでした(*^∀^*)!
両想いだけれど相思相愛の片思い状態、そして時間が経たないと自分が一番求めている『ダイアナ』には再会できない
そのまんまをそのまま彼の課題に。

 一体彼は何度ダイアナを前にして、
「まだ違う」「やっぱりコイツだな」「でもまだ違う」と心の片隅で思ったでしょう。

イアンは今回ヒロインなので細かめによりイメージを考えることにしました。
シムの特質「魅力的」は健在なので
『不思議にエネルギーが迸っていて魅力に溢れ、口が悪いんだけれど何故か許され愛されてしまう人たらし』という
書ききれてるかはともかく、そういう設定をしています。書ききれているかはともかく!(大事なことは何回でも言いたい!;><)

イメージとしては、小学校~中学くらいのころ必ずどこにもいた絶対的中心だったクラスの男の子のような(*´∀`*)
お笑い担当みたいにおちゃらけすぎてないけれど、明るく人気者で勉強もできてスポーツもできて、
でも学級委員とかになるわけでもなく・・・
中学くらいから徐々にそういうカリスマ性(というのかなあ?(・ω・))も薄れ、
大人になってもそういう魅力を持ち続けてられるひとは多くありません。
でも、もしも大人になってもその力を持ってる人間がいたら・・・非常に漠然とてますが、そんなイメージをイアンには託してます。

イアンの髪型は七変化状態でした。
正直わたしも長いのがいいと思ったり、やっぱり短いのがいいと思ったり!
ダイアナにツッコまれたらアッサリ変えちゃう、お前アレックスのこと言えないなっていうくらいダイアナダイアナ(๑ò_ó๑)でした❤
20151127.jpg
結婚式のヘアスタイルも最後まで決めあぐねていたのですが、アレックスの髪型は永久不変。かつ短い。
第3シーズンの次世代の子達も短いので最終的にイアンは長めにすることにしました。
アレックスは堅い真面目というイメージがあるため、
やはりイアンには柔軟でちょっと軽い?という感じでいてほしいというのもあります✿

彼の名前イアンの由来は、当時観ていた海外ドラマの犯人の名前。
苗字のグレンツは、本棚にあった何かの本の背表紙にあった単語です(適当wwww)
彼は私の初めてWindowsPCで作ったシムでカタログに入っていたシムを整形して作った子です。

イアンの鎧が最後の最後でごとんとおちて、彼らはやっと大団円!(*´∀`*)
おっと!ちょうどいいSSだったのでご注目ください✿
よく結婚式でウェルカムドールというものを用意しますが、彼らのウェルカムドールは左手のユニコーンのぬいぐるみ。
ダイアナちゃんがイアンに初めて恋に落ちたときに輪投げでとってもらった彼です。
元々ダイアナのもとにいたのが紫色だったので、その"お嫁さん"ユニコーンは白色です(●´ω`●)
紫色にした理由は正直忘れましたが(たぶんデフォカラーだから!(ノ∀`))
ただし!紫の連れはやっぱり白、です✿




また最終回では本当の意味でエリンとイアンが自分達の関係をちゃんと言葉として明確にしました。
彼らもまた愛し合ってます。男女のそれじゃなく(*´∀`*)
実はこのシーンの大本は、まだ第1シーズンの最中、かなり初期に漠然と構想がありました。(こちら 2012年10月25日の記事!l

愛って色々ありますよね、夫婦、恋人、友達、家族。
面白いことに友人には言えても家族である親兄弟夫婦には絶対言えないことがあったり、その逆も当然ある。
彼はエリンにいないはずの、男女愛から切り離された一番古いエリンの家族なのです。
当然ながら、これはアレックスにはできないことです✦
イアンとエリンは、もともとそういう関係を目指してましたのでやっと彼らはそこに至っていることを確認しあいました。


イアンの場合はストーリーの中でかなり書いたので、正直あとがきで補足したりしたいと思う事項があまりありません。
ですので、以上です!








■最後に
自分でも確認して驚いたのですが第1シーズンはたった3ヶ月の連載でした(爆笑!!!)
それが今回の第2シーズンは途中半年のアデル番外編を挟んではいるものの、期間としては約3年の連載に。
序盤はグラボの初期不良のせいで起動してSS撮っては落ちる、の繰り返し。
おかげで書きたい文章とSSの枚数のバランスがなかなかとれず文章がずらずら~っと続いたりしてました。
そのときはそういう状況ならそうするしかないからしょうがない!と割り切ってたんですけれどね(あっはは!:笑)
「着替えさせたら落ちるかも・・・(ドキドキ」この緊張のなか、
1人を着替えさせては保存というのはヘタなお化け屋敷よりスリルあるよ!(ノ∀`)!!

20151124 (4)
グラボをやっと販売店が交換に応じてくれ、Sims3がサクサクになった中盤以降は
シムたちの眉毛や口角を上げ下げすることで従来使ってるポーズと合わせて表情も場面にあわせて変えるようになりました。
いやいやいや・・・・・イアンはこういう不遜な顔が一番良く似合う!(笑)


また途中ではCCやポーズの自作も覚えました。
CCは完全にイアンとアレックス専用の洋服ですね・・・・30代の男性向けの服がなかなか見つけられず・・・
(特に個性強めのものは着ないアレックスのものが!)
リテスクチャだけですけれど数着つくっただけでもワードローブも増えてくれたし・・・・

手間の掛かる子だよ!!

ポーズ自作は34話以降、ストーリーで使うようになってますが、配布はしてません。
何故かといえば私のストーリーで使う専用として考えているため自分が撮影したい角度も決まっている上で作成してるので
表情だけ、もしくは身体だけを作ったりというモノなんですよねえ(;*´∀`*) >

あと、私の場合は全部ポーズ作ってばっかりだと文章量が多いため時間だけかかるし、
「ここだけはSS絶対こだわりたい!」と思う場面だけは作るという自分ルールを決めています。
ちなみに一番のお気に入りで改心の出来となったのはこちら、
”ヒロインなんかにはなれない”と心の底から打ちのめされたダイアナの1枚。

いや~・・・・こんな表情させといてなんだけど・・・正直イイネ!!(悪魔かお前は)
小説じゃないんだし、せっかくSSを使えるんだからということで
文章がなくともこういう表現ができるのがSimsストーリーのよいところです✿
実際最初文章はついててもSSだけでいいなとおもうところはザクザク文章削ったりしています。


ほかにちらほらと使っている自作ポーズたち。
20151130.jpg
特殊なものがやっぱり多いので再利用はしないものばかりですね。ダイアナ泣かせすぎてて正直ごめんwwww
エリンの「ほっぺぷくー」は絶対いつかやりたかったけれど、かつての私のSims力(なんじゃそりゃ)じゃできないと
諦めていたネタ!!///頬のこの場所をいじれるのをお友達に教えていただき、とうとう夢が実現(*´I`*)
アレックスは他クリエイター様のポーズで視線をエリンにセットしただけなんですが・・・
うん、エリンが可愛いのは分かった!分かったから!(笑!)


次世代が主役だからイアン達はもう出ない・・・・!?と思わせてしまうような予告をしておいて、最終回のオチでした!
これからもますます賑やかになった彼らを、引き続き見守ってやってくださるとうれしいです(●´ω`●)








ここから先は管理人の完全な独りよがりの所感です。
「えっ?これ以上!?(ドン引き」な方、そうなんです(キッパリ肯定していくスタイル)
これ以上なので興味のない方はここまで(*´∀`*) !読んでくださってありがとうございました❤






畳んでおきます。








第50話(最終話) ダイアナのウェディングノートⅡ Diana and Ian 

←第49話



「桜子ちゃん」

s2-49 (56)
優しい声に呼ばれて、家族のシムボットと居た女の子は振り向く。
ここは初めて見るお花がいっぱいなの。
そう言いたいかのようにぷくぷくの指で花をさすと、その人は優しく優しく笑って頷いた。

「うん、綺麗だね。鳥さんみたいだ」
「・・・・・・」
s2-49 (57)
「一緒に花嫁さんのところに行こうか。・・・・桜子ちゃんのママもパパも忙しそうだから俺が連れて行くね。
 だっこしてもいいかい?」

式の前に涙腺崩壊してしまった桜子の両親に代わって迎えにきたアレックスは尋ねる。
子供扱いしすぎて語尾を延ばしたり、勝手にだっこしようとしたりしないので桜子はこのひとが好きだ。
こくん、と頷くと桜子はふわりとその人に抱えあげられる。

「よいしょ・・・・なんか大きくなったなあ。先週会ったばかりなのに背も伸びた?」
『ええ!毎日どんどん大きくなってますよ』
s2-49 (59)
アレックスはリズ家のシムボットと少し話したあと、桜子と共に歩き出す。

「今日はここでね、花嫁さんと花婿さんの結婚式をするんだよ。いつもより人が多いんだけど、大丈夫かな?」
「ん」
「桜子ちゃんは素敵なおねえちゃんだね。ありがとう」

おねえちゃんと最上級に褒められて、照れくさそうに桜子は顔を隠す。
アレックスおじさんはとっても優しくて王子様みたいにしてくれるから大好き。
s2-49 (60)
「これは全部南の島の植物なんだよ。すごいね?」
「ん」

父親の庸一に似て口数は少ないが性格なのだろう。
歳の割りに話しかけてる内容を理解してる様子はみせる、頭のいいこだ。

桜子は大きな葉っぱを見上げた。
ここは高い高いガラスの天井にまで南国の木々がそびえている、サンセットバレーの歴史ある植物園。
s2-49 (55)
イアンが生まれてダイアナが育ち、皆が出会ったサンセットバレーを抱き、
あのサンリットタイズと同じ南の香りに満ちてる。



控え室に入ると、カーテンの隙間からでも真っ白なドレスを来た赤毛の女性が光り輝いてるのが分かった。
桜子はそれを指差し、アレックスに告げる。

「ひめしゃま」
「うん、お姫様みたいだね。花嫁さんだよ。桜子ちゃん、あの花嫁さんは誰か分かるかな?」
「だいねえたん」
s2-49 (62)
「そうだね。今日はダイアナお姉ちゃんが花嫁さんだ」

同じく花嫁介添え人としてドレスに着替えたリズ。
目を赤くしながら「すんません、アレックスさん」と駆け寄ると、アレックスは「大丈夫だよ」とにこやかに答える。

「まま、ひめしゃま」

ドレス姿のリズに彼女の娘・桜子は感動に震えたように呟くが、当のリズはうぎっと顔をしかめる。

「桜子、これはお手伝いのひとの服!今日の見世物はダイアナねーちゃん!」
s2-49 (61)
見世物・・・・・花嫁の兄の前でのリズの物言いにアレックスは苦笑い。
こういうところは変わらない。

「準備はもう済んだのかな?」
「はい、全部。ヘアメイクの人も、今日来るお客さんに知り合いがいるとかで離れてます」
s2-49 (104)
ぐす、と鼻の頭をまだ赤くしながら花嫁付添い人のリズは頷いた。

「じゃあダイアナ。エリンからの伝言だけど、いま時間があるうちに何か食べておいたほうがいいらしいよ。
 そこにあるからね。ドレスは汚さないように気をつけて」
「はいは~い」

兄アレックスに言われ、カーテンのあちら側でダイアナが平和に返事した。

そして男であるため花嫁付添い人にはなれないものの、
特別に花嫁姿のダイアナを先行お披露目されて泣いてしまった庸一。
やっと落ち着いたらしく、娘・桜子を連れてきたアレックスに礼を言う。
s2-49 (102)
「すみません、桜子連れてきてもらってありがとうございました」
「大丈夫だよ、いっしょに建物の中見れたから。楽しかったよね?」

きっと全ての大人の会話は分かってはないが、
アレックスは当然のように桜子のことも尊重しつつ小さな彼女に笑いかける。

そしてリズと同じく、花嫁付添い人姿のサニーが綺麗な飴のような桃色の髪を揺らしながら顔を出した。

「ダイアナちゃん、本当にとってもとってもお綺麗なんです。アレックスさんもどうぞ」
s2-49 (64)
サニーだけは泣き顔ではないが若干声が震えている。
きっと4人で盛り上がって雰囲気に飲まれたんだろうとアレックスは微笑む。

「ありがとう。でも楽しみにとっておくよ・・・エリンや皆と一緒に驚きたいしね」
「まあ。そうですわね」

そしてカーテンの隙間から花嫁ダイアナが顔だけ見せた。

「あ~、しゃくらこちゃ~~ん❤今日は一段ときゃわしゃんだね~~ふわふわぷーしゃんだね~~❤❤」

途端に小さな桜子はさっと顔をそらす。
s2-49 (103)
桜子は決してダイアナを嫌いじゃないが、もう自分は赤ちゃんじゃないのだ!
そういう赤ちゃん言葉は止めていただきたい!
小さな彼女の抗議が聞こえてきそうで、
先ほどお姉さん扱いしてしまったアレックスは「照れちゃったかな?」と苦笑気味にフォローした。








昔は「誰が着るか」と吐き捨てた白のタキシードを、今のイアンは平然と着てる。

「ダイアナに軽いって言われて短くしてたくせに。結局 髪伸ばすとはね。よかったの?」と、エリン。
「アイツ、髪が短かろうが長かろうが実際はなんも考えてねーんだよ。気分で喋ってるだけだ、あんなもん。
 結局この俺にベタ惚れだからな」
s2-49 (99)
「はいはい。そうね」
「エリン、ちょっと話せるか」

イアンの問いかけにエリンが頷いたところで、
彼らの近くにいたアンドリューがマナーと守って静かに場を離れた。

「なあに?」
s2-49 (109)
「俺もホイホイ言うような性格でもねえからな。もう今日くらいしか言う機会もなさそうだし、思いついたときに言っとく」
「・・・。何かしら」

なんとなく、エリンにも彼これから話そうとしようしている内容が分かる。
もう家族だから。

「ずっと昔、お前に言った気持ちはまだ変わってない。
 形は全然変わったけどな。・・・家族として、これからも何があっても。ずっとだ」
s2-49 (108)
万が一誰かに聞かれてても平気なように、
そしてダイアナにも容易に口に出せないイアンは明確な言い方は避けながら伝える。
形は変わっても今も昔も愛している。
君の幸せを変わらず祈ってる。


「ありがとう。私もあのときに言えなかったけれど、私もあなたのことは大好きよ。
 昔は友達で・・・今はもちろん家族として」
s2-49 (110)
私もかつてあなたが望んでくれた形じゃないけれど、今も昔も愛してる。
あなたの幸せを変わらず祈ってる。

亜熱帯を再現した暖かな温室のどこかから入り込んだ風で木漏れ日が優しく揺れ、
エリンは美しく微笑んだ。

「でも安心した。あなた、ホント女の趣味悪かったから」
「なに?」
「自分の昔を振り返ってみなさい」
s2-49 (111)
それは勿論エリン自身のことすら含んでる。
イアンはニヤリと片頬を上げて堂々と宣言する。

「確かに昔はな」

全部ぜんぶ昔の話だ。
そしてその過去も、この現在も、未来も、自分は全てをダイアナに捧げている。






「げ。アンタ、髪伸ばしたの。最悪」
s2-49 (143)
そこへアデルが夫トムと共に到着。
第一声は祝いの言葉もなく言い放った。
新郎のイアンは、「うっせえ、おとなしく座れ」と言いつつ、直前のエリンの指摘の通りだと内心では苦笑する。

アデルの夫トム(あくまでアデルの連れ、として来た)とイアンの視線が静かにぶつかり、
まさか来ると思わなかったのでイアンの方から目礼する。
トムも笑顔はなかったが大人然として応えて、席についた。

と、金髪のエリンから明るく笑いかける。

「あら!あなたアデルね、素敵なドレス。私、あなたのファンなの。よろしく!ダイアナの義理の姉のエリンよ」
「・・・。それはどーも。こっちは旦那のトム」
s2-49 (144)
この日の招待客は、本当のダイアナとアレックスの関係を知っている、
もしくは知らせてもいいと思える範囲にとどめたのでエリンは堂々と名乗った。
ちなみに呼び捨てにアデルはカッチーンとしたものを醸し出すが、場が場だし相手がダイアナの義理姉なので堪えた。

「こんにちは、本日はおめでとうございます」とトム。
「ありがとうございます」と、エリン。

ふと。
エリンとトムは不思議とどっかで会った気がしないでもなかったが互いに勘違いかと流した。



一方で、アデルの到着でダイアナの甥ミシェルが壊れた。
s2-49 (142)
大興奮!と顔を真っ赤にして「アデルアデルアデルアデルアデル!うそうそうそうっそ!」と繰り返し、
小声で騒ぎ出すので「ミシェル、おだまりなさい」と呆れ顔のマーク。

「だって!マーク、アデルだよ!マジで来た!来た来た来た!アデルアデルアデルアデルアデル!」

幸いなのはアデル本人達が気づいてないことか。
とうとう容赦なくパッカーンとミシェルの母ジョゼットが頭をはたいた・・・が、ミシェルの興奮は収まらない。
そしてアンドリューが笑いかける。

「当日まで内緒だったんですけど、食事の席、隣がアデルさんですよ。だから静かにしてくださいね?」
「アンドリュー・・・僕、たぶん今日幸せすぎて死んじゃうかもしれないけど本望だよ」
s2-49 (145)
ミシェルはそれはそれは清らかな笑顔で、やっと黙った。
が、結婚式の日の縁起でもないジョークに母ジョゼットは、再びぺしっと彼の頭を叩いた。


遠くでは新婦ダイアナのヘアメイクをしにきていた美容師の”黄色”ことケンがアデルとの再会に騒ぎ始めていた。












花嫁介添え人たちが入場した後。s2-49 (131)
四重奏の綺麗な花嫁の入場曲が始まる。
参列者も一斉に立ち上がってバージンロードを振り向いて花嫁ダイアナを迎える。

イアンはデザイン画すら見せてもらってなかったので古くからの慣わしの通り、
この瞬間がイアンにとっても初見になる。



光の中で母マーガレットがベールを整える。
s2-49 (112)




ぱっとダイアナが顔をあげてイアンに笑いかけた瞬間
s2-49 (113)



呼吸を忘れる。
s2-49 (97)


ああ。
確かにこういう綺麗なもんは、綺麗なもんで包まなきゃいけないよな。


そう心から納得できるほど日差しの光にぽかりと輝いて、
浮き上がる非現実的な美しい白一色に包まれているダイアナに魂まで奪われる。
s2-49 (87)

その弾ける快活さのため、
ダイアナにこういう類の美しさが隠されていることをどれだけの人間が気づけていただろう?


一番知っていると自認していたイアンすらも戸惑うほど清らかに美しく、
新郎と同じように無意識の溜息があちこちで漏れた。



s2-49 (101)

ダイアナたっての希望で
花嫁の母マーガレットがエスコートとして手をかけると自然と拍手が起き、
母子はそろいの赤毛を輝かせながら笑顔で顔を見合わせた。


s2-49 (100)


最前列で見守るエリンが
感極まった溜息をつきながら夫アレックスの腕に寄りかかる。
その彼女の手をそっとアレックスも包み返しながら、妹の晴れ姿を見守った。


s2-49 (134)

逆側の最前列ではイアンの父ロビンが入場してくる新婦ダイアナから目を逸らし、
惚けて立ち尽くしてる息子にひっそりと微笑む。
亡き妻でありイアンの実母のいる天国に、その絵を送ってやるように目に焼き付けた。


s2-49 (114)
光と赤を従えて、
ダイアナはまっすぐ新郎イアンの元へと辿り着く。


マーガレットが微笑みかけ、

「イアン、改めてダイアナをよろしくね」
「・・・・」
s2-49 (132)
「・・・イアン?」
「! あ、 おう。ああ、その通りだよな。もちろん」

”その通りだよな?”
それは妙な相槌で、
ダイアナ母子は笑顔ながらも目だけで互いに見合わせる。
s2-49 (124)
祭壇に立って人前式を取り仕切るは、
彼らの”息子”シムボット・アンドリュー。




s2-49 (130)
最前列でエリンの隣の席を1人分だけ・・・亡きウィリアムの分を空けながら、
アレックスとエリンは新しい家族を見守る。
妹と知らずに出会ったあの少女は強く、美しくなった。
白い晴れ姿の新郎新婦に目を細めながらアレックスは見守る。



s2-49 (128)
ミシェルは考える。
父ウィリアムが事故で亡くなったために自分の親達は結婚しないままだったけれど、
自分の母親ジョゼットはいま辛くないのかなと。
いつもお軽く笑顔の母を想って、彼は少しだけセンチメンタルな気分になった。

・・・・・あと後ろの席のアデルが超気になる。





s2-49 (129)
南の島でも夫のトムはダイアナ達と交流なぞしてない・・・当然戻ってからもだ。
それでも今日やってきたのは妻のためが大きい。
トム曰く、「個人的な好き嫌いは別として、自分の妻を同伴者なしで出席させる程度の甲斐性じゃない」、だそうだ。
ちなみに。
そこに若干のイアンへの対抗心があることはアデルは分かってない。




s2-49 (126)
結婚式に出るのは初めてじゃないが、
雪女などと呼ばれる佐藤真紀子でも感動するものは感動する。
ぐす、と目を赤くして潤ませている彼女のようすに気づいて、そのギャップに”黄色”ことケンは顔を緩ませた。




s2-49 (127)
マークとしては「やれやっと片付いたわね」という心持ちで、ついつい素直な笑顔で見守った。
対してレインはじっとは新郎新婦たちを見守りながらも、ついつい自分達の将来の挙式に思いを馳せてしまう。
ちなみに。
アンドリューにあれだけお膳立てされたにもかかわらず。彼と婚約者サニーは結局まだキスもできてない。
彼らの歩みは鈍い亀のように、まだまだゆっくりゆっくり進んでく。





s2-49 (120)
かつてタラ教授だけが唯一直接ダイアナにイアンとの関係を苦言を呈したが、ダイアナはまさかの方法で解決を図った。
異母兄アレックスと養子縁組というのは実母からすれば納得するのは難しかったろうが、
今のマーガレットが新婦の母として微笑んでいることに心から安心する。
タラ教授が抱えた想いは隠したまま。
かつてイアンにもそうすべきじゃないかと迫ったとおり、━━━━ 距離を置き。
マーガレットの幸せを乱さぬよう、見守るだけだ。





イアンの父ロビンが笑顔のまま息子の顔を見つつ呟いた。
s2-49 (125)
「やれやれ。どうなるかな」
「? なあに?」と、彼の同伴者の恋人テレサが尋ね返す。
「見てればいい」




そしてアンドリューに促されるとおり返事をする場面は問題なかったが
新郎新婦が初めて能動的になる指輪の交換の場面で━━━━ 

「イアンこっち、右手。右手」

こそっと言葉で教えたにもかかわらず一瞬イアンがギッと固まって、参列客から密かな笑いがもれる。
すかさずダイアナは自分の左薬指を揺らしてあげながら、
「この指この指」と囁いて、やっとイアンが動いた。
s2-49 (122)
瞬間「んぐふっ」と最前列のエリン、アレックス、イアンの父ロビンなどなど、新婦ダイアナを除いた全員が肩を震わせる。
これは神聖な儀式なのだと各々が自身に言い聞かせて何とか笑いを飲み込んだ。

『うそだろ、イアン。』

そんな一同の心の声が聞こえてきそうだ。

当の花嫁ダイアナは心配顔どころか優しい目のまま、そんなイアンを見守る。
人前でこんな様子のイアンなど見るのはダイアナも始めてだ。
そんな様子、きっと見たことあるのなんて彼の子供の頃を唯一知ってるイアンの父くらいかもしれない。
ダイアナは「だいじょぶ、だいじょぶ。大したことナイナイ」という気持ちをこめて平然と微笑み続けた。

「それでは最後に、新郎新婦での誓いの言葉を。
 まずは新郎であるイアン・グレンツから新婦ダイアナ・ヨーク・グレンツに述べてください」
s2-49 (115)
と、たっぷり10秒くらいの沈黙。
イアンは何とか脳から搾り出そうと思ったがダイアナを見たときから頭は真っ白のままだ。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

用意した文言は覚えたはずなのに消し飛んだ。

じゃあアドリブでいつものように完璧なものを・・・と考えようとするが、思い浮かぶのは陳腐な物言いばかり。
それでもいいかと言おうとするが、
このダイアナに対してありきたりな言葉なんかやれないとプライドも相まって、ますます言葉に詰まる。


「ダイアナ」
s2-49 (136)

「うん。なあに?」
s2-49 (123)

「・・・・・・」
「・・・・・・」



「あー・・・・・━━━━・・・・・・・・・・・・・・」


イアンが呻いて、
さらに数秒。



「悪い、全ッ部忘れた!」

完璧のはずだったイアンが空を仰いぎながら言い放った瞬間、ダイアナも含めて皆が爆笑した。
当のイアンすら宣言した後で一緒になって大笑いする。

「しょうがねえだろ、嫁が綺麗すぎてマジで忘れた!!まいった、何言っていいか分っかんねえ!」
s2-49 (117)

イアンの最上の褒め言葉の弱音は、会場中に大好評で笑いが伴った拍手が起きる。
なんともめでたい、素晴らしいと思うと同時に、
いつもいつもいつもいっつも誰に対しても偉そうだった彼のその敗北宣言に心のどこかがスカッともする。
s2-49 (135)
ざまあみろ、イアン!そして、よくぞやってくれた、ダイアナ!

こうして互いの捧げる言葉は結局うやむやになってしまったが、
新郎新婦の弾ける笑顔に異議を唱えるものなんているわけがない。
笑顔のアンドリューが尋ねる。

「じゃあイアンさん、とにかく、この素晴らしい花嫁にキスを。それなら大丈夫ですよね?」
「それなら任せとけ!」

イアンは子供のように笑ったかと思うと、
それはそれは非常に素晴らしい滑らかさでダイアナを抱えてキスを捧げる。

s2-49 (119)


同時にアンドリューが高らかに宣言した。


「もうすでに立会人の皆様にご承認の拍手はもらっちゃったので、僕から改めてご紹介します!
 グレンツ夫妻です!」
s2-49 (121)


s2-49 (118)











それから、ダイアナのウェディングノートに書かれた夢の通りにパーティーは進んだ。
s2-49 (138)
『花嫁介添え人はリズ❤』  ━━━━ ここには『サニーちゃんも❤』と書き足された。
『真っ白な綺麗なドレスを選ぶこと』
『ベールは引きずるやつにする』
『結婚式では絶対髪を伸ばす!』
『食事のメニューに海老を絶対入れる!(おっきいやつ)』

そして子供の頃から当たり前にしてもらおうと一番おもっていたこと。

『ママに歌ってもらって旦那様と踊る』
s2-49 (137)
いまでもむかしでも、変わらず母マーガレットがダイアナにとっては一番の歌手だ。
ダンス、というよりも抱き合って若干揺れてるように新郎新婦が踊る。
今日ダイアナだけはさっき緊張してグダついたイアンをからかわないので、イアンはこういうことも素直に言える。

「決めらんなくってごめんな。アレ以外は完璧だったのにな。・・・やっぱリハーサルやるべきだったな」
「気にしないでいいよ。すごく楽しかったし、うれしかったし。あれもアリだもん」
s2-49 (141)
イアンとしてはちゃんとした言葉を用意してたのだ。
思い出と想いとを、こういうときぐらい人前で表明しようとしてたのに・・・・
ひっそり落ち込んでる弱いイアンの部分を、ダイアナだけがいまでも優しく包んでいる。

結局、
最後の最後に行き着くダイアナに捧げたい言葉はひとつしかない。
他の誰にも唇の動きですら分からないように、その言葉をそっと耳元で囁く。

「愛してる」
s2-49 (140)
「・・・ちゃんと言うの、イアン初めてだね?」
「お前が寝てるときに実は言ってるよ」
「知らなかった!」

実は時々寝たふりをしてたので知ってるが、それはダイアナだけのひみつ。

「愛してるよ、イアン」
「知ってる。お前、自分で隠せてると思ってたのか?」

かつてのダイアナの誕生日プロムで言ったときと同じ言葉でイアンは笑い、頭を摺り寄せる。
昔イアンはどんなに演技と嘘を重ねていても、決してダイアナへの気持ちについてだけは嘘は言っていなかった。
s2-49 (139)
頭のいい、やさしいひと。
一つ一つの思い出がめぐるたびに、ダイアナの景色が歪んだ。








後日、イアン夫妻はエリンたちの家の改築祝いにやってきた。
名画探しの旅だと各地を周遊している間に建て替えた、出来立てほやほやのエリンとアレックスの家。
そいつを見上げてイアンがひとこと。

「アレックスお前、”こじんまり”としたモンにするっつってなかったか」
「? してるだろ。モータープールもないし」
「一度お前は辞書で意味をちゃんと調べろ」
s2-49 (146)
ビーチ沿いの狭い土地ゆえモータープールはないが
正面にはいかにも豪奢な印象を植え付ける太い柱が真っ白な壁にずどんずどんとそびえ立ってる。

でも首都ブリッジポートにとんでもない所領と数々の屋敷を持っている『元公爵様』アレックスは認めない。
ちゃんと家族が集うべきリビングは1つ、ダイニングも1つ。キッチンは使い慣れた元のセッティングを踏襲。
玄関ホールに広がる大階段や、○○の間というような無目的の部屋もない。
あくまでこじんまりなのだ。
s2-49 (158)
「エリンの薔薇はそのまま移動したんだけれど庭も控えめにしたんだ。ちょっと隠れ家っぽいだろう?」と、アレックス。
「どこの何が隠れてんだ」
「・・・・。こじんまりしてるだろ」
「だから。全ッ然してねえよ」

してる、してないと子供のようにイアンとアレックスが言い合い始め、ダイアナが「んもー!」と止める。
アレックスは解説を再開した。

「そもそも前の間取りは元々エリンが一人で暮らすために建てたものだったんだよ。
 書斎もなかったし、ダイアナも居た頃はアンドリューの部屋も地下になっちゃって2人も手狭には感じてただろう?
 将来的に子供部屋もいくつができるように部屋数も増やしたんだよ」
s2-49 (149)

「・・・。僕は別に・・・」と、アンドリュー。
「・・・。あれが一人暮らし用で、手狭ねえ・・・」と、ダイアナ。
「・・・・・・」もはや言葉がでないイアン。
s2-49 (150)

そのまま振り向き、
ダイアナとアンドリューに向けて『ほらな』とわざとらしく目を剥くしぐさを見せ、
彼らはただただ苦笑い。

「でも私たちが色々行っている間にね、お隣のおばあさんが引っ越しちゃったの。仲良くしてたのに寂しいわ」とエリン。
「そうだね」

そんな豪奢な真っ白なお屋敷の隣には以前あった懐かしい香りの屋敷はなく、
代わりにやはり真新しい工事したての家が。
s2-49 (157)
エリンは寂しい気持ちのまま溜息をつく。

「次のひと、どんなひとなのかしら。私たちが帰ったらコレがあるんだもの」
「・・・・。仲良くなれるといいね。エリンは前いたおばあさんと仲良かったから」

「工事の人に訊いても、みーんな笑って『守秘義務なんで』とか言って『まあ、お金持ちですよ』くらいしか教えてくれないのよ。
 そりゃそうだろうけど、名前くらい言ってくれたっていいのに。いじわるなのよ!」
s2-49 (151)
エリンが完璧な金髪を輝かせて満面の笑顔で訊いたのに、こっそりすら教えてくれなかった。
独身の頃なら、もうちょっとグイグイ訊くのも攻め込めたのにという悔しさもある。

「どうせ変なひとが来るに決まってるわ、何が守秘義務よ」
「悪かったな、変な奴で」

イアンが腕組みをしながら言い放つと彼女は目を丸め、アレックスはその様子に頬を緩める。
妻エリンには伏せていたものの次の隣人の調査はきっちりしていたアレックスも、
ひそかにイアン夫妻の共犯だ。

「サプラーイズ!というわけで来週からよろしくね~~っていう今日はご挨拶でした!」
「やっとビーチ沿いの土地が空いたと思ったら、生憎ここしかねえんだよ。イヤならてめえが引っ越せ」
s2-49 (152)
隣にイアン達が引っ越してくると分かった瞬間、
ぱああ、とエリンの顔が輝いてアレックスに嬉しそうに笑いかける。

「ほーら!やっっぱり変なひとたちよ、アレックス!」
「うん。奥さんは流石だね。確かにその通りだ」
s2-49 (153)
「お前が言うか、それを」

アレックスとイアンはそのあとチクチクと言い合う。
一方で奥様同士は幸せいっぱい。
s2-49 (154)
「お隣なんて嬉しいわ、ダイアナ!」
「あたしもだよ、エリン!」

ダイアナとエリンがぎゅうぎゅうと抱き合ってるのを見て、
イアンは家族に囲まれる幸せをかみ締める。
するとアレックスも同じことを考えたのか、「皆が揃うなんて幸せだなあ」などと平然と口に出す。
s2-49 (156)

「はあ?何言ってんだお前」
s2-49 (155)
イアンはバカにしたようにニヤリ笑う。
この俺はそんな軟弱なことは易々と口には出さないのだ━━━━ もちろん、あとでダイアナにだけは聞いてもらうが。





その後、イアン達の転居もすみ、
『新婚のオーナー達のお邪魔ですから』などと言っていたアンドリューも、ようやくこの新居で同居となる。
荷解きまでプロに頼んで、最後に自分達がするのはプライベートな物たちの収納だけ。

数時間もかからない引越し作業を鼻歌交じりにしているダイアナの傍らで、
暇してたイアンはダイアナのウェディングノートを見つけた。
s2-50 (1)
「ほー、お前こういうのちゃんと作ってたんだな」
「んっ?」

新婦のご準備といえば新郎はまだ見ちゃダメ、が合言葉のようなものだったので、
イアンはこんな花嫁様のマル秘ノートなど見せてもらってない。
s2-50 (2)
「こっちの分は俺はしまうついでに、せっかくだし見ておくか」
「イアン、だめ!だめ、それはイアンはダメ!」

ダイアナが甲高い声で絶対拒否するのに、ぴんときた。

「やだ、見る。もう終わったんだしネタバレ解禁だろ」
「ダメダメダメダメ!絶対だめだって、ば!」

なぜだか必死なダイアナが本気で止めようと駆けて来たのをイアンは簡単に避けて、ページを捲る。
随所の糊付けの感じから、最近作られた感じがしない。
s2-50 (3)
『花嫁介添え人はリズ❤』の手書きの文字に、
ページの隙間に違うペンで”サニーちゃんも❤”と付け足されてる箇所でイアンは気づく。

「ああ!コレお前ガキのころ作っただろ!
 おー、やっぱそうだ。これエリンのときにそういやパンフで見たの覚える。すっげでっけえスカートのドレス!」

「やだやだやだ、やだ━━━━!!イアンのガキ!」
「ガキで結構。ほほーう、可愛いことしてんなあ。すっげチマチマ飾ってやんの」
s2-50 (5)
結構な本気具合でダイアナが体当たりしてくる。
が、それにますます「何かある」と確信とともに、イアンはバラバラバラっとページを捲る。
髪伸ばすだとか、母マーガレットに歌ってもらうとか少女ダイアナの夢が綴られていて、
その通りに妻ダイアナが実行したのが分かった。

そして、とうとう中に挟んでいた1枚の写真を見つられてしまい、ダイアナは抵抗を諦める。
出てきた写真は、昔のイアンとダイアナの2ショット写真。
少女の夢のウェディングノートにさすがに貼りはしないが、挟んでいるだけで”理想の旦那様❤”を夢見てたのがわかる。

2人してベッドに転がった。

「なるほど。こいつにコレ挟んでたからか」
「やっだもー・・・んも~~~・・・・・ほんっとあたし痛い・・・・」
「なんでだよ。いい思い出だろ。絶対とっとけよ。パンプキン」
s2-50 (6)
そしてイアンが慰めとお詫びと誤魔化しでキスをしても効果はなかった。
ダイアナの恥ずかしさが消化されるまで、
んもーんもーと牛のように唸る彼女を眺めながら長い赤毛を指に絡めて遊んだ。

「ダイアナ、この写真なんで飾らんねえんだ?」
s2-50 (7)

「・・・あたし、子供なんだもん。なんか、イアンがイヤかなって」
s2-50 (8)
まあ、確かにダイアナの言わんとしてる事は分かる。
大切な思い出ではあるが・・・・

「確かにこいつを寝室で見るのはアレか。純粋だった頃のお前の目が、さすがに心に痛いな」
「でしょー!?」
「俺としても、まだまだ『このダイアナ』には赤ちゃんはコウノトリが運んでくるとかユニコーンを信じてて欲しいしな。
 さすがに見せられねえな」

最高にわざとらしく、古い写真の少女の自分について語る夫イアンにダイアナはあっはっはと明るく笑う。
ユニコーンなんて信じたことなんか一度もないし、コウノトリなんて!

ダイアナは笑顔のまま、イアンに擦り寄った。
s2-50 (9)
「大丈夫。あたしの”イアン兄ちゃん”はいつでもカッコよくって完璧だから❤」

常時そう呼ばれるのはかなり危ないが、かなり久しぶりのその呼び方はイアンにはなかなか来るものがあった。
一瞬グラっとしたであろう、
そんなイアンの挙動は見逃さないダイアナは誘うようにイアンの頭皮に人差し指をかすかに這わせて囁く。

「それで?・・・片付けはどうする?」
s2-50 (10)


「んなもん、どうでもいい」
s2-50 (4)

当然イアンの回答も分かりきってるダイアナは微笑み、
イアンと同時に近づいて唇を重ねた。









昔の彼は、少女の夢そのものだった。
s2-50 (11)
白のタキシードなんか着ないと思っていた頃のイアンと、赤いショートカットの少女のダイアナ。
昔むかし、エリンの結婚式のときに撮ったものだ。
新婦のエリンからブーケを渡されたのが夜で、
飾りつけされた屋外では綺麗に撮影することも出来ないからとムードもなく当時のエリン達の家のキッチンで撮ったの覚えてる。


そしてこの写真から数週間後に、イアンは未来からやって来たダイアナに恋に落ちた。

                           <最終話 ダイアナのウェディングノート Diana and Ian>




























「信じられない」
s2-50 (13)
イアン達が新居の片付けをしてる(実際はもうしてないで別なことを始めたが)一方で、ぶすっとテレビを睨んででるのはエリン。
ひとよりも複雑な人生を歩んできていた彼女は、
当時を過ごしなおしてるかのように少し古めのドラマを今更ながら観るのが趣味の1つになっている。

「どうしたの?録画されてなかった?」
「私が観てたやつがね、今度待望の新シーズンやるっていうから楽しみにしてたの!でも世代が変わって全員違うキャストなのよ」
「そう・・・・」

彼女が観ていたドラマはもう20年前の若者の恋愛ドラマものだったし、
同じキャストでは無理だろうというのはアレックスとしては納得がいくのだが妻エリンはそうではないらしい。

「続きだと思って楽しみにしてたのに!なによ、こんなの!」
s2-50 (14)
女王様は高らかに言い放ち、立ち上がってしまった。
いまやイアンの美術館を開くため一応"雇われの身”の彼女にとって、これは貴重な貴重な休日の楽しみだったのに!
そしてエリンはさっさと腰を上げて出て行ってしまうので、
夫アレックスは微笑ましいやら可笑しいやら。

「・・・・まあ。そういう考えもあるかもしれないけどね」
s2-50 (15)





今は隣人となったアンドリューは、
エリンが育てたラベンダーをお裾分けでいただこうと作業中。
s2-50 (16)
それを横目で見て、彼にも愚痴ろうかしらと考えていたエリン。
一番最初に異変に気づいたのは彼女となった。

「・・・・?」
s2-50 (17)
最初は風に葉が揺れる音だと思ったのに、地面の敷石もカタカタカタと揺れている。
沿岸部での地震となると警報がなるはずだし、それよりもシムボット・アンドリューが最初に気づくはずだ。

「アンドリュー!いま、地震!揺れてるわよね?!」
「え!?ぜんぜん、揺れてないです」

いまやアンドリューは集音機能も人間と同程度にしてるので、敷石が立てている小さな音には言われるまで気づかなかった。
が、エリンの目線の先で物が細かにカタついているのが分かって作業道具を置く。
はたと気がついてエリンは目を凝らす。地震じゃない。
ちょうど球体のかたちをしている、ごくごく一部の空間の内部だけが揺れてるのだ。

「ここだけ揺れてる、みたいね」
「まさか!・・・オーナー!オーナー!!」
s2-50 (18)
アンドリューには文字通り光の速度で状況分析を電子脳内で開始しながらエリンへと走り寄る。
さらに家の中のダイアナに向かって大声で呼びかけると共に、さらに電話でも呼んだ。

そんななかアレックスが庭先へ出きて同じような異変に気づき、さっとエリンを庇うように立つ。

「・・・離れた方がいい、エリン。アンドリューも」
「それより・・・アンドリュー、これは・・・なに?」
s2-50 (19)
球体の揺れ続けてる空間、およそ直径3m。
たぶん、そろそろ『来る』

「オーナー!」

再度ダイアナを呼ぶ。
引越しの片付けしてるはずなのに、どうしてこんなに遅いんだろうと思っていたところで
やっとダイアナが「アンドリュー、どうしたの!?」とテラスから顔を出した。
s2-50 (20)




瞬間、音もなくそれは現れた。
ちょっとだけ地面から浮いていたので一瞬たってソレはごとん、と地面に落ちる。
s2-50 (23)
金属のような見た目なのに、相当に軽い音。
急に驚れた物体にエリンは「きゃっ」とアレックスに寄り、
アレックスも目を丸めて彼女をさらに引き寄せる。



音もなく、何もないところに突然ありもしないものが降って湧く。
あのヘンテコな物体に見覚えはないが、
この現象には見覚えがあるイアンが一番驚いた。

「・・・・!!」
s2-50 (22)
現実に目の前で時間を超えてきたもの━━かつてのダイアナ━━を見たことがあるのは、イアンただひとり。
ビックリ仰天してるダイアナが尋ねる前に、
イアンは彼女を抱え上げる勢いで現場へと連れて走った。





ダイアナが作った旧式のときとは全く違う。
あのときはこんなヘンテコな物体なんざ現れず、ダイアナ自身がフッと現れただけだ。
当然ながら一番興味津々なのはダイアナで、アンドリューに危険な数値がないか確認するとすぐに近寄った・・・が
イアンが「待て待て待て」と、犬の飼い主のように大興奮の彼女を止める。

瞬間まばゆい光が弾け━━━━同時にギャアギャアとした複数の叫び声やら止める声やらも弾けた。

「信じらんない!順番あたしって言ったでしょ、ラフィ、どいてよ、バカ!」
「あー、見える見える。すごいなあ。庭の木とか超小さいよ、レオ」
「ちょっとっ!下ろしなさいよ、このエロラフィ!!」
s2-50 (28)
「もうちょっとだけ。レオ、面白いよ。すぐ目の前にダイアナがいる。なんか、若くてかわいい」
「ラフィちゃん!だめです、ダニエルちゃんを放しなさい!順番抜かしです!めッ!ラフィちゃん、めッ!」

「うるさいなあ、ちょっと見たかっただけだろ。暴れるとパンツ見えるよ、ダニエル。それとも見ていい?」
「や━━━━!! レオレオレオ、どうにかして━━━━!!!」

突然の超常現象に驚いてたところに、このやかましさにも驚いた。
と、「ダニエルが先って決めただろ。お前は2番、ジュアが3番、俺が最後。ちゃんと守れ」と呆れきった声とともに
新たな男の手が現れて、派手なサングラスをした金髪の青年の頭を掴んで無理矢理引っ込ませた。

大騒ぎの声は止まず、まずダニエルと呼ばれていた茶髪の彼女がひらりと着地する。
しっかりボインボインと十二分に揺らしながら「到ぉ着~!」と可愛らしくターンを決め、お目当てのイアンにまずアピール。

「若くってかっこいい~❤でもでもでも!あたしも可愛くってびっくり、ってカンジでしょ?!」
s2-50 (35)
かっきりとした眉、健康的で贅沢な小麦色に焼けた肌・・・・ しかもイアンにまず甘えた声で話しかける彼女ダニエル。
皆が皆、口をぽかんと開ける。
そうしてる間に、順番と言っていた通りに1人2人、
そして3人がヘンテコな物体の中央・・・・何もない場所からどんどん現れた。

特に全員が注目したのは、最後に現れた紫色の髪でありながら緑色の瞳の青年。
自分に視線が注目してるのが分かると、すこしだけはにかむ。
その微笑み方も素晴らしく誰かさんに似ていて、エリンは胸に手を当てて溜息すらついた。
そんな彼女に紫髪の青年が決定的な言葉をかけた。

「驚かせてごめん。コレ使うの初めてだったんだけど、母さんも父さんも皆大丈夫だった?」
s2-50 (29)
「あっ・・・・ やっぱり、”あなた”、そうなのね・・・・?」

エリンに紫髪の青年がちょっと頷いて、彼女は突然のこの事態への戸惑いも吹っ飛んで笑みをみるみる深めてゆく。
さらにラフィと呼ばれていた派手なサングラスの金髪の青年も続いた。

「っていうかレオ一人じゃないよ、母さん。まったく・・・・皆がうるさいから俺喉かわいちゃった。お茶が飲みたいな」
s2-50 (33)
兄弟?もしかして双子なのかしら!

「すごい・・・会えて嬉しいわ!!」

母であるエリンがそんな喜びを爆発させても、彼らの”父親”アレックスは石のように固まったままである。
そして長い茶髪のダニエルが短いスカートを揺らして、場を立て直すようにパンパンと手を叩く。

「さって!まずは自己紹介が必要ってカンジだよね。とりあえずここじゃなんだから、アレックスの家の中に入ろ?
 ダイニングだと椅子足りないから、そこのソファでね。順番抜かしでズルっこしたラフィがお茶淹れること!」
「・・・・なんで俺が淹れなきゃいけないんだよ。レオか父さんがしてくれるからいいだろ」
「このあたしが言ってるんだから決定事項なの!大体コレは罰なんだから逆らわないで。やるの!」
「・・・・。ゴーマン女

小さく毒づいたラフィの言葉は聞こえてるのか聞こえてないのか。

「それじゃ、はいろぉ?」s2-50 (31)
茶髪のダニエルは『誰かさんソックリ』の仕切り屋かつ傲慢ぶりを発揮したうえで、猫なで声で大人たちに甘えても見せた。
これは相当に甘やかされて育てられたに違いない。

エリンは喜びで、イアンとアレックスとアンドリューは驚きで動けない。
・・・・ただ一人を除いて。




「すっご━━━━い!あたしのやつ1人しか飛ばせなかったのに!」
s2-50 (12)
自分達の子世代が未来からやってきたと理解したダイアナは、
驚きもあったが何よりもタイムマシンに釘付けになってしまっていた。


→Season3 へつづく





第49話 ダイアナのウェディングノートⅠ Diana and Ian

←第48話



毎週決まった曜日のこの時間は、レインと婚約者サニーがそろって講義がない。
素直な感情表現が非常に苦手な彼の口に勝って雄弁なもの。
s2-49.jpg
玄人はだしの腕前で彼の奥底にある優しい音がまったりと出る。
演奏の途中、現れたアンドリューに横目で気づきながらも曲を終えたレインは尋ねた。

「・・・お前、まだ髪のこと怒ってるのか?」
「怒ってないです」
「~~~~~~~。兵役が終わったら戻すよ!」
「もう僕には関係ないです」

アンドリューはぶすっとした声で長めの前髪を揺らす。
国の兵役義務のため10ヶ月だけサンセットバレーを離れることになったレイン。
規則で入隊前に髪を短くしたが、それががっつりアンドリューと同じだったためアンドリューは髪型を変えた。
s2-49 (4)
「・・・・アンドリューお前、俺のこと嫌いなんだろ。なんでよく来るんだよ?」
「別にレインさんに用があるわけじゃないですよ。そんなことも分からないんですか」
「!」
s2-49 (54)
初めて理解してレインは、さっと顔色を変えた。こんな風に正面からサニーをめぐる修羅場なぞくぐったことなんかない。
そのうえ来週レインだけ帰国するのだからたまったものではない。

「そ・・・。 ・・・・それで、お前あいつにどうする気だよ!?」
「レインさんは何をされたら嫌ですか?」
s2-49 (53)
ばちと両者の目がぶつかったところで、アンドリューはわざと言葉を止める。
そしてタイミングを計って切り出した。

「まあ・・・レインさんはサニーさんのこと、どうでもいいと思ってそうですけど。いつも怒ってますもんね」
「どっ・・・どうとでもなんて思ってるわけないだろ!」
「へえ、そうですか?僕にはあなたに愛情があるようには見えませんけど」

アンドリューに煽られて、カーッと血がのぼる。

「好きじゃなかったら婚約なんか誰がするかよ!お前・・・・サニーを困らせるようなことしたら絶対許さないからな!」
「国に帰っちゃうのに何が出来るんですか」
「そんなのどうでもいい!サニーのためなら何があろうが帰って来るに決まってんだろ!何かしたらすぐ戻るからな!」
s2-49 (7)
なんてバカらしいほど単純なんだろう。
でも、そのくらい言ってもらわないと僕だって困る。

「・・・・じゃ、僕はもう用も済んだので行きまーす。レインさん、訓練気をつけてくださいね」
「! な、おい!お前どういうつもりだよ!話はまだ終わってない」

アンドリューは片眉をあげて口笛を吹きながら、彼の背後を指差した。
そこに立ってるのは、もちろん・・・・・
s2-49 (9)
真っ赤という表現じゃ生ぬるいほど赤面したサニーが立ち竦んでる。
大声で大告白したのを聞かれたレインも同じようにレインもボッと染め上がった。

「サッ・・・・・ サニ、サ・・・な、な、な・・・・」
s2-49 (11)
ざまあみろと思いながらアンドリューはひそっと彼に耳打ちする。

「ひっかかりましたね、レインさん。僕からの餞別です。次からはひとの助けなしで言えるようになるといいいですね?」
「おま、おおま。おま・・・・おまおまおま」
「あとですね。ここまでお膳立てされておいて長いお別れ前にキスの1つもできないなら本当に僕がもらっちゃいますからね」
s2-49 (13)
あまりのことにレインは口をぱくぱく、言い返せもしない。
アンドリューが囁いた内容までは聞こえてないが、
先ほどのレインの告白はアンドリューの目論見通りサニーの耳にちゃんと届いてる。

「お邪魔なんで僕は行きます。さようなら、サニーさん」
「は、はい。あの、あのあの、あの・・・ごきげん、あの・・・」
s2-49 (10)
真っ赤になりながらも挨拶をしようとしパニックでできないらしいサニーに笑いかけ、アンドリューはその場を去った。
レインが彼女に近寄ったようだが、そのあとに彼らがどうしたのかまで見届ける気はない。

・・・・アンドリューはサニーに恋に落ちた瞬間を思い出す。

『あの、あの・・・資料で拝見して、本当に素晴らしい内容で・・・・こうしてお会いできるのを、
 とっても楽しみにしておりましたわ』

初対面でも礼儀正しく、シムボットのアンドリューに向かって"会う"という物言いをしてくれたひとは初めてで、
彼はそれだけで恋に落ちた。







「ありゃまー・・・・だからカレシもちは止めろって言ったじゃーん」
「止められたら、もっと早くやめてました・・・」
s2-49 (15)
彼女は涙目の可愛いアンドリューを、やれやれと見つめる。
涙を流してメソメソする男は気持ち悪いのに、
我慢しきれずにこんな場所で座ってしまうような少年の色が残っているアンドリューは超カワイイ。

「ここじゃあなんだから、アタシの部屋おいで。飲もう飲もう」
「僕、のめないです・・・」
「酔ったフリぐらいすればいいでしょ、ほら行こ」
s2-49 (16)





で、気づいたら。

「あの、マリアさん!?」
「慰めて欲しいんでしょ、アンドリュー。男の子には、これがいちばーん」
s2-49 (17)
彼女が何をしようとしてるのかが分かってアンドリューはぶっとんだ。
目を白黒させながら、

「あの!まだ僕失恋して1日すら経ってないし、僕まだ」
「ちょっとぉ!こういう場面になってまで他の女のこと、フツウ言うぅー!?」

アンドリューにマウントをとったまま、
彼女は躊躇なく服を豪快に脱いでは床に投げ捨てる。
”親”以外の女性のナマの半裸を見たことなんてないアンドリューはあわわと真っ赤になる。
しかもこんな至近距離で。
そして体重と柔らかさを押し付けながらにっこり。

「ダメぇ?」
s2-49 (21)
「いやいや、あの・・・僕その、こういうのは、そもそもですね、あの」
「やん、初めて?マジカワイイ~❤ いいよ、いいよ、全然あたし気にしないもーん」
そうじゃなくってですね!

力で負けるわけないと、痛がらせないようにしながら上半身を起こして頬を染めたアンドリューは
彼女・・・マリアに言う。

「イヤじゃないんですか。僕のこと・・・僕がなんなのか知ってるじゃないですか」
s2-49 (20)
「えー?そりゃ知ってるけど、フツーの男の子にしか見えないんだもん。だから、あたしもフツーにこうしてるだけ」

マリアの言葉にぎくりとした。
してることは清純なサニーと真逆なのに、くれてる言葉はほぼ同じ。
別にシムボットとしてモノとして扱われても彼は傷つかないが、こうやって優しく包まれると簡単に揺らいだ。
恋で傷ついた心の隙間に、彼女の温かさは簡単に潜り込んでくる。

s2-49 (19)
彼女は起き上がって、戸惑いながらも目が離せないアンドリューをくすりと笑う。

「失恋して泣きそうになっちゃって、女の子に押し倒されてドキドキしてってさ。どこが違うの?」
「・・・あの・・・僕のこと好き、なんですか?」

「好きだよ、嫌いなヤツとは流石にしない。でも恋とは違うかな?っていうか、この歳でそこまでマジになる必要ある?」
「とっ、・・・とんでもないですね・・・!」
「ま!そこらへんは、まずはしてみてから考えよ」


再三「女にはくれぐれも気をつけろ」などとイアンに言われていたのに、
教訓というものは実体験からでないと効果がないらしい。



s2-49 (22)
こうして、アンドリューとこのマリアとの関係はこれからズルズルズルと・・・・続くこととなる。









ダイアナとイアンの生活は、アレックスと養子縁組したという発表を機に嘘のように静まり返った。
そしてやっとダイアナは赤ちゃんが生まれたばかりの親友リズの家を訪れることが出来るようになる。

ダイアナもサニーもふっくらしてきた赤ちゃんにメロメロ。
リズと庸一の赤ちゃんは無事に産まれ、名前は桜の子と書いて『さくらこ』となった。
s2-49 (27)
「しゃくらこちゃ~~~ん❤きゃわいいね~、きゃわきゃわぷにしゃんだね~~、ダイアナねーたんだよ~~~」
「何だソレ」
「桜子ちゃん、もうもう・・・本当なんて可愛らしいんでしょう。ほっぺたがふわふわ」

大学中退の庸一とリズながらベビー用品は飾り付け用まで完璧に揃ってる。
知り合いで初めての赤ちゃんだということで、
親友ダイアナとサニーを始め、みんなが大フィーバーして”お祝い”と称して全部揃ってしまった。
イアンと結婚して、アレックスとの記者会見に、リズは出産育児、サニーは試験と、3人が直接会うのは4ヶ月ぶり。
s2-49 (26)
そしてリズが用意しておいたのは1冊のスクラップブック。
表紙から切り抜いた花やレースの柄が飛んでる、なんとも少女趣味全開のもの。

「これ。あたしが預かってた”ダイアナのウェディングノート”」と、リズ。
「可愛らしくて素敵ですわ。ダイアナちゃん、もう作ってらっしゃったのですか?」と、サニーはおっとり尋ねる。

「あっは!違うよ、なつかしいな~~~!これはねー。エリンの結婚式のとき自分の作りたくなっちゃって、
 すっごい好き勝手なこと色々書いた子供のときのやつ!」

当時エリンが使い終わったウェディング雑誌を少女のダイアナは大喜びでもらって、
乙女の暴走のまま「自分の結婚式はこうしたい」とまとめて遊んだ。
s2-49 (23)
古くなっているスクラップブックをめくるとパリパリと音を立て、アレックス達の結婚式からの時間を感じる。
式はしてないとはいえダイアナもリズも世間より早く、結婚してる歳になったのだ。

眠っている桜子を気遣って3人娘は静かにくすくす笑って盛り上がる。

「おもしろーい。今見るとやっぱ好み変わってる。こんなヒラッヒラのとか、あんまり着たくないもん」
「でもシュークリームのようにまんまるで可愛らしいドレスですわ」
「サニーちゃん、こういうのすき?」

「これこれ、何を訊いちゃってんのさ。サニーちゃんは、レインちゃまに贈ってもらうドレスで決まってっから!」
「まあ、リズちゃんたら・・・リズちゃんには、ふわふわしたのがお似合いですわ。庸一さんの仰っていた通り」
s2-49 (30)
ダイアナの誕生日プロムの庸一スピーチは、リズにとっての黒歴史。
サニーが意外なツッコミをみせたのでリズは恥ずかしさで口を歪める。

「ヤダ。ドレス着て人前でとかアタシ好きじゃないし。まずはチビの世話しなきゃだしさ」と、目にクマがくっきりのリズ。

庸一とリズも桜子が産まれる前に結婚の書類手続きは済ませてる。
彼らの身内たちは新しい命を好意的に迎えているが若すぎる彼らにはまだまだ心配顔ばかりだ。

そこでタイミングを図っていたリズが口火を切った。

「ダイアナ。アンタさ、会ったんでしょ。お父さんに」
「いかがでした?ダイアナちゃん」
「・・・・アレックスとブリッジポートに行ったときにね。アレックスが当主だけど、やっぱり挨拶はしないとだったから」
s2-49 (32)
それまで直接会ったことなかった実の父親との対面をダイアナは振り返った。







s2-49 (160)
ブリッジポートのサウス家の本邸。
居るはずなのにプロの使用人たちは気配すら感じさせず、
広い邸内は寒々しすぎてダイアナは落ち着かない。

「今日は、あの、アレックスのお母さん・・・・奥様は?」
「おや・・・アレクサンダーがこの日を指定したのは、あれが居ない日だったからだと思ったんだがね。
 主宰している団体の式典があってね、理事の彼女は今日はそちらにつききりなんだよ。
 君は先週かのグレンツ氏と結婚されたそうだね。おめでとう。あとで何かお祝いを贈ろう」
s2-49 (161)
「ありがとうございます」

このひとが父親?
ダイアナには全然ぴんとこない。
顔だちはよくよく見ると似てるみたいだけど、
アレックスの柔らかいしっとりとした声とは随分違う、重い掠れた声のひと。

あとエリンが嫌いな、タバコの匂い。でもタバコなのに甘い匂い。
s2-49 (162)
ダイアナの誘拐を主導した実母を張本人のダイアナに会わせる気などないアレックスは、
見慣れた庭を見ながら溜息をついて口を開いた。

「今日は報告と挨拶だけだしね。電話で伝えたとおり手続きも全部、俺たちの方でしておく」
「どうとでもするといい、アレクサンダー。あれも今更騒がないよ」

そしてサウス議員が意外にも低く楽しそうに笑うのにはダイアナが驚いた。
代替わりした途端に爵位返上してしまったアレックスと、この先代当主の父親の間にはてっきり確執があるのかと思っていた。
公爵家とかに思い入れはなかったのかな?
s2-49 (171)
が、それよりもダイアナには訊きたいことがある。

「サウスさんは、あたしの誘拐のこと知ってたんですか?」
「うん?どうしてそう思うのかな、ダイアナさん」
「引っ掛けです。やっぱり、誘拐って聞いても驚かないんですね」

初歩的なカマをかけられたと気づいて、サウス議員は微笑んでタバコに火をつけた。

「おや、家の中だと思ってつい油断したよ。やるね、ダイアナさん。
 ・・・そうだね、薄々あれが何かしてるのを感づいてはいたよ。けれど、あんな強硬手段はまずかったね」
s2-49 (165)
他人事のように。
しかもアレックスみたいな柔らかいのんびりした口調なのに、ちっとも優しさがない物言いはダイアナの癇に障った。
勿論それはアレックスも同じで暗い顔つきになる。

「・・・ただ、当時あれが君らの生活を調べさせたら、マーガレットは夜の仕事で君はいつも家にひとりで残されてたらしいね。
 苦労もあったんだろうが、さすがに子供が育つには少々相応しい環境とは言えな」
は!? 種撒くくらいしかしてないくせに、お母さんのこと何か言えると思ってんの!!?

誰だろうと母の侮辱は絶対に許さない。
南の島で開眼したとおり、
ダイアナは怒りも隠さずに爆発させてサウス議員の言葉に無用で被せて立ち上がった。

ビックリ顔のサウス議員、異母兄アレックスすら目を丸めた。
息をすうと吸って怒りを静かに迸らせつつダイアナはゆっくりと続けた。
s2-49 (169)
「今の話だけで、もう十分です。
 アレックスとウィリアムは大事なお兄ちゃんだけど、正直あなたのこと『お父さん』って思えません。
 ━━・・・・・・お母さんにもあたしが誘拐されかけたなんてこと教えてないし、知ってほしくないんです。
 もう、お母さんには関わらないで、そっとしておいてください。
 ちなみに夫からの伝言なんですけど、『二度と誘拐なんざすんじゃねえ、このクソ野郎』だそうです。これで失礼します」

息継ぎなしでそこまで言い切って、毅然と去る。
そんな妹ダイアナの変化目の当たりにしたアレックスは、爽快感に小さく笑ってしまう。
s2-49 (166)
アレックスはそのまま業務連絡とでもいうような父子の会話を続けた。

「ダイアナと俺の養子縁組の記者会見は俺たちだけでします。父さん用のコメントもこちらで用意するので使ってください。
 父さん達もお元気で。また必要なときには来ます」
「キャサリンにもよろしく伝えてくれ」

かつて半年の仮宿状態だったとはいえ、他人の名前『キャサリン』を騙ってサウス家に養女として入り込んでいたエリン。
死の偽装もした当時には報道でも本当のキャサリンの写真が出回り、エリンの存在は依然として歴史の裏側に隠されたままだ。
この父もエリンの正体も本当はどこまで知っているのか・・・・そもそも、いつ彼女が生きていたことも知ったのか。
一度も問いもせず、父は息子アレックスの好きにさせてる。

「・・・いまの彼女の名前はエリンですよ、父さん」
「まあ、どちらでもいいさ。結局同じ人間のことだろう?達者でやれ」
s2-49 (167)
こうして話は切り上げられた。
いつもそうだ。柔らかく突き放す。

そうして父は暖炉の火の中に視線を置いて一人の世界に入った。
・・・・それがマーガレットの話題が出たせいなのかは知らないが、誰かが目の前にいるときにそうなるのは珍しい。

アレックスは母よりも父のほうが苦手だ。
父として当主として議員として義務は果たせど、個人としては何にも執着せず厭世的で
育ちのよさゆえに人当たりが良さそうに見えるが空虚な人間。
もしもエリンに出会わず世界の美しさを思い出せなかった未来があったとしたら━━━━ 
s2-49 (164)
そんな父は、アレックスにとって暗い将来の自分自身にも見えた。

それを振り切るように廊下でぷんすかとしている妹ダイアナと笑顔で合流した。

「ダイアナ。本当にイアンは・・・『クソ野郎』なんて君に伝言を頼んだの?」
「あたしが付け足したの!イアンならもっとすごいこと言うよ!」

「はは、それもそうだね。でも女性があまり使ってはだめだよ?・・・あと・・・・『種』とか。そういうことも」
「使わないよっ!・・・・んもー、信じらんない!何であんな他人事みたいに言えるんだろ!さいってー!」
s2-49 (172)
「同感だね。ウィリアムも絶対そう言うよ。最低だ」

アレックスは自分で言って想像できてしまって、あっはっは、と久しぶりにこの邸宅で笑った。
2人はそのまま必要省庁だのの調整と挨拶回りを済ませてサンセットバレーの家に帰った。







「━━━━ってわけで『例のあの人』は結婚式にも来ないし、来させる気もありませんっ!」

どこの悪役だというような代名詞でだけダイアナは実父を指し、高らかに宣言。

「あー、そりゃアレだな。ヤなヤツだ。・・・アレクサンダーと違うレベルでズレすぎ」
「・・・・アレックスさんとは似てらっしゃらないのですわね・・・」

ダイアナは兄アレックスの父への胸中も知らず「ぜんぜんっ」と強調した。
s2-49 (34)
そしてウェディングノートを見下ろせば、当時ハマってた丸文字で『花嫁介添え人はリズ!』とある。

「あのね。リズとサニーちゃん、あたしのブライドメイドしてもらえる?
 って言ってもイアンも今忙しくないし、事前準備はお母さんとするつもりだから2人を忙しくはさせないから!」
「いーよー」
「光栄ですわ」

親友リズとサニーの声が重なった。

「でもどこでやるのさ。城?それともサンリット??サニーちゃんはともかく、庶民のアタシがご立派にできるもんかね」とリズ。
s2-49 (28)
「んも~。何言ってんの、そんなあたしだって別に公爵うんぬんなんて未だに分っかんないもん。フツーだよ、フツー!」

ダイアナは、ちらりと視界の隅で眠る小さい命をみる。
前に創ったテレポートマシンはそこまでの長距離では作動しないし、
育児に仕事に勉強にいそがしい友人たちを大それたところに連れ出すこともない。

「こっちでやる!前の誕生日みたいに皆を泊りとかにもしないから。もうイアンとも結婚しちゃってるんだしさ。
 時期も・・・そうだなあ、桜子ちゃんがもうちょっとお姉ちゃんになる頃になるよ。
 ウェディングドレスってね、すごーく時間掛かるんだ!」

エリンの結婚式でさも知ってるかのように、ダイアナはでまかせを言う。
s2-49 (29)
ヘロヘロという表現がふさわしい様子のリズだけが深く考えずに力強く頷き、

「それなら良かったわ。チビがさー、まだ寝る・ゴハン・ウンコのスパンが短いんだよ。
 相談ならメールとかでしてくれればいいから。即返信とかムリだけど」
「そんなの求めないよ、でもありがとー。本当、忙しくさせないから!言っておくけど当日はリズもドレスだからね~」

にひひとダイアナが茶化し、リズは「うっげえ」と遠慮なく吐くフリ。
そして少しでも新生児を抱えてるリズを休ませたい2名は1時間きっかりで帰り支度を始め、
サニーがにこにこしながら「ダイアナちゃん」と促す。

「うん!あのねえ~~~。実はリズにプレゼント連れてきたんだ!やっとできたから・・・名前は、リズが付けてあげてね」
s2-49 (37)
『はじめまして、オーナー・リズ』
「おおおお!?」

「アンドリューみたいに人間同然の家族がいきなり増えたらリズ達もびっくりしちゃうかなって。
 外見は変えられるから、いつでも言ってね。もちろんこのままでもツルツルしてて超可愛いけど」

個人専用のシムボットとは贅沢な!庶民の一般家庭じゃまだまだ高級家電の位置づけだ。
リズは緊張しながらシムボットに珍妙な言葉で尋ねる。

「おお・・・君もアンドリューみたいに考えたりお喋りもするのかね?」
『はい、オーナー・リズ。”兄”のアンドリューと同じように。家事などのお手伝いをもちろんします。
 それだけでなくダイアナさんには子育てに関するプログラムも入れてもらいました』
s2-49 (39)
「マジでか━━━━っ!!」
「あはは、マジマジ❤ ちなみに協力はあたしのお母さんと、庸一のお母さん。
 あと最近のママのお友達のアデルさんってひと。皆あたしたちの先輩ママたちね。
 教育方針とかは勿論リズと庸一次第だけど、基本的なことはちゃんと出来るし知ってるよ」

『オーナー・リズはわたしのお名前をつけていただいたら、ゆっくりお風呂をどうぞ。
 桜子さんはわたしが看ております。夕飯は6時でいいですか?』

ゆっくりお風呂なんて、いつぶりだろうか!!しかも夕飯の準備だと!?
ふおおおおという大感激のままマンガチックな泣き真似をしつつ、リズは高らかにシムボットの名前を告げる。

「お前の名前は出来杉くんだっ・・・・!」
s2-49 (41)
「リズ、その名前はアウト」

すかさずダイアナは審判のごとく止めた。
結局シムボットの名前は後で仕事で不在の庸一と決めることとなった。

「マジでマジでありがとう。でもこんなデザインあったっけ?身体が浮いてるじゃん!」
「リズちゃん、こちらは最新型でまだ市場にも出てないものですわ」
s2-49 (42)
「来年あたしの会社から発売するタイプのコなんだー。大学辞めてね、アンドリューの兄弟いっぱい作るの」と、ダイアナ。
「会社・・・・!?なんでそんな話になったん?」

短時間滞在だったので、ダイアナの仕事に関する近況は全然してなかった。
てっきり教授を続けるかと思ったのに。

「あたしはおぼろげにアンドリューの兄弟つくって色んな人と住まわせてあげたいなあと思ってたんだけど、
 イアンも同じこと考えてたんだって会社辞めたあとでイアンも教えてくれてね。
 あたしさえよければ会社立ち上げしたいっていうから、面倒なことは全部お願いしちゃった!」
s2-49 (43)
あたし、お飾り社長なの!と商売に疎い科学者ダイアナはあっけらかん。

経済界で騒ぎになったイアンの引退劇の真相を知って経済学部だったリズはあんぐり口を開けた。
自律思考シムボットが全世界に普及するのに時間はかからなそうだ。









s2-49 (44)
「あー、気持ちよかったー」

遠乗りをしたダイアナとエリンは満足顔でカントリークラブの馬術場に戻る。
公共の馬術場で時間制でしか乗れなかったのも昔、
いまやイアンの妻となった彼女にもエリンと同じようにプロに預けてる馬がいる。

「久しぶりにおしゃべりしようっていってたのに、結局走ってばっかりだったね」
「というよりも正直切り出し方が分からなくて。あなたに謝ればいいのか分からないのよ」
s2-49 (46)
エリンは美しい猫のように微笑み、そう言って黙る。
沈黙のなかコーヒーが運ばれてきて日が傾き始め、エリンが再び口を開いた。

「でも・・・そうね。やっぱり謝るべきだわ。何も考えてなくて、ごめんなさい。あきれたわよね。
 あなたにもイアンにも迷惑をかけて━━━━ 貴方達だけじゃなく、知らないところできっと傷ついた人もいたわ」
「あきれてはいないけど、・・・・でも、そうだね。あたしも何言ったらいいのか分からないよ」

エリンの秘密を守るためじゃない、アレックスの悲しみを癒すためでもない、
イアンや母マーガレットの苦しみを和らげるためでもない。
その全部が理由じゃないけれど全部が理由なのかもしれない。

「エリン。何が正しいとかはどうでもよくって、あたしがやりたいからやっただけだよ。
 それにあたしだけ何も知らないままじゃなくて良かったなって思ってる。あたしたち家族でしょ?助け合わなきゃ」
s2-49 (47)
するとエリンは珍しく困ったように微笑みながら息を吐き、ダイアナに「でしょ?」と念を押されて、やっと頷いた。

「前からエリンから直接訊きたかったことがあるんだけど、それを教えてくれるかな」
「なにかしら?もうあなたには何も隠さないから何でも訊いてね」

「エリンからちゃんと訊きたいんだけど、イアンとは本当にしてないの?
 ・・・いま考えれば昔のエリン、はぐらかし気味だったけどイアンのこと満更じゃなかったよね。
 だからアレックスも慌てて島からサンセットバレーに来ることにしたって聞いたよ」
「あら、そのこと?・・・・。 やだ、よくよく思えば、私たち複雑な家族かもしれないわね?」

エリンが茶化し、ダイアナと同時に笑う。

「もしもアレックスがいなかったら、・・・なんて。ありえないけど、どうなってたかしらね?
 男の人で深く付き合えたひと、アレックス以外にイアンしかいなかったのは事実だけど。
 ・・・そもそも私とイアンがどうやって会ったか、どこまで知っているのかしら」
s2-49 (48)
「イアンからのナンパでしょ。で風邪引いてて具合が悪くなっちゃったイアンを助けたあげたって。それは本当?」
「それは本当よ。あと、私がアレックスにも言ってあるのも、そこまで」

すると途端に「どういう意味?」とダイアナは緊張する。
そしてエリンは、とうとうこの話を初めて他人に漏らす。これで本当にダイアナへの秘密はもうなくなる。

「正確に言えば『その気』でウチに来てキスまではしたの・・・・言っておくけど妬いちゃイヤよ。
 で、そのときにイアンは気づいたのよ。熱出してたんだか飲みすぎてたんだかはともかく・・・『出来ない』ってね。
 そしたら泣いちゃって」
「・・・・・・。うそでしょ?」

「うふふふふふ❤ でね!そのまま放っといて、シャワーに行ったら勝手に私のベッドで寝ちゃってたってわけ。
 アレックスにも他の誰にもナイショよ。イアン本人とですら1回もこの話してないんだから」
「うっそでしょ!?」
s2-49 (49)
ここにきてエリンが嘘をついてるとは思わないが衝撃的過ぎてそれしか言えない。
ダイアナからすれば夫イアンの都合で”登板”されない夜はない。
それどころかダイアナが”リタイア”することがチラホラあるくらいだっていうのに!

「エリン、それ誰の話!?うっそでしょ!?イアンのこと話してるんだよ!?」
「だから本当。その様子だとあなたにはないみたいね❤」と、エリンは目を細める。
「うーっそでしょ・・・」

いつだかのクリスマスにイアンが泣き上戸というのは偶然知ったが、この真相にダイアナはそれしか言えない。
あのイアンの狼狽の意味も分かると胸中に湧くのは憐憫のような・・・安心のような。
s2-49 (52)
「そもそもねえ。この私と出来なかった男の人なんて、後にも先にも初めてよ。ほんっと失礼しちゃう」
「あっはは!」
「笑うところじゃないのよ!」

エリンは言いながらダイアナと揃って大いに笑う。
昔はバイクと自転車で、背の差も20cm以上あったのに肩を並べて帰った。


時間が進むのは本当に早く。
ダイアナも、エリンと初めて出会ったときの彼女の歳になる。


→第50話(最終話)




第48話 兄と妹Ⅱ The story of "Erin"

←第47話

「アレックス、ケガはしてない?」
「大丈夫だよ、エリン」
「アレックスさん!いっしょに片付けましょう!」

シムボット・アンドリューがこれ幸いと、タラ教授の話題を終わらせるために立ち上がった。
s2-48.jpg
逃げてきた”甥”アンドリューと共に片付けにかかるが、女性陣にとっては話題は変わらないらしい。
アレックスは力なく微笑んでタラ教授らを横目で見ると・・・・
そもそも何故妻エリンが一番わくわくした顔をしているのか。

「そういえば私、そういう話をアレックスから聞いたことないのよ。アレックスが私のを訊きたがらないっていうのもあるけれど」
s2-48 (2)
「まあ昔の男の話をするのは無益ではあるからな。いざ挿れるというときに思い出されて萎えたら困るだろう」
「それもそうねえ」

バリ・・・・くぐもった音でさらにガラスの割れる音が響く。
幸い靴ではあるが動揺のままにアレックスが割れた破片をさらに踏んでしまった音だ。
そして流石にアレックスがエリンを止めにも入る。

「エリン?そういう話は」
「でも大丈夫。プライバシーに関することは言わないから❤」
s2-48 (1)
そういう問題じゃない。
アレックスは困り果ててアンドリューのほうに目線を流すと、同じような瞳に出会う。
彼も彼でタラ教授を止められないのだろう。
割れたティーセットを片付けてアレックスはにっこりと微笑む。

「申し訳ない、仕事の電話に出なければいけない時間だったんです。ごゆっくり」

・・・・アレックスは逃げた。








仕事が終わったダイアナが大喜びで恩師との再会を喜び合ったのも束の間。
すぐにシムボット・アンドリューは先ほどの出来事を告げ口した。
師弟のお堅い関係はまったくなく、呆れも隠さずダイアナは腰に手を当てる。

「先生、そんなことアレックスに訊いたの?!」

久しぶりに会うダイアナはスーツも相当のものになっている。
そこのエリンとは違う色気を身につけたと思いながらも、タラ教授はそこに触れず「話の流れだ」と飄々。
s2-48 (3)
そんなアレックスの話題に彼の妻エリンはといえば・・・・

「いい先生じゃない。あのね、アンドリュー?ダイアナには言ったことがあるのだけれど知らなくていいことなんかないのよ。
 ベッドでのことなんて誰も教えてくれないんだから。一緒に入る相手以外はね❤」

人妻エリンが堂々と言えばタラ教授も「その通り」と頷く。

「ダイアナよ。わたくしは何も無闇に兄君を貶めるため尋ねたのではない。全てアンドリューの教育のためだ。
 性教育というものは”親”など誰か大人が導いてやる必要があるのだ。決して誤りのないようにな」
「・・・っ・・・確かに・・・!」
「納得しかけないでくださいっ!」
s2-48 (6)
アンドリューの突っ込みも空しくタラ教授への追求はうやむやに。
そしてエリンが親友イアンは最近どうしてるかと世間話に尋ねると、ダイアナは笑顔で応える。

「先生が来てるって電話したら皆の都合がよければ、今夜の夕飯一緒に食べようって。
 お店とりあえず取ってはあるんだけど、先生いきなりだけど来れる?」
「勿論。そもそもわたくしは今回はその彼に会いに来たのだ。いかほどのものか見てやるとしよう」

タラ教授が挑戦的に言うとダイアナは明るく笑って頷き、時間もあるので着替えて再集合しようかとなった。
エリンも「私もオッケーよ❤」などと当たり前のように来れるようで、ふとダイアナは嫌な予感とともに尋ねる。
s2-48 (4)
「・・・そもそもアレックスは本当に仕事の電話?」
「アレックスさんは電話なんかしてませんよ。ワインセラーで小説読んでましたもん」と、むくれ顔のアンドリュー。
「んもー、どうするの。エリン」

タラ教授はそれでも「おや。兄君はご機嫌斜めなのか」と平然としてる。
友好的な姿勢は崩さぬまま即効で逃げた兄を思うと妹ダイアナとしては気の毒でならない。

「私が味方しなかったから不貞腐れてるのね。ワインセラーだけに!」と、当の妻エリンはあっけらかんと言い放ち、
対してタラ教授は「ほほう。ワインセラーで腐ってるとは巧い。実に愉快だ」と感心しきったところで揃って明るく笑う。
・・・・全っ然楽しいジョークじゃない。
s2-48 (5)
「どれ。エリンとの友好も深まったところで詫びついでに迎えにゆく。アンドリュー、ワインセラーとはどこにある?」
「先生一人じゃ絶対ダメダメ。あたしも行く」
「・・・・・信用のないことだな」

タラ教授は若干む、とした気配を漂わせながらダイアナに向かって片眉を上げた。










イアンがオーナーをしている例のレストランで出迎えるのは”人好きしやすい好印象”顔のイアン。
挨拶を交わすと、タラ教授の目の奥は全く笑っていないことにイアンはすぐ勘付いた。
この教授くらいの年齢ならばイアンの悪い評判もつい最近。

愛弟子が『引っかかってる』となればいい気分じゃないんだろうと理解はできるので
まずは悪印象の払拭といくかとイアンは紳士的な態度で食事に臨んだ。
s2-48 (9)
波乱もなく食事はするする進み、
さきほど天岩戸のワインセラーから引っ張り出されたアレックスが慎重に話題を選びつつ尋ねる。

「タラさん。ダイアナはあなたの元でナノマシンのことを習いたかったとか?」

そのままタラ教授も流暢に自分の研究について一般人向けの解説をおこなって、ダイアナも兄と恩師の様子にほっとする。
一通り説明を聞いたあとで理系分野には特に疎いアレックスは子供のように感心した。

「なるほど・・・持ち主、・・・宿主かな。宿主の意識のないところでナノマシンが目的を果たそうとするなんて面白いなあ。
 人体とは宇宙、なんていう例え話はよく言うけれど・・・」

s2-48 (12)
「わたくしもその言い方は非常に好きだ。
 ウィルスやナノマシンのように宿主の知らないところで活動すること自体は別に珍しいものでもない。
 もっと規模が大きくなれば人体細胞ですらそうだ・・・血液に、リンパ液・・・おおそうだ。
 殿方にはもっとも身近なものがあるではないか。実に能動的なものが。そしてある意味では宿主を支配してもいる」

タラ教授の冗談の意味するモノに即気づいたイアンとエリンがにやりと笑い、
アンドリューは顔を引きつらせて、ダイアナは「んもー・・・」と溜息。
しかし鈍いアレックスは考えこんだ。

「へえ、なんだろうな。男性ということは筋肉とかに関係あるものかな?」
「アレックス、お前マジかよ」
s2-48 (10)
「なんだ、イアン。分かってるなら教えてくれてもいいだろ」

意地の悪い、とアレックスはイアンには随分と砕けた態度だが
こういう匂わせる程度の大人のジョークはさらりと言って、さらりと笑って終わらせるのがマナーだろう。
鈍すぎて説明なんざしてやる気にもならない。
そしてタラ教授の方が、さらり流されると思っていたジョークを当のアレックスに追求されて戸惑う。

「ダイアナよ・・・兄君は実はこういう話が大好きなのではないか?」
「アレックス、あの壁の絵って何か有名なやつとかなのかなっ!?」
s2-48 (14)
そうしてアレックスの頭はサッと切り替わり、
壁に掛かっている現代アートに興味が移ってくれた。




隙を見計らったようにタラ教授はイアンの元へと寄る。

「・・・・今夜は楽しい時間をありがとうございました。タラ教授」
「ニュースであなた達のことを知って、わたくしはあなたと話すために来たのだ。
 ダイアナがこちらに帰国した後もダイアナの母君とは深い親交がある」
s2-48 (17)
「なるほど」

イアンはダイアナが過去から戻ってきてすぐ、ダイアナの母マーガレットに電話したことを思い出す。
ゴシップになる前に長年の友人として筋を通すつもりで会って話そうかとしていたのに
彼女は既に知っていて会わずに済まされた。
イアンとしてもひっかかりを感じなかったわけじゃないが、
変に追求してマーガレットとの間に波風を起こす必要もないと利を取って、そのままにしている。

「ダイアナはしたいようにするし・・・マーガレット自身も俺達を・・・"応援する"と」
s2-48 (16)
「そう。わたくしも聞いた。
 わたくしには実の母親がそんな反応なのが理解は出来ないゆえ、こうして動くことにしたのだ」

実に淡々と単刀直入に。
しかし大事な主題であるがために明確な敵意は出さないのは流石といったところか。
相手もわかってはいるだろうがイアンは通告する。

「これは俺とダイアナとの問題で、あなたには関係のないことですよ。タラ教授」
s2-48 (18)
「わたくしはダイアナを心から尊敬し愛してもいる。ゆえに黙るつもりはない」
「それは俺も同じですよ。何かあれば俺達で・・・俺がどうにかするし、あなたの出る幕はない」

「なんとも女殺しなことを。宣言だけは実に情熱的だが・・・・
 しかしわたくしなら有象無象の輩にあそこまで好き勝手なことは言わせては置かぬのだが、それについてはどう考えている?」

びきり、とイアンの笑顔にヒビが入り、タラ教授の無機質な目がさらに射抜く。

「わたくしは君達のことをテレビのニュースで知って、すぐにネットで調べたよ。
 そしてダイアナの価値の億分の一も分からってもいない何千もの野次馬が、ただの暇つぶしに勝手なことを言っているのを
 機内で散々読んで来たのだ」
s2-48 (7)
春の兆しがみえていても依然冷える夜。焚き木が次々にばちんと厳しい音と立てて燃える。

「君の昔の恋人だのと身体のスタイルやらファッションの値段を比較する画像を作ったり、 
 ・・・下品なセリフを付けている馬鹿者も居た。よくも『あんな世界』にダイアナを引き込んでくれたものだ」

バッシングにはなってはいないが、ポッと出の有名人になってしまったダイアナはいいオモチャだ。
イアンの経済的影響力が及ぶ範囲には何かが出来ても、
一般人にこれだけ情報発信手段が浸透しているネット社会では完全には守れてない。
出先ではパパラッチがつきまとい、他人に勝手に撮影され、勝手な感想が書かれる。
実際イアン自身も元来それらに常に晒されてダイアナも道連れだ。

「これが君の愛がもたらすものか?グレンツ君」
s2-48 (22)

「・・・・━━━━ それは・・・・」
s2-48 (21)
イアンは初めて人前で答えに窮する。
彼女が問うた言葉は、毎日イアンが自分自身にも投げかけて続けてきたものだからだ。

ダイアナが自分の前でいつも通りであればあるほど、待ちに待った2人での日々が穏やかであればあるほど、
自分の無力さへの嫌悪は愛とともに膨らみ続ける。
アレックスはできているのに、自分はできていない。










「イアン、先生と何話したの?」
s2-48 (61)
「ん?なんで」
「お店から帰るときから何かイアン変だから。皆は分からんないだろうけど分かるよー。・・・やなこと言われた?」
「・・・・・・・・」

嘘の否定はしない。けれど本音の通りに肯定しないのはイアンなりの強がり。
ダイアナは、口達者な割りに言葉で本音を明かすことが苦手な彼の髪を撫でて慈しむ。
洗いざらしの髪までしょんぼりとしてる。
s2-48 (62)
お母さんのことを上手くやったと思ったけど、先生がイアンに何か言うなんて。
心配してくれてるらしいけれど、どうしてイアンを傷つけるんだろうとダイアナは憤然と溜息すらついた。

「先生、歳的にはあたしのお母さんとほぼ同じだから。何かおせっかいなこと言ってきたのかな?
 イアン、無視していいよ。あたし別に全員に納得してもらわなくっても全然いいもん。別れ話なんかだめだよ?」
「誰がするか、んなもん。バカか」
「そっか」
s2-48 (64)
イアンの肩は元気のないままだ。
そしてごくごく軽くダイアナは提案する。

「イアン、2人で仕事辞めてサンリットに戻るのってどう?」

ダイアナから言い出すと、彼は眉を下げたまま目を少しだけ見開く。
世界でも厭世がちになってしまう富豪もいないわけじゃないらしいとダイアナは聞き齧ったことがある。
長い間を空けたあとでイアンは彼女の手を握りながら呟く。

「行かない」
s2-48 (63)
やっと全ての躊躇を捨てて、
堂々とこのダイアナの手を握れるようになった。
自分との安寧の暮らしのために今の生活も友人も捨てて南国に逃げようなんて言えるわけがない。

「行かねえよ」
「うん。・・・・・イアン、先生とはもう会わないでいいからね?これはあたしたちの問題なんだから」

イアンは自分の気持ちを軽くするための謝罪はしない。
そのままダイアナはよいしょと声を上げてイアンの膝に乗り上げる。
s2-48 (60)

しかしダイアナの心配通りイアンは目の奥で明らかに重い悩みを抱えたままとなってしまって、
その異変はとうとうダイアナだけでなく、エリンやアンドリューにまでも気づかれるようになった。






そんな事の元凶のタラ教授はといえば、
シムボット研究の大家としてダイアナの大学で歓迎されて、研究室に見学にやってきた。
タラ教授は尋ねられる前にイアンとの会話を事実のまま報告して当然ダイアナは激高した。

「いきなり来ておいて、イアンのことも何も知らないでイアンにそんなこと言ったなんて!」
s2-48 (66)
「何も知らないからこそ言えるのだ!
 お前達の問題だからとお前の兄君まで黙してるようだが、お前達が不利益を被ってる事実はなにも変わりはしない!
 こんなこと、わたくしには許しがたい事態だ」
「あたしは全然平気だったし頼んでもないのに・・・・事態をややこしくしたのは先生でしょう!?信じられない!」

パパラッチに追われるのは慣れるしかない。
見たくないネットは見なければいい。これも慣れるしかない。
ダイアナは身に着けた強さのままイアンへの想いも何も揺らいでない。

でもすぐに脳内でネット接続出来るシムボット・アンドリューは、タラ教授の言っていることは強く理解できた。
とうとうタラ教授は溜息と共に告げる。

「ダイアナよ、本当に事態をややこしくしたのはわたくしか?マーガレットは先週仕事を辞めたのだぞ」
s2-48 (70)
「・・・えっ!?なんで」

「有名になったお前の母のことを取材したいだのの連絡が会社に入るようになったそうだ。それもひどくな。
 慰留もされはしたらしいがマーガレットは管理職として事態の収拾に当たったのだ。
 ━━━━ 分かるか?こういうことを娘のお前に知らせもせず、マーガレットは独りでお前を守ってるのだ。
 当のお前がそいつを知らないままでどうする。馬鹿者」

タイムマシンを使って時間の歪めてまで自分の母親の了承をとっても問題を解決するわけじゃない。
自分は平気だけど、自分の周りに行かれるのは辛い。
イアンがああも辛そうにしてるのと同様に、ダイアナにもその痛みが胸に突き刺さって顔が強張った。
s2-48 (69)
「ダイアナよ。わたくしとしてはマーガレットに・・・お前に。こういう、しなくてよい苦労はしてほしくはない」

ずっと前にイアンの父ロビンに言われた『父親ならやめておけと言う』というイアン評を思い出す。
余計なお世話、で片付けるのは簡単だが母マーガレットまで巻き込まれている現実は重い。

「だからってイアンと別れるとかはしない!ちゃんと・・・考える」
「・・・・・・・。そうか。わたくしはお前達に憎まれようが、お前の幸せを何より願っている」

嫌な役回りを自分でもしていると分かっているタラ教授が毅然と言い切る。
そしてダイアナは膝に力が入らず座り込んだ。

まだ母マーガレットが歌手だった頃、
スカウトが来るから応援に行きたいと夜中に家を出た先でダイアナが貧血を起こし一時的行方不明になった騒動があった。
そして夜の仕事の限界を悟った母の夢を壊したことはダイアナの悲しい思い出のひとつだ。
s2-48 (65)
次に始めた仕事も母が積み上げていたものがあったはずなのに。
誰も悪くないのにどうしてこんなことになるんだろう。
その後、ダイアナがすぐ母マーガレットに電話すると、いつも通り振舞われたものの疲弊しているのが分かってしまった。





行き詰った状況でダイアナが思いついた頼れそうなひとは1人しかいなかった。
そのひとは、こういう問題を未然に解決できていて、その力によってダイアナが同居していた事実は1つも漏れてない。
公爵家に注がれ続けてきた国からの膨大な収益権をその地位とともに放棄することを引き換えにして
自らに関する報道と言論の自由を封殺してしまうジョーカーを作ったひとだ。








「アレックス。何読んでるの??」
「やあ、帰って来てたんだね。ちょっと待ってて、今いいところだから」
「? うん」
s2-48 (24)
海の見える場所で暖かい日に読書していたアレックスは数分、のんびりと古典ミステリーの佳境部分を読み進む。
犯人の名前が出たところで、ほうと満足そうに息を吐くとやっと本を閉じた。

「お待たせ。悪かったね」
「ううん。小説?なあに?」

ダイアナが首を傾げてタイトルを覗くと『アクロイド殺し』とあって犯人が有名すぎて笑ってしまった。

「古いやつを最近読んでるんだけど有名すぎるからね。タイトルを教えてあげる前に犯人知りたかったんだ。
 平日の昼間に珍しいね?エリンは仕事だよ・・・今日は施工業者と打ち合わせ、って言ってたかな?」
「うん、知ってる。あたしは今日は授業はないから」
s2-48 (26)
アレックスの家は、いつも変わらず潮騒の音だけ。
最近はダイアナにも2~3人のパパラッチが付いているのが常になっていたが、
この自宅が誰のものか分かった彼らは弾かれるように消えていった。
今なら何故イアンがよく遊びに来ていたかが分かるし、ダイアナにはこの力が欲しい。

アレックスは久しぶりに間近で妹の顔を見る。
綺麗な女性になったと思う反面、表情が妙に強張ってる。

「ダイアナ、大丈夫かな?」
「うん。あたしは。イアンは、あんまり。かな」
「・・・・・・・そうか。そうみたいだね」
s2-48 (25)
イアンがダイアナ母子が世間に騒がれているのを非常に気にしているらしいことは、アレックスでも気づいてる。
実際妻エリンとの話題にも出て心配もしてるし、アレックス個人としても何も考えなかったわけじゃないが
申し出があるまでは普段通りを続けていた。

「話があるんだよね。俺に」
「うん・・・アレックスに・・・ 助けてもらえないかな?」

アレックスは朗らかに柔らかく笑って頷くと、彼女を室内に促した。
ぴしゃりと窓が閉まると、アレックスの気配が若干緊張を孕んだものに変わる。

「ダイアナ。まずは昔の話をさせてほしい。
 ・・・あのとき君は自分を責めただろうに、俺達が嘘をついたことを謝らなきゃいけない」
s2-48 (27)
アレックスはまず、小柄な中学生のダイアナが『貧血で倒れて病院で発見された』という嘘について語った。
当時、跡取りがいないと思われていたサウス家に誘拐されかけ、
それを裏で糸を引いていたのがアレックスの母親であったこと。

「誘拐?なに、それ?・・・全然そんなの記憶にないよ?
 あの時は自転車止めて、お母さんのバーのところで人がすごい居て、道で急にぐらって・・・」

力ずくで車に乗せられるとかじゃなく、
誰かと肩がぶつかり、少ししてから腕がヒヤリとしたと思うとスッと眠くなった感じを覚えてる。
ぶつかったときに何かをされた?そう思い至って、ぞっとする。

「あたし起きたら病院だったよね。アレックスがお母さんと話してくれたの??」
s2-48 (28)
「違うよ、・・・ともかく。あのとき君は皆に迷惑かけたと自分を責めたろうに・・・悪かったね」
「そんなのもういいよ!・・・あたしのお母さんも本当のことは知らないんだよね?」
「勿論知らない。・・・それで、その解決するときにね、俺達のことにイアンを巻き込んでしまったことがあったんだ。
 イアンと君がこういうことになった今、俺たちはそれも謝らなきゃいけない」

イアンも一緒に自分を探してくれたというのも知ってるけれど巻き込んだというのは?
戸惑いっぱなしだったダイアナが凛と引き締まる。

「イアンにも何かあったってこと?教えて」
「いいや、違うんだけど・・・それを話す前にダイアナ、君がしたいことを話そう。あとで全部繋がるから聞いてほしい。
 今たぶん考えているのは、君がサウスの家に入った上でイアンと結婚すれば俺の”元公爵家”と繋がって
 俺がしてるようにイアンやマーガレットを守れる・・・そういうことだよね?」
s2-48 (23)
まさにアレックスの家の力を利用しようとする話を、当の彼はまるきり気にもしていない。
知ってるかのように話すのでダイアナの方が戸惑って頷いた。

「けれど俺としてはマーガレットの立場上、実の妹だと公表したくないんだ。それはわかるよね」

ダイアナはさらに頷く。
元公爵家に関する報道規制があるといっても新たに一員になるなら公示は必要になる。記者会見だって必要だろう。
しかしダイアナがアレックスの異母妹と知られるのは彼女母マーガレットを守ることにはならない。
アレックスは普段の様子とは想像もつかないくらい、すらすらと滑らかに話を展開して行く。

「色々考えると、俺との養子縁組という選択が妥当なんだけれど2つすべきことがある。
 1つは法的に君とマーガレットの親子関係を切るかたちの縁組にはしないけれど、彼女の了承を取るということ。
 2つめは俺はエリンには何も相続させるつもりはないから君に全て相続してもらうということ」

「相続って・・・・流石におかしくない?奥さんのエリンが受け取るべきだと思う」
s2-48 (29)
ダイアナは説明されるほどに違和感と疑問がどんどん膨らむ。

「普通はそうかもしれないけれど、エリンは俺がいなくても元々金銭的には困ってはないからね。
 何より俺はたとえ結婚したからといってサウスの家にも縛る気はないんだ。
 けれど”家の力”は俺がいなくなっても彼女を守るためには信用できる誰か・・・・・君には、家を継いでは欲しい。
 権利をもらう以上はその義務を負ってもらう」

「エリンを守るって何から?」
「それもぜんぶ、この話を受けるなら話すよ。イアンも巻き込んだという話の意味もちゃんと。
 でもそうじゃなきゃ話せないんだ。・・・ごめんね」

いつもと変わらず微笑んだままながら完全に取引の物言いで分かりやすく餌をぶら下げてくる。
ダイアナとしてはアレックスと政治なんてイメージが合わないと思っていたが、
ちゃんと理解していなかったことを知る。
s2-48 (43)
一時的とはいえ公爵の位を継いで、政界で色々と策してきたらしいのも分かる。
冷たくあしらうでもなく依然と優しく柔らかく、絶対に手札を見せない。


「アレックス。 ・・・アレックスとしては、あたしが今の話で悩んでなくても養子に入るって、元々してほしかったことだよね?」
「うん、そうだよ。君たちには必要なかったろうから言い出したことはなかったけれどね。
 俺にいつ何があっても大丈夫なように、後継問題の心配事は今すぐにでも解消しておきたいと思ってる」

そのアレックスの言葉は亡くなった兄ウィリアムのことを匂わせていてダイアナには切ない。
悲しそうに眉を下げたダイアナの顔を彼女から軽蔑されたかと誤解して直視できず、
アレックスは目を逸らして言葉を続ける。
s2-48 (31)
「君の弱みに付け込んでることは分かってる。ずるい言い方をしてるのもね。
 でも、おとぎ話みたいに綺麗に全部が丸く収まる方法なんてないし、マーガレットとも揉めるかもしれないけど、
 結局普段今まで通りの生活を送りたいし送らせてあげたいというなら、この話が一番手っ取り早いんだ」

ダイアナが取引に応じるまでアレックスが頑なに隠そうとしていることはエリンに関することだ。
それは確実だけれど、どうしてそこまで隠すのだろう?
少しだけアレックスの立場になって考えたとき、ダイアナは初めて気づいた。

「あたしのところに、あたし達のお父さんから頼まれた人が来たけれど、
 それだけならアレックスが戻らなくても、多分どうにか本当はなったよね?
 エリンと結婚するのも、アレックスは元々死んだってことになっちゃってたんだし本当は戻る必要なかったと思う。
 でもアレックスがそれでもサウスの家に戻ったのは・・・・エリンのために何かしたいことがあったってことなのかな」
s2-48 (44)
「・・・・頭がいいね、ダイアナ。
 俺が君についた嘘で一番ひどいのはそれだったね。そう、それも君のためだけじゃないんだ」

アレックスは自己嫌悪で顔を歪ませる。

「ちゃんと教えて、アレックス。イアンが知ってるなら尚更だよ」



そしてアレックスは始めたのは”かわいそうな囚われのお姫様”の話。
問題なのはそれが何百年前の歴史の逸話や空想のおとぎ話じゃなく、ほんの少し前に現実に起きた話だということ。
さらにはその”お姫様”が、ダイアナが長年知っていると思っていたエリンだということだ。
s2-48 (32)










「・・・・━━━━」

初めて全ての真実を知らされて、言葉が出ない。
エリンが孤児で寺院で育ちということをダイアナは悪い意味で特別視したことはない。
ダイアナ自身もそうだが片親や祖父母、大学には血縁者のいない施設で育ったひとも居たし、
この歳になれば、言わないだけで世の中いろいろな育ちがあることくらい当然知ってる。
s2-48 (35)
でも自ら選択したのでもないのに落飾の生活を産まれたときから強いられていたという真実、
大人に近い歳になるまで社会生活を営んだことがなかったという真実、
エリンが本当は何者であるはずだったのという真実。
そして兄達がしてきた罪。

ダイアナは何を言うべきなのかも分からない。

「エリンがいた寺院はね、俺も子供の頃から何度も足を運んだことあったんだよ。
 そのとき何も知らなかったとはいえ、俺はエリンが閉じ込められてた近くに行ったことが何度もあったはずなんだ・・・・」
s2-48 (37)
「・・・・アレックス」

腹の底からこみ上げるアレックスの怒りと悲しみはいまだ消えず、やり場がない。
彼女は足を折ってまで逃げたと昔語っていたけれど、どんなに恐ろしかったのだろう。
順を追ってエリンと自分の半生と罪を語ったために気持ちもつられた昂ぶって、アレックスの目は悔しさで潤んだ。

「ダイアナ、俺のことはどうでもいい。
 間違ったことを俺達がしてきたのも分かってる、後悔もしてる。報いを受けるなら俺はもう覚悟もしてる。
 でも俺に何があってもエリンだけは捕まらないようにだけしてあげてほしいんだ。彼女にはもう、・・・十分だろう?」

もう檻になんて何者にも入れさせたくない。

「俺はエリンがまた・・・、そんなのは耐えられない。君以外に頼める人間が居ないんだ」
s2-48 (36)
サウス家の力は使える。
けれどそれを託せるのがもうダイアナしかいない、だから助けて欲しいと思う。
なのにこんな形で妹が苦しんでるときじゃないと打ち明けることが出来ない自身の卑怯さがアレックスには堪らない。

ダイアナもまた目が潤む。
何も知らなかったとはいえ軽々しく『ちょっと変わってる』なんてエリンのことを思ったし、口にしたこともあった。
エリン本人はけろりとしていたけれど無知の愚かさが身に染みる。
あと、まるでアレックスがすぐにでも死んでしまうみたいに簡単に死後のことを口にするのも悲しい。

「だいじょぶだよ、アレックス。・・・それより、そんな簡単に居なくなるなんていわないで」
s2-48 (39)
命を軽んじてないアレックスがそんなことを当たり前に考えてしまうのが、
亡き兄ウィリアムの急死に所以してると分かってしまって堪らない。
誰にも見せない深いところで、この優しい兄がひっそりと傷ついたままなのが悲しい。
ウィリアムが開けてしまった穴は、エリンにもダイアナにも誰にも埋めてあげることなんて出来ない。

アレックスがまだ涙を飲み込んでいる中、自分の方が我慢できなくて泣き出してしまった。

「そんなの言っちゃやだよぅ・・・」
s2-48 (46)
会ったことはなくても、ここにウィリアムがいないことがダイアナも悲しい。
心の底から自分も亡き兄に会いたいと思った。

日が傾いてきた頃に頬が乾いて、やっと我に返る。

「・・・・あのね。きっとさ、・・・おじいちゃんとおばあちゃんとかになったときにね。
 今のこと思い出して笑うことになるんだよ。きっと。いい歳して2人で泣いちゃって~・・・って」
「・・・そうかもしれないね。そうだといいね」
「なるよ!なるなる」

そして兄と妹は、そっくりな顔で笑いあった。






ダイアナは何をするのかはイアンには明かさず、すぐに母の元に発った。
勿論、娘がアレックスの家の力を利用するために養子縁組するなんてこと母マーガレットは納得せず、
説得は困難に思われたが皮肉なことに背中を押したのはパパラッチ達。
まともに母子の外出も出来ない日々にとうとうマーガレットが折れた。
そして。









「ダイアナ、着替えないのか?」
s2-48 (73)
ベッドでの甘いコーヒーもほぼ終えて、いつもの朝と同じくイアンは身支度を始めてる。
しかし「んー・・・・」などとダイアナはベッドに張り付いたままだ。

「体調悪いのか?」
「ううん、違うよ」
「無理はすんな、パンプキン」
s2-48 (74)
イアンに優しく呼びかけられて、ふむ、とダイアナは決心が固まる。
そして彼女は裸足でとてて、と書類カバンの元へ行って1冊のファイルを取り出すと、タンスの上に乗せた。

「ねえ。イアンさ。そこの中身、読まないで説明されないでもサインできる?」

イアンが目線をやるとタイトルはない1冊のファイル。
サインということは確実に契約書の類だろう。
中身を見もせず、弁護士に渡しもせずサインするなど、資産家じゃなくてもどれだけ危険なのかくらい誰にでも分かる。
サインした瞬間に本当に全部失うかもしれない。

「あたしはもうサインしちゃった。
 だから、あとはイアンにサインしてもらえば終わるの。あたしのこと信じてくれてる?」
s2-48 (72)
愛情を図る駆け引きはしたくない。
けれど、これをイアンに提示するようになるまで、母マーガレットと話し合いで積み重ねた時間と涙を想う。

ダイアナがイアンがいれば何も要らないって言ったのは『とっくの昔』に言った通り。
そして勿論イアンもそうなる覚悟があるということを証明して欲しい。
あたしが飛び込もうとしているものに、イアンも同じ理由で飛び込める?



イアンからすれば朝の身支度の隙間の時間、しかも完全な不意打ち。
何の書類かも知らず膝を突き合わせて話し合ってすらいないが、2つ返事で事足りる。

「もちろん。いいよ」
s2-48 (75)
自分を騙すような奴じゃない。
知ってるし分かってるが、
こんな風に言い出す必要があるほどの重い何かがあるのなら一緒に飛び込んでやると思える。

そしてイアンは躊躇なくペンを取り出してファイルを開くと、
署名しろという指示のフセンがあるページだけをめくり、
既にある彼女の署名に並ぶ箇所に迷いなく自らの名前を書いていく。

そうして欲しかったけれど、予想以上の答えをくれるイアンにダイアナはわざと訊く。

「あたしにどうにかされちゃうかもなんだよ?イアン」
「今更だな。お前なら何されてもいいよ」
s2-48 (76)
2箇所指定がある両方を書き終えて、イアンはファイルを閉じた。

「あとは、任せる。で?こいつは何の書類だよ?婚前契約か」
「婚前契約書と、結婚宣誓書だよ!イアン!」
「・・・・・何?」

あまりのことにイアンですら理解が追いつかない。
ダイアナは宣言すると、同時にぴょんんぴょんぴょんと嬉しさ大爆発でベッドから跳ねる。

「今この瞬間に、正式にあたしたちは夫婦になりました!おめでとう!!!」
s2-48 (78)
高らかな宣言と共に、ぶっちゅう!とダイアナはキスをする。
そのまま情熱的なキスが終わって現実として理解したところで泡食ったのはイアンの方。

スーツの皺もどうでもいいとイアンはまたダイアナと座り込んだ。

「バカお前・・・・式してねえだろ」
「さっさと結婚したかったんだもん。いいじゃん」
「お前、・・・・ドレス着たいだろ?・・・・こんな・・・寝起きのついでにするようなのでいいのかよ。
 いくらなんでもやりすぎだ」
「やりすぎじゃないよ」
「パンプキン」
s2-48 (77)
そう叱るような響きで呼びかけてイアンは指先で鼻をつつく。
ダイアナの前でだけ見せる困り果てた顔で溜息をついた。

「あのね。式は式、ドレスはいつでも着れるの、そういうのはどうでもいいの!まずは嫌なこと全部片付けちゃえばいいんだよ。
 言ってなかったけど先週にあたしアレックスの籍に入ったんだ」
「・・・・・そうか。したのか。」

言い出しはしなくともイアンも解決策としてやはり思いついてはいたかと、ダイアナはそれ以上説明しない。
そしてイアンも先ほどのダイアナからの”試験”の理由も十二分に分かった。

さらにダイアナは、エリン達のことも全て教えてもらったと告げると、
アレックスが交換条件かのようにダイアナを巻き込んだのかまでも分かってしまってイアンは微かに眉根を寄せる。

「あの、バカ・・・・」
s2-48 (80)
そう一言だけアレックスに悪態つきながらもダイアナの手を握った。
変なかたちで兄と『夫』が拗れないようにと、寂しそうな笑顔で告げる。

「ちょっとアレックスがね・・・
 まるで自分がすぐ死んじゃうみたいな悲観的に考えすぎてる感じがあったから。
 自分の代わりにエリンを守ってあげてほしいって ・・・・泣いてた」

「・・・・。 何バカなこと言ってんだ、あいつ。大体ああいう奴がな、一番長生きすんだよ」
s2-48 (81)
イアンもまた隠されてたアレックスの悲しみを知り、ウィリアムのことに思い及びつつも茶化してやる。
大馬鹿野郎め。

そしてダイアナも大きく笑って頷く。
前にちゃっかりタラ教授の件を早々に逃げたのはまだ記憶に新しい。

「正直ね、あたしもそう思う。
 だからね。あたしがいることで心が軽くなるなら、そうしてあげたいと思ったんだ!怒らないであげてね?」
「怒んねえよ・・・・お前、どこまでいい女なんだ?あのうるさかったチビのダイアナはどこいったんだ」
s2-48 (79)
ドレスもタキシードも花も証人すらなく、
ただの朝の隙間の時間に2人は正式に家族となった。













数年ぶりに公式の場に出るアレックスと共に会見する日。
女性でも公爵を名乗る国とはいえ、ダイアナの珍しすぎる姿に登場時からフラッシュが集中する。
すでに概要発表はされており改めてアレックスの口からの説明となる。

「━━━━ 私達夫婦には残念ながら依然と後継者に恵まれてないため、この度の養子縁組と相成りました。
 彼女・・・ダイアナさんは私たち夫妻共々古くからの親しくしている友人であり、
 ここ数年彼女には我が家で花嫁修業をする、ということで一時的に同居もしていただいてました。
 私の妻と本当の姉妹のように親しくしていただいている、私が一番に信頼している友人・・・いや、すでに家族のひとりです」
s2-48 (45)
大嘘の中に真実を交えながら発表が進み、一拍置いてアレックスとダイアナが笑顔で頷きあう。
狙ったようにフラッシュが集中する。

「此度の縁組は、我々サウス家の所有地で尽力いただいている方々の生活を引き続き責任を持って管理すべく、
 当主として判断したものとなります。
 また彼女の代になったときに運営方針に関する方針が変わるのではないか等ご心配があるかもしれませんが━━━━」

世間の不安を払拭する誠実な響きの説明を経て、記者からこんな質問が出た。
元来友人だというダイアナだが、アレックスと似ている・・・・遠縁などのご関係ではないのか?と。

「そのご指摘を頂くのは初めてではないんです。何度かダイアナさんと私が似ていると言われたことはあります
 ちなみに彼女が私が12歳のときの子供で・・・・ということはないので、どうかご安心を」
s2-48 (49)
記者たちの低い笑い声の波が広がる。
一転してその笑いの中で実の兄妹という考えに及ばぬうちにとアレックスは堂々と続ける。

「そのご質問については今まで余り触れてはきませんでしたが、少しだけウィリアムのことを話させてください。
 彼を亡くして早くも13年になろうとしていますが、正直いまでも彼の電話に掛ければ普通に通じるんじゃないかと・・・
 そう感じるくらい彼をまだ身近に感じてます」

公爵家の双子の兄弟のあの事故は、この国でもまだ悲劇として記憶に新しい。
追悼イベントなど以外で実弟のアレックスが手持ちのノートもなく語ることは初めてで空気がしんと静まった。

「今日このようにダイアナさんを・・・信用できる友人のひとりを我々の家族を迎えることになり、
 そして、そんな彼女が私にも不思議と似てる気がする、
 ・・・こんなおかしな奇跡のようなことがあることを彼と分け合えたらどんなに良かったか」
s2-48 (47)
この厳かな空気に『ダイアナとアレックスが似ている』と下世話な意図で尋ねた記者は非常に気まずそうだ。
そんな彼にアレックスは微笑みかける。

「正直似てると言っていただけて嬉しいです、まるで実の妹のように思えますから。揃って垂れ目で良かった」

あっさりと妹、と言葉を使ったもののウィリアムからの流れで本当にそうだとは記者の誰も思わなかった。

次の質問は男装の麗人のダイアナに、担当のデザイナーについて。
彼女はにこにこしながらウォーレス・オードリーの名前を出した。
『夫』イアン・グレンツからの贈り物であるというエピソードも添えて。
s2-48 (53)





というわけで、
ダイアナが公爵家の次代後継者として発表になったことを一番大喜びしたのは彼となった。







「ウォーレス・オードリー。先日サウス公爵・・・”サウス元公爵家”に養子縁組されたダイアナさんですが、
 あのとき彼女が纏っていた服は貴方がデザインされたものだとか」
s2-48 (58)
デザイナー・ウォーレスはダイアナの会見を見て鼻血を出すんじゃないかというほど喜んだ。
今だって小躍りしたいが堪えて彼は礼儀正しく述べる。

「そうです。ああ、嬉しい。
 まずはこのインタビューを答える前に特別に元公爵家に関するプライバシーの秘匿義務を
 特別に一部免除していただいた、現当主のアレクサンダーさんとダイアナさんに深く御礼と感謝を。
 お蔭様で今回あのデザインについてもお話ができます」

ダイアナ本人達には報道規制があるだけに、皆ウォーレスから話を聞きたがってる。
といっても許されてるのは服に関してだけだが。
もちろん話題は「何故ダイアナが燕尾服なのか?」というところに。
s2-48 (57)
「ああ、懐かしい。今回の秋冬のデザインでも取り入れましたけれど、まず言うとしたら、そう・・・・
 わたし、おとぎ話の王子さまとお姫様のおはなしってね。本当、大嫌いなんです。
 非現実的すぎて、くだらないですからね。ほかの童話と違って教訓にもなりもしないでしょう」




「例えば眠り姫・・・・何百年も茨の森に閉じこめられて、眠ったままだったお姫様。
 ただ王子様に助け出されるまで寝てるだけなんだから楽?まさか。現世に馴染むために相当な努力したでしょう。
 なのにおとぎ話はそんなところ無視なんですから・・・・ ああ、くだらない」
s2-48 (54)
エリンは新たな美術館オープンにむけて館長として日々走り回ってる。
夫アレックスと共に諸外国を回ることとなったため、
元々一人暮らし用にするつもりだったあのサンセットバレーの家は建て替えることとなった。



「それに眠り姫を助けた王子様は?
 お姫様を茨の森から助けただけで戦いは終わり?まさか。
 右も左も分かってないようなお姫様のお世話だって大変なのに、そんな女性連れ帰った後のほうが大変でしょう。
 言えない苦労の方が多いに決まってます」
s2-48 (55)
アレックスは相変わらず。
描きたいときに描くという、彼曰く”最高に幸せの日々”を送ってる。
家の建て替えに関することは彼に一任された ━━━━ もちろん建物の色は白だ。




「これだけ文明が進んでも女の子が話してもらうお話が、まだ『王子様がお姫様を助けるべき』だなんて・・・・ ああ、ひどい。
 男は常に王子様であれ、なんて押し付けるなんて可哀相です。
 本当は男性だって何かで苦しんでて救われたいって願ってるに決まってるのに」
s2-48 (56)
イアンは自身の会社の契約更新をしないことに決め、契約満了をもって辞職することなった。
もともと何か新しいことをやりたいと思っていた自身の気持ちのまま、
・・・・次にやることはまだダイアナにも明かしていない。
目下、ダイアナと式の準備をしている。




「いまは助ける役目が王子様なんていう時代は、とっくに終わりました。
 ぬいぐるみ抱っこして、おとぎ話を読んできた女の子だって、
 時には”王子様”になる必要になるときがある ━━━━ そうでしょう?」
s2-48 (59)
ダイアナはいつのまにか今の自分とちくはぐになってしまった可愛い部屋に別れを告げた。
兄夫妻の家に置いてあった荷物を全て片付けたが、
初恋の日に出会った”彼”とはこれからもいっしょだ。





後日ダイアナのウェディングドレスの注文がウォーレスに入って、彼はまた小躍りした。

ただしイアンの厳命により燕尾服やタキシードにベールをつける類はナシと釘を刺されると、
昔ダイアナと揃ってしたように「わかってませんね」と電話口で肩を竦めた。


→第49話




第47話 庸一とリズの決断 the boss of Alians

←第46話



少しだけ時間をさかのぼって例のクリスマスパーティーの夜。
自宅に2人だけで引き上げたアレックス夫妻はというと。
s2-47 (1)
「随分みっともない顔になったな・・・」
「あら。男の勲章って言ってもいいんじゃない?」
「・・・・不良じゃあるまいし」

複雑そうにベッドに寄ってきたアレックスに、にこにこしながら一切の躊躇もなく消毒液を吹きかけるエリン。
さらにはガサツな妻は傷を容赦なく叩き始めた。
痛い。
愛ゆえに数回我慢したところで、可能な限りの笑顔でアレックスは彼女を止める。

「・・・・・もう、いいよ。どうもありがとう」
「あらそう?痛いところはない?」
s2-47 (2)
パーティを飛び出たダイアナはアンドリューが追い、今日は帰らないと思うと申し訳なさそうに連絡があった。
既に和解が済んでしまったとはいえ自分のせいでアレックスとイアンが殴り合いまでしたわけだから、しょうがないか。
ダイアナを思いながら息を吐いて2人でベッドで寛いでも気持ちは晴れない。

「何か飲む?エリン」
「お酒って感じじゃないわ。今日はすぐには寝れなさそう」

アレックスは「俺もだよ」と苦笑い。未来からやってきた自分自身と対面したのは、つい数時間まえだ。
彼はそのまま寝室に常備している簡単なティーバッグのお茶を淹れる。
夜には寝酒、朝はカフェインの夫婦が普段はあまり飲まないハーブティーの香りが優しく広がり、
目を閉じて猫のように香気を楽しんでいるエリンをしばらく眺めた。
s2-47 (3)
「エリン。少し話をしようか」
「なあに?ケンカ講座?」
「あはは、違うよ」

イアンと殴り合ってる最中に指摘されたエリンのこと━━━━
その瞬間は怒りが爆発する内容でしかなかったが、真相が分かった後に改めて指摘はされた。
イアン曰く、無意識か意識してるかは分からないが妻が自分に罪悪感を抱いてるんじゃないか?と。

それはまたイアン自身がダイアナがそんなものを抱えなくていいように心砕いているからこそ気づけたのだが
アレックスはそこまでは知らない。
ところがイアンのように器用な話運びなぞできないのがアレックスで・・・非常に分かりにくく尋ねる。
s2-47 (4)
「エリンは、俺に”悪いなあ”って何か思っていることがあるのかな」
「? 感謝はしてるけれど普段生活しててあなたに申し訳ないなんて思ったことはないわ。私悪いことなんてしていないもの」

毅然と応えるエリンは、やはりどこかお姫様然といった感じだ。
するとアレックスの意図が分からないエリンは怪訝な顔をしながらベッドに座り、
「私がお茶淹れたほうが良いの?あなた、いつも好きでしてると思ってるけど」と眉を寄せるので彼は柔らかく微笑んだ。

「そうだよ、そういうのは好きでしてるから大丈夫。俺が訊きたいのはそうじゃないんだ。
 どうも話が上手くできなくて・・・俺が実家に戻ったときのこと、それを・・・自分のせいだとか気にしてはしない?大丈夫かな」
「気にしていないと言ったら違うけれど・・・申し訳ないとか、そういうのとは違うわ。
 お疲れ様、ありがとう、とは思うわ。いまでも」
s2-47 (5)
元々自身の考えをきっちり持ち自立していることを好むエリンにここまで真っ直ぐと答えてもらった以上、
さらに質問攻めするのは憚られた。考えすぎなんだろうか。

「アレックス、手とか目は本当に大丈夫そう?」
「大丈夫だよ。随分気にするね、さっきから」

これを訊かれるのはもう数回にもなるが、殴り合ったとはいえ頭を強打もしてないし急所は外してる。
子供のようなケンカだったがイアンもアレックスも30過ぎの大人だという、ささやかな証明だろう。

「奥さんは気にしすぎだね。こう見えてもそんなにヤワじゃないよ」
「そんなことないわ。ただでさえ長く描けてなかったのに、また暫く描けなくなったりしたら大変でしょう」
「まあ、そうだけど・・・ 別にそんな描けなくても焦ることじゃないし大したことじゃないよ」

アレックスが朗らかに言うと、
エリンの気配がピリッと鋭くなって「大したことあるわよ!」と返されて目を丸めた。
s2-47.jpg
「あなた描くのが好きなんでしょう?なのにこんなに若くて、才能だってあるのに3年も時間無駄にしちゃったんだもの。
 もう何も、あなたの邪魔なんてしちゃいけないのよ!」

あまりに必死にそう言われた瞬間、アレックスには彼女が自覚していないものの正体が分かった。
かつて寺院の奥で周りの都合にのみ縛られた小さいエリン自身と、
自ら選択したとはいえ事情があって絵から離れざるを得なかったアレックスを重ねてるのだ。
それはイアンが思っていたよりも根深い。

「エリン。何年無駄とか、無駄じゃないとか・・・・そんなの考えたこともないよ。考える必要もないのに」

そういえばこういう話はちゃんとしてこなかったとアレックスは思い直し、
怪訝な顔をしているエリンに柔らかく微笑みかける。

「幸いうちは十分暮らしていける状況だからね。そうすると俺は好きなときに描ければいいし、描きたいように描くだけだよ。
 誰かに譲れそうなものが出来たら譲れればいいし、譲りたくなければ譲らないでいい。
 ・・・・もしエリンが”画家として成功”とか気にしてるなら、もうしてるも同然なんだよ?少なくとも俺にとってはね」
s2-47 (7)
もしもいま、最悪何らかのために絵を離れざるを得ない状況になったとしても
エリンとのつながりも消えることはないと安心していられる。
かつてなら信じられないほど自由で、幸せで・・・これは画家として最高に恵まれた環境だ。
でも元々芸術好きで小さな画廊までやっていたエリンは不満そうに言う。

「でもあなたの絵・・・もったいないのに・・・・」
「最近仕上げたのは誰かさんのあられもない姿だったからね、あれはダメだよ。他人に見せるくらいなら燃やす」

ずっと昔からちゃんと描きたいと思っていたエリンの絵は描けたものの、
ふと我に返れば他人には見せたくないほどに彼女の肌が露なものとなりアレックスとしては門外不出の絵になってしまった。
彼もエリンも出来は気に入っていたが家の中にすら来客に見られる可能性があって飾れないでいる。
s2-47 (6)
「アレックス、茶化さないで」
「あははは・・・・・エリンにとっては誰かに売るために描かなきゃ画家じゃない?」

ぱちん、とその瞬間、エリンは何かから目が覚めた気がした。そして頬に熱が集まる。
アレックスの絵の一番のファンで支援者だと自負してたものの、自分だけが力んでいたらしいことにやっと気づけた。
その様子にアレックスは気づくが見て見ぬふりをして微笑む。

「俺はいまが一番気楽で幸せだよ、エリン」

ダイアナという異母妹がいたとしても、アレックスの根っこはお気楽末っ子次男坊のままだ。
とうとうエリンは「なら、よかったわ!」と恥ずかしさのまま大きくベッドを揺らして頭を反対に向けた。
でも恥ずかしさは逃げ場がないらしく、八つ当たりの材料を見つける。

「そういえばあなた、さっき私のこと疑ったでしょう」
s2-47 (10)
「え?」
「私がケンカ止めたとき、私がイアンを庇って”嘘ついてる”って言ったわ」
「ん?言ってないよ」
「最後まで言ってないけど、あなたそう言うつもりだったでしょう」

おや、バレていたのか。事実は事実だ、嘘は付けない。
実際にアレックスとしては、あのエリンの話を信じろといわれても無理だった。

「疑って悪かったよ。ごめんね」
「アレックス?そうやってにこにこしてれば怒られないとも思ってるでしょう!」
s2-47 (8)
本当にそんなこと思ってはないがエリンがこうしてぷりぷり怒るようになった姿は可愛すぎるから、やに下がるのは仕方ない。
昔じゃありえなかった愛らしさが満載だ。
むくれた”ポーズ”の顔をしてるエリンに正直に明かす。

「さすがにそんなことは思ってないよ、こういう顔なんだ。
 でもそうだね・・・疑ったっていうより間違ってると思ったから言ったんだ。でも俺のしたことは空振りしちゃってたね。
 自分の目で見たことの限りじゃ、あのときのイアンが間違ってると本当に思ったから」

でもアレックスは自身が間違ってて良かったとも思う。
誰も悪い人間もおらず・・・すれ違っただけでイアンが裏切り者じゃないと分かって本当に良かった。
アレックスの頭に人生で最大の過ちが頭をよぎる。
s2-47 (11)
『俺が欲しい物はあなたが欲しい物ですよ、オーナー。・・・・やりましょう、一緒に』

自分の想いのまま間違いだと分かってるくせに目を背けた結果ダイアナを自分達の罪に間接的に巻き込んでしまった夜。
エリンの絶望にまみれた泣き声はアレックスの頭から離れない。
口先でしか慰められなかった自分の情けなさも強烈に嫌な記憶として残ってる。

前にダイアナにはエリンの料理の話題になったときに
大いに呆れながら「エリンのことならホイホイ何でもオッケーなんだからっ」と揶揄されたが
実際アレックスの根底にはかつての後悔とともに強い誓いがある。
s2-47 (9)
大切なことはもう二度と間違えないし間違えさせたくもない。
そのためにはエリン自身と正面からぶつかってでも夫として守りぬくと決めた。何でも従うような愚昧な男なわけがない。

「エリン。悪かったね」
「・・・・ちがうわ、私が黙ってたせい。ちゃんと言えばよかったんだけど、ごめんなさい」

エリンが謝りやすいようになら喜んで先にでも謝る。そのくらいで自分はどこも傷ついたりはしない。
そのまま彼女はアレックスに擦り寄って目を閉じた。
それでも「あなたすぐ謝るんだから。けんかにもならないじゃない」とチクりと刺してはくるのでアレックスは笑う。

「あとね。エリン、前にイアンからの仕事を断ったよね。やりたいのに」
「なあに?事の真相が分かってイアンを見直したから、やっぱり受けたほうがいいって旦那様は言うのかしら。
 離れ離れになるのはもうイヤだし、あなたもそうでしょう?だから断ったのよ。それでもういいじゃない」
s2-47 (14)
潔いといえば聞こえはいいが、このすぐに結論に飛びついてしまうのも良し悪しなんだなあと
アレックスは昔よりも少しだけ俯瞰気味に彼女を見れる。

「エリン、今の俺の話を聞いて実はいい解決策があるっていうのは考えた?」
「あら。イアンの財産でも取り上げるの?ダメよ、悪いことは。カツアゲくらいにしないと」とエリンが可愛くふざけて、
アレックスはまた笑った。

「エリン。俺はいつも身軽に財布だけ持って一人で世界中を旅してしまう君に憧れてもいたんだよ。
 俺の絵のことも・・・俺が毎日必死にサンセットバレーでキャンバスに齧りつく気もないと分かってもらえたようだし、
 こうは考えられない?━━━━ 今度の”獲物”を探す旅にお供が増えたらどうでしょうか、”館長さん”」
s2-47 (13)
アレックスの目の前で花開くような笑顔が広がって、それは何度見ても美しく愛らしいと思う。
それから「あのねあのね」と子供のように気になっているという絵や画家の話をエリンは子供のようにしだして止まらない。
ひと段落した頃にまったりとした眠気がお互いに降りてくる。
まだ枕が逆のままなのにお互いの温かさのせいで長めの瞬きをし始めた。

「・・・ この家を明けて君の仕事ついでに色々回ろう。最初に行くのは・・・」
「当然フランスでしょ」
s2-47 (12)
「うん。そうだね」

亡き兄の”家族”・・・甥ミシェル達のところが最初の目的地だと分かっていてくれるのもアレックスには嬉しい。
そうしてアレックス夫妻の問題がやっと前進したが、ダイアナの件が片付いてからイアンには話そうと夫婦で決めた。









そして過去から戻ったダイアナと現在のイアンがやっと再会することとなったという電話を
”甥”アンドリューからもらったアレックスは心から安心して微笑む。

「エリン。アンドリューから電話でダイアナが帰って来たみたいだよ」
s2-47 (17)
「そうなの!良かった。無事なのね・・・・そういえばイアンは傷治ってるのかしら?」
「さあ。残ってるべきだとは思うけどね」

夫アレックスがまるでイアンのようにチクリとした物言いをするのでエリンの笑みが深くなる。
念のためとアレックスは妻の期待を抑えにかかる。

「たぶんダイアナはこのままイアンのところで暮らすんじゃないかな。・・・・少し、寂しくなるね?」
「あら。アンドリューは戻るでしょう?だってイアンの家にアンドリューまで行ったらお邪魔虫だもの。
 それにもし万が一あの子が一人暮らししたいって言っても家が見つかるまではうちに暮らすんだから平気よ」
s2-47 (18)
「はは。なるほど」
「あなた、アンドリューのこと忘れてたの?言~っちゃおっと」

さすがに慌て気味に「忘れてないよ」と言ったところでエリンはどこ吹く風だ。

「エリン、俺が言いたかったのはそういうことじゃないよ」
「分かってるわよ。本気で受け止めないでちょうだい。・・・とにかく、これで何ももう心配ないわね!」
「そうだね」
s2-47 (15)








などと安堵しているアレックス夫妻の自宅から数キロ離れた山すそ近くの大学の寮。
早くも夕闇がやってきていて、そこには転がるような勢いでイアンの家を飛び出したダイアナがいた。








「早かったね」
「イアンの家近いから!リズ、売ってるやつで検査したの!?」
s2-47 (19)
「声でかいっ!!・・・・とりあえず入って」

大学生といえば親から自立してお金は無く、基本的にみんな学生寮やらルームシェアをしてる。
客員とはいえ教授という立場のダイアナは変装もどきをしてやってきた。
リズの部屋に入って、やっと話を始める。

「ついさっき病院いったとこ。あー・・・あたし結構生理不順でさ、たまたまそれでね。分かったんだよ。
 あんたに電話しようか考えてたんだけどまだ繋がるか分からなかったんだけど、そしたら掛かってきたんだ」
「リズ、だいじょぶだよ。あたしがついてるからね」

覇気のないリズの顔に堪らずハグして、しばらくぎゅうぎゅうとくっつきあう。
s2-47 (26)

「身体は大丈夫?えっと、ごめんね。正直そういうこと分からなくて車の中でネットしながら来たんだけど・・・
 体調とか、どんな感じなんだろ」
「相当初期だって。5週め?風邪だと思ってたんだよね。まあ、ダルい」

リズは普段から普通に散々酒も飲んでいたため病院で泡食った自分にも驚いた。
幸い初期過ぎて影響はまだないそうだが、分かった以上もうお酒なんて飲めないな・・・と
まだ何も決めてないけれどリズはぼんやり思う。

「あのさ、庸一には・・・?」
「・・・・・ダイアナ電話してくんないかな」
s2-47 (24)
「ん"~~~~ いつものケンカとかならしたけど、こればっかりはな~~。あたしからじゃダメ!ダメだよ」

イアンに車で送ってもらうときも
「当事者じゃないお前が動くなよ」としっかり釘を刺されたし、その通りだと思う。
すると廊下で金曜夜らしいルームメイトたちの大学生らしい騒ぎ声が爆発して酒飲みが始まったようだ。
これ以上深刻な話をするのは憚られた。

「あのね、ここだと他の人もいるから・・・ホテルの部屋を取ってはあるんだ。そこで2人で話したらどうかな?
 庸一がくるまでは居るから、とりあえずそこの方がゆっくりはできるよ」
s2-47 (27)
このダイアナらしからぬ金のかかりそうな気遣いの裏にイアンがいるのが分かる。
散々つっかかったのにと彼に非常に申し訳ないながらも、リズは心からほっとして頷いた。
いつもなら飲みには率先するリズでも今はルームメイトの酒の誘いを流す余裕もない。

「でダイアナはグレンツさんとこから来たつってたけど仲直りもできたの?だいじょぶ?」
「んも━━━!あたし達の心配はいいのっ、イアンもだいじょうぶ!
 とりあえず最低限の着替えとか持って出よう。廊下で酔っ払った誰かにぶつかられたら大変だよ、早く早く」

リズにはまだ実感なんてないのに早速ダイアナに妊婦扱いされる。
s2-47 (28)
そして姉妹のような図々しさでクローゼットから旅行カバンを取り出したダイアナ。
ふいにガクリとよろけるのでリズのほうが慌てた。

「ダイアナ、そんくらい出来るよ」
「あ、大丈夫大丈夫。ちょっと膝に力入らないだけだから!平気平気」

自ら進んで運動するタイプじゃないダイアナに、リズは「なんでさ?」と純粋に尋ねる。
そこをツッコまれるとは思わず、内心でぴゃっとダイアナは飛び上がった。
何を”頑張りすぎた”かは言えない。

「えっ・・・と、 ちょっとスクワットしすぎてっ?」
s2-47 (29)









まず庸一が驚いたのは元々予定してた今夜のデートをキャンセルしてきたはずのリズが
サンセットバレーでも最高級の部類のホテルに来て欲しいと呼び出してきたこと。
サプライズでロマンティックなデート、なんてリズもらしくない。

s2-47 (31)
そして指定されたのは相当高そうな━━━━ 部屋番号表記じゃない固有名詞の部屋なので
イアンがアレックスが絡んだパーティーの類かもしれないなと一応準備の上でやってきた・・・にもかかわらず。
出迎えのダイアナが普通の服でいたことにも驚いた。

「・・・とりあえず指定がなかったんで適当に酒にしたんだが。ダイアナ、お前はもう大丈夫なのか?」
「へっ?お酒?! んも~、庸一ってば何とんちんかんな事してんの!こんなの頼んでないじゃん!」

そしてダイアナは庸一の手土産のワインバッグをさっさとテーブルへ。
顔を合わせるのはクリスマス以来だったので心配したのに当のダイアナは相当あっけらんとしている。
さらに庸一と入れ替えに部屋を出ると宣言されてサッパリ要領がつかめない。

「どういうことなんだ?これは」
s2-47 (34)

「詳しくはリズから聞いて。
 あのね、少し体調悪いみたいだけど、さっき一緒にリズとご飯は食べたから。
 リズとか庸一の部屋だと週末って騒がしいでしょ?お節介かもしれないけど、この部屋必要なだけ使って大丈夫だから・・・
 くれぐれも体調気をつけてあげてね?何かあったら絶対電話して」
s2-47 (35)
だだっ広い落ち着かない高そうな部屋に?マークを浮かべた庸一が取り残される。
パーティーの類ではなく看病ならと気を取り直し、まずはリズを探して入った。
ちょこん、という表現がふさわしく、その態度とは逆に小柄なリズはベッドに座っていた。

「こんなところに避難するなんて、熱どのくらいあるんだ。病院行った方がいいだろ」
「病院には行った」
s2-47 (37)

「そうなのか。必要なら俺を呼んで良かったんだぞ、リズ。
 ・・・・こんな場所で集まって何かあるのかと思ったから、こいつにしたんだがチグハグだったな」
s2-47 (39)
庸一が先日買ったばかりのジャケットを下ろしているのに気づいてリズは少し笑う。
少し元気がない笑い方だ。
そんな彼女の額に手を当てて、庸一はふむと宙に目を巡らせた。

「少し熱い気がするな」
「あ、熱が少し上がるんだってさ。妊娠すると」
s2-47 (38)
「なるほど。そうなのか」
「そうなんだってさ」

”妊娠すると”。
もともとは日本生まれの日本育ちの佐藤庸一。
既にこの国の高等教育を問題なく受けれるレベルで言語に問題は全くないが、
その聞き慣れないフレーズを脳で噛み砕いて理解するには相当時間がかかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

真っ白の頭で、そのままリズのベッドに座る。
リズや庸一のルームシェアの家と違い、一切の物音がしない。
s2-47 (40)
「あのときか」
「まあ・・・たぶん。あんときだろうね」

2人だけにわかる、1回だけ避妊が”失敗”していたかもしれなかった時があったのを揃って思い出す。
そのまま床の1点を見つめながら考え込む庸一にリズのほうが声をかけた。

「庸一、あんた平気?」
「俺は全然なんともない。でもどうなるとかの前に、・・・気をつけてたんだが、リズに負担をかけることになって悪いと思ってる」

「まあこういうのは連帯責任だし、落ち込まなくていいって」
「リズ、考えながら話す」
「いいよ。聞く」
s2-47 (36)
「俺はもともと、卒業したら結婚したいと思ってる」
「だからあんた、時々、さすがに、っ・・・・・・・・何言ちゃってんのさ!」

「そういうつもりで付き合ってたつもりだし、そうしたいと思える相手はこれからもお前だけだと思う。
 今まで生きてきて、他に好きになったことのある相手自体居ない」

相変わらず毅然と照れもせずにキッパリ言い切られて、
言われたリズのほうが「ぇー・・・ぁ-・・・ぅー・・・まあ・・・そう・・・」と、ごにょごにょ言い淀む。
西洋だろうが東洋だろうが恥じらいの慣習ぐらいあると何度言ったら分かるのか、この男は。
s2-47 (43)
「それはもっと先の将来で、卒業して就職して準備もした上で、そうなるものだと考えてたんだ」
「・・・・・・あたしもそうだよ」

バイトと勉強に追われながらも西海岸の有名大のひとつに入ったからには、それなりの目標もある。
学費だけは親の世話になってても、2人とも一般の学生と同じく生活費やらは自分達でバイトしたりして稼いでる。
安くてボロくて壁の薄いシェアハウスで、遊びすぎてお金に困ったってコンフレークで適当に我慢すればよかった。

「子供ってどのくらい金が掛かるものか分かるか?」

その庸一の問いに経済学を齧ってるリズなりに答えたのをきっかけに、2人はしばらく現実問題として考え話し込んだ。
いまどきは便利なもので携帯で大学の休学のことも調べられる。

「リズ。結論も出てないのに言うべきじゃないのかもしれないが、言うべきとも思うから伝えておく。
 俺は、俺の子供の母親にお前がなってくれるのは嬉しい」
s2-47 (44)
「・・・ども。」

それから数日2人だけで話し合った。









そして結論が出てすぐ、庸一は招かれてイアンの家にやってきた。
早くも体調がどんどん悪くなってきている身重のリズはいない。イアンは大きな痣をつけた彼の顔を遠慮なく見ながら頷く。

「見事にやられたもんだなァ」
「いえ。すぐに謝られたうえに泣かれてしまってリズのオヤジさんには悪いことしました」
s2-47 (48)
過去から戻って3週間のダイアナはエリン夫妻の予想通り、過日を取り戻すかのように彼の自宅でほぼ暮らしている状態。
すっかり居ついた様子で「庸一、何かで冷やす?」と尋ねる。

「一昨日の傷だし、見た目が派手なだけで大丈夫だ。オヤジさんにやってもらった」

しかしダイアナの方が痛みに辛そうに腫れた庸一の顔を見つめた。
もともとリズが空手をやってたのはリズの父親もやっていたからだ。その一撃は相当に痛かっただろう。
庸一もほんの少しとはいえリズ親子と一緒に空手もやっていたし、幼馴染であるから家族ぐるみの付き合いがある。

「ホテルの手配のお気遣いも本当にありがとうございました。リズと一緒に住んで子供を育てるつもりでいます」
「そうか。ついでに訊くが2人とも大学はどうすんだ?」
s2-47 (46)
「リズは体調のことを考えて、とりあえずもう休学になってます。ただ俺はもう辞めて働くつもりです」
「呼んだのはそのことなんだよ。休学になると別に払う金も必要だし、暮らしてくにも色々必要になるだろ。
 仕事探すなら紹介できるクチがあるってのを言いたくてな」

いつもほぼ表情を動かさない庸一でも、予想してなかった申し出に目を丸めた。
正直非常に助かる。
が・・・ 一瞬だけ考えた後で、庸一はきっぱりと「さすがにそこまではお世話にはなれません」と断った。

ダイアナとしては、イアンから正直庸一を招くようにと言われた時点で、
もしかしたら仕事とか紹介するのかなと薄っすら予想はしてたが同時に庸一が断りそうというのも予想していた。
はらはらと成り行きを見守とうとすると「ダイアナ、ちょっと2人で話す」と、イアンから退出を促される。
s2-47 (49)
「! はいっ! あたし上に行ってます」

ダイアナの足跡が遠くまでイアンと庸一は無言で床を見つめる。
口を開いたのはイアンから。

「大丈夫か?別にもうダイアナはいねえから気にすんなよ。あいつらには知られねえよ」
s2-47 (47)
あいつら、とイアンが指す中には庸一がこれから支えていかねばないリズも含まれる。
今回のリズの妊娠が発覚してから、庸一にとって責めもせず淡々と話を聞いてくれそうな年上の大人はイアンが初めてだ。
簡単に促されただけで張り詰めたものが少し、ゆるむ。
1回くらい肩の荷を降ろせとイアンに暗に言われて、庸一は初めて苦しそうに喉を震わせながら庸一は息を吐いた。

「イアンさん。俺が親になるときは、・・・・自分も自分の親と同じように・・・大学出て、就職して、
 当たり前に受け取れる毎月の給料を受け取って、・・・結婚して、・・・なるもんだと思ってました」

自分の抱えることになるものの重さと、今から自分が飛び込もうとしている不安定な状況を考えるだけでぞっとする。
混乱してないといったら嘘になる。

「ならお前、何で俺からの紹介断ろうとしてんだ?」
「それは・・・・」
s2-47 (45)
庸一は泣いていた母親と、殴られはしなかったが大きく失望の溜息をついた自分の父親を思い出す。
決して無責任にリズと付き合ってきたわけではなかったのに
結果的にはそう見られてしまうことになっているのだと改めて自覚させられる。
かしましい姉3人すら驚いたままながらリズの心配はするものの、悲しそうな怒っているような顔をそれぞれしていた。
特に厳しい顔をしていたのはイアンの部下の長女・真紀子だ。

「イアンさん。さすがに自分の姉の上司の方に、そこまでの世話にはなれません」
「くっだらねえなあ。姉貴のメンツだとか気にしてる場合か?お前。1年もしねえうちに親父になんだぞ、娘か息子の」
s2-47 (52)
言葉はキツいもののイアンはごくごく軽く聞こえるように言い放ち、顎で招きながら冷蔵庫からビールを出した。
庸一は複雑そうながら耳を傾ける。

「俺に紹介されたことで姉ちゃんだとかダイアナだとかとか気を遣うのも分かるけどな。そんくらい目つぶっとけ。
 紹介つっても募集かけようとしてるところを教えてやる程度だから気にするな」
「しかし」
「知られたくないなら姉貴にもリズにも黙っとけ。
 お前も社会に出るなら、こんくらいの世渡りの狡さは覚えとけよ。ガチの真面目は疲れるだけだぞ。
 俺のツテの特別別待遇なんざならないから、真面目に働く必要はあるからな。ま、頑張れよ」
s2-47 (53)
そう茶化されたところで庸一は頷きながら重ねて御礼を言い、その話に甘えることにした。
庸一が指示されるまま彼のデスクに無造作に置いてある書類を手に取ると、イアンがその会社の説明をしだす。

「組織としちゃ小さいトコだしな。
 給料もいいとは言わないが残業だのの面倒もない方がいいだろ。個人的にオススメなのは社宅手当て付ってとこだ」
「すごくそれは助かります」

さて、どんな企業なのかと社名を見れば・・・・・

「・・・・イアンさんの会社ですよね、”グレンツ財団”」
「会社とは別。そいつは完全に俺個人の所有なやつ。お前らは姉弟揃って、この俺に頭上がらないってこった。せいぜい敬え」
s2-47 (57)
ニヤリ笑われたところで庸一はもう一度御礼を言った。
そしてイアンは照れ隠し半分、からかい半分でくだらない話題を切り出してみた。

「それにしても庸一。お前としては同じ幼馴染のダイアナって選択肢はなかったのか?」
「俺がダイアナに魅力を感じたことは1度もないですね。全然、まったく。これっぽっちもです
「そこまで言われると腹立つな」

そうツッコみながらもイアンは心底楽しそうに低く笑っているなか、庸一は淡々と述べる。

「あいつガキのころから難しい問題も平気で解いてたし、中古の電気のおもちゃ買って分解するような変人だったんで
 俺の中だと人間というよりは宇宙人に近いんです。
 リズは会った時から”女の子”って感じだったですけど、ダイアナは知るほど”宇宙人の友達”って感じで・・・
 正直、あのダイアナがイアンさんとこうして暮らすようになったのも頭で分かってても驚いてます」
「はっは!なるほどな」
s2-47 (58)
「でも普通にしっくりしてて安心しました。あいつのことよろしくお願いします。変わり者だけど、いいやつです」
「お前はどっかの兄貴よりも、よっぽど兄貴っぽいな」

ぺこ、と庸一が頭を下げたところで、
イアンが階段の方に向かって「終わったぞ」と呼びかけると、
階上でそわそわと待っていたらしいダイアナが笑顔で犬のように駆けてきた。









テレビでは人気の毒舌司会者が相変わらずの調子でゴシップニュースを取り上げている。

『お次はホヤホヤのホットニュースよ、ラテン好きのいい男が好きな諸君はハンカチのご用~意!
 最近じゃす~っかり女関係もゴブサターってことで、ネットじゃゲイ疑惑も出てた”あの”イアン・グレンツ。
 んもう信じられるぅ?あたしはコレ見た瞬間叫んじゃったわよ。イアンの裏切り者っ』

画面がパッと切り替わり、パパラッチがばっちり撮影したらしいデートの写真が映る。
s2-47 (60)
『先週土曜日にパパラッチがキャッチしたのはお坊さん?ってくらい女断ちしてたプレイボーイの超ひっさしぶりのデート姿!
 人目も気にしないでスターライトショアで仲良くお買い物してたらしいけど、このお隣。
 若いだけの娘だと思ったら大間違い。サンセットバレー大の教授様だって!
 イアンってば金の次は頭脳も手に入れて、とうとう地球征服でもするつもり?』

サンセットバレー大の女教授・・・・?
ゲイの司会者の軽快で皮肉たっぷりで人気を博してるファッションとゴシップの情報番組はその新恋人にフォーカスしだした。
s2-47 (61)

『そのラッキーな赤毛さんのお名前はダイアナ・ヨーク。イアンてば赤毛好き?
 このデートの時の彼女のファッションはお揃いのサングラスで彼と揃ってカジュアル。足元は黒のサイドゴアブーツ❤
 イアンは相変わらずお気に入りの”ウォーレス・オードリー”のセーターをだけど彼女とブランドまでお揃いみたいで・・・』
s2-47 (62)
どこから情報を仕入れるのかというような、彼らが着ている洋服とバッグのブランド解説が入る。
そしてひと段落すると、画面では写真のダイアナのピアスとイアンの左手にある揃って赤く輝くアクセサリーが拡大される。

『何といっても1番のファッションポイントはここよ、ここ!
 イアンがペアモノ付けるような女って初めてじゃない?しかも石付きって一体どういうことなわけ!?
 相当年下な彼女だけど、これじゃ結婚も秒読みなんじゃないかってのがあたしの予想』

とうとう画面いっぱいに新恋人ダイアナの顔が映った。

『大富豪は幼な妻がお好き?
 番組では今後も”ダイアン”の情報を追ってく予定よ、ご期待してちょうだい!』
s2-47 (68)
早速ダイアナとイアンの名前を繋げたカップルニックネームが付き、番組は次のゴシップネタへと移ってしまう。
自室で惜しげもなくその身体を晒して仕事をしていた彼女は憤然と立ち上がった。








イアンとダイアナには既に色々な取材攻勢も始まっていただが当のダイアナは堂々としたもので問題もなく。
気をきかせたアンドリューはエリン夫妻のもとに暮らしたまま平和に過ごしていた。
エリンと初春の庭でのんびりガーデニングをしていたアンドリューの挙動が突然ぴくっと猫のような反応を見せて止まる。

「アンドリュー、どうしたの?」

答えないアンドリューが立ち上がると、
玄関から海岸向かいの庭に回ってきたらしい来訪者の凛とした声が響いた。

「金髪美女と2人きりでガーデニングとはな。ボウヤのお前も随分色気づくようになったものだ」
s2-47 (72)
突然現れた彼女にエリンが驚くと同時にアンドリューが嬉しそうに「タラさん!」と笑う。
褐色の肌にかっきりとした眉のエリンに負けずとも劣らない身体の持ち主は微笑みながらも大きく表情は崩さない。

「落ち着きなさい、アンドリュー。まずはわたくしをこちらに紹介するのがマナーだろう」
「エリンさん!!こちらはタラ教授です。イギリスの大学のときの先生でとっても仲良かったんですよ!」
「あら、先生・・・なの?」

「こちらはエリンさんです。オーナーと僕が一緒に住ませてもらってたんです。
 タラさんにはお伝えしてた、お兄さんのアレックスさんの奥様です。オーナーが中学の時からお友達でもあったんですよ」
「おやおや。ダイアナはそんな昔に美女を口説いていたのか?相変わらずアブない娘だ」
s2-47 (73)
来訪者の正体が分かり、
さらにはダイアナが異母兄アレックスのことを明かしてるほど信頼に足る人物だと分かって
初めてエリンは笑いかける。

「お会いできて嬉しいですわ、タラ教授。初めまして、エリン・ウッドヤードです」
「わたくしのことは、ただ”タラ”とお呼びいただいて結構。
 貴方のような美しい女性には敬語など使ってもらわないほうが方がありがたい」
「面白い方ね。それじゃあ改めてよろしく、タラ」
s2-47 (75)
威風堂々、力強く媚びも含ませずにタラは言い放ち、
その彼女の小気味よさにエリンも声を上げて笑って堅苦しさを取り払う。
アンドリューといえばまるで小さい子のように目を輝かせる。

「連絡くれたら僕達すぐに迎えにいったのに水臭いですよ!」
「急にこちらに来ると思い立ったのでね、お前達の予定もあるだろう。これもわたくしなりの気遣いだ」
「でも結局こうやって急に来るなら僕達の予定無視してるじゃないですか」
s2-47 (74)
「おお。それもそうか。中々鋭い突っ込みもできるようになったのだな、アンドリュー。可愛いボウヤも世間擦れをしたようだ」
「”可愛い”も、”ボウヤ”も止めてくださいっ」

そうして彼らが久方ぶりの再会を喜んでいるところに、エリンが呼んだアレックスも混ざる。
エリンのときと同じように紹介を交し合い、やはり同じようにフランクにしようと確認しあった上で、
”元”公爵であり、彼のことをニュースでなら知っているタラは片眉を上げて笑いかけた。

「御令兄が本当にあなただとは・・・・
 わたくしがダイアナに聞かされたときは半信半疑だったが、こうして近くでお会いすると彼女と実によく似ている」
「そうですか。そういえば大昔に言われたこともあったけれど、どういうところが似てますか?」
s2-47 (76)
「笑うときに目が実に美しい半月状になるのところが特に。とても魅力的だ。兄君はその笑顔で奥様を落とされたのかな」
「あはは。だって、エリン」
「はずれよ。決め手は美味しいお茶を淹れられるから❤」

「だ、そうです。寒い中ようこそ。
 温かいものを淹れるので中で温まってください。ダイアナにも電話して呼びましょう。アンドリュー、ダイアナに電話だけ頼むよ」

阿吽の呼吸で突然の来客でも動じずに夫妻はタラを招きいれる。
タラ教授は「ほう」と感心のためいきをつきながらアレックスの後姿を見送った。

「ちゃんと聞いていたか、アンドリュー。
 あれがスマートな男の振る舞いというものだ。お前も一人前に女性を口説きたければ覚えておくがいい」
「大丈夫ですよ。ちゃーんと僕なりにいろいろ研究もしてるんです」
「・・・お前は”生まれたとき”から妙に女好きだったからな。ダイアナは誰に似せたのやら」
s2-47 (78)

そして室内へ。
アレックスは「一風変わった女性だな」とは思いつつもアンドリューとの様子があまりに親しげで微笑ましい。
早速妻エリンは彼女の個性を気に入り始めているようだ。
いつものようにアレックスがお茶の準備をしだす。
タラ教授はじっとエリンの顔を見ていたかと思うと、ふと何かを思い出したようにアンドリューの方を向いた。

「”口説く”で思い出した。アンドリュー、わたくしが腕によりをかけて作ってやった股間の銃はもう使ったのか?」
「そっ・・・・そういうことを人前で訊かないでください!」
「まだ未使用なのか?せっかく世間一般よりも高スペックにしてやったというのに。わたくしの経験の結晶として硬さも」
「わ━━━━!!!やめてくださいよ!!」

さすがにアレックスも面食らいながら親しいゆえの無礼講なんだろうと完全に聞こえてないふりで流す。
s2-47 (81)
エリンは実はひそかに疑問だった『シムボット・アンドリューの身体の秘密』を不意打ちで知れて、興味津々に目を輝かせだした。
・・・・我が妻ながら、そういう話が本当に好きだ。
まさか自分の股間の話を”伯父夫妻”にこんな形で知られるとはと嘆くアンドリュー。
タラ教授はそんな思春期の様子を見せ始めている彼の心情を慮ることもなく溜息すらつく。

「やれやれ。つくづくボウヤなことだな、アンドリューよ。
 分からないことは周りの大人に教えてもらいなさいと教えただろう?
 まあ、ちょうどよい。運の良いことに、すぐ伺えそうな先輩がいるではないか」

エリンとアンドリューが同時に「え」と声を上げた。

「兄君はいつ童貞のご卒業を?まさか奥様が初めてではあるまい」
s2-47 (79)
がっちゃん!!!
まさか水を向けられるなどと思ってもなかったアレックスはティーセットをキッチンの床に落とし、
同時にエリンの笑いが爆発する。

唖然とするアンドリューすら無視して、
”宇宙人”の親玉はそれでも「いつご卒業を?」とアレックスに重ねて尋ねるのだった。


→第48話




WEB拍手
いただく拍手が励みになってますのでボタンを「ぽち」とお願いします✿コメント機能はありません
過去の拍手コメへの返信はこちら
Count start 2014.1.1-