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第25話 庸一くんの仕事の事情Ⅱ mentorⅡ

←第24話



そんな庸一が居なくなって5秒ほど。
遠巻きに注目が集まっているなかでパーテーションの陰から、ニヤニヤしているのが丸分かりの笑いを含んだ声が上がる。

「いや~~~~熱い!熱いねえ~~~。若いってのはいいねえ~~~」
s3-24[22]

「・・・・・盗み聞きはよくないよねぇ~」
「外に聞こえるような声で、あの庸一が怒鳴ってれば注目も集まるってもんでしょう。いやァ~うまく焚きつけるもんだ!」

ひょっこり立ち上がって、にやりと例の笑いで現れたのはグレンツ財団の長・最高理事イアン・グレンツ。
といっても運営自体は副理事に一任しており、基本的に彼は常駐していない。
庸一は怒りのあまり床を睨んで歩いていったせいでイアンに気づかなかった。

「ひとをイジワルじいさんみたいに言わないでくれる~」
「会議で庸一が発言するように議長の副理事を突っつかせて裏で糸引いてんだから、じゅうぶん意地悪じいさんでしょう。
 俺んトコに『孫より若い男の子をイジめたくないんだ』って泣き言が来てますよ」

とはいっても、ちゃんとした匙加減でパワハラじゃないレベルで行われていて、
庸一の上司ハロルドがフォロー役を演じてることも把握しているイアンが微笑む。
s3-24[25]
するとハロルドも「イジめてはないからね。普通の指摘させてるだ~け」と、イタズラっぽい笑顔をみせた。

「育て始めたみたいですね。で、庸一の奴、どんなポカをやらかしたんです?」
「イアン、キミさ。他人事みたいに言ってるけど、庸一のポカにキミんとこのバンビーナちゃんも関わってるからね」

彼が”バンビーナ”呼びするのはイアンの幼な妻ダイアナのことだ。
イアンは意外な事実にちょっと片眉を上げて「ダイアナですか?」と、企画書が表示されてるタブレットに目を通してゆく。

初心者にありがちな文字ばかり・色が多すぎということもなく、最低限のデザインルールも準拠し、
複数社から見積もりもとり、その比較のしかたもコンパクトにまとめている。
独学なら十分に合格点だと感心した矢先、最後にさしかかってイアンの目が厳しい色を帯びた。

「ね。そこ。庸一、気づくと思う?」
「どうでしょう。気づかなきゃ困るのはアイツなんで俺ァ知りませんがね」
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「あー!ヤダヤダ~~~! そういって僕に結局やらせてんだからな~ 何も考えないで釣りだけさせてよぉ~」
「くれぐれも頼みますよ」
「よくできてるのにね。しっかしキミんトコのバンビーナちゃんも、どうなのかなあ。仮にもキミのシムボット会社の社長でしょ」

とはいえ、ダイアナについては『お飾り社長』なのは彼女自身も含め誰でも知っている。
ビジネスのBも分かってないし、イアンは仕込む気もない。

「会社の舵取りは俺の仕事です。
 ”バンビーナ”は完全に友達の誕生日パーティー手伝うノリ程度にしか考えてないんですよ。すいません」
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「舵取りミスって、こっちの大切な船に接触させんのは勘弁してよ~。キミさ、”乗ってる”だけじゃないか」

彼が指す”大切な船”とは勿論彼が育てはじめた庸一のことだ。
乗ってるだけ、というのは例え話だけじゃなくアッチの事も指していてイアンは肩をすくめて苦笑い。

「本当にすんません。とはいっても、この庸一が作った企画書。昔出した俺のヤツよりゃあ、ずっと上等じゃないですか」

くっくっくと押さえるつもりが、つい自分の昔を思い出してイアンの笑いは大きなものになってしまう。
ハロルドも昔を思い出して同じように笑った。

「まあ確かにキミがうちに昔持って来たやつ辞書みたいなのよりは大分マシだね。読む気しなかったもんなぁ」

昔々、イアンが大学を中退し起業したての会社の営業で駆けずり回っていたころの話だ。
まったくうまくいかず倒産寸前の生活ギリギリのなかで初めて掴むことができた顧客が、このハロルドが経営していた会社だ。
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イアンにとっては大恩ある人間だったが恩を返す間もなくハロルドは早期リタイアして悠々自適な老後へ入ってしまい、
そして暫くイアンが迷走していた時期はずっと縁遠くなっていた。
しかし財団設立することとなり、老人というにはまだまだ元気なハロルドを「仕事ついでに釣り旅行でも」と口説いて
奨学金部門の理事になってもらった経緯である。

「企画書っていうか仕様書だったね。そのくせ食い下がるから困った困った。気づいたらウチで夕飯食べてんだもんなあ」
「貧乏生活だったもんで隙あらば美味いメシには食いつきますよ」

昔話がひと段落して、ハロルドはわざとらしくふてくされ顔。

「庸一、結構なこと言ってくれるよねえ~。僕のこと”釣り口実の出張”だってさ。」
「・・・・んな生意気なこと言ちまうのも、まだまだ物が分かってないガキって感じですね。シメんなら手伝いますけど。
 俺じゃない方がいいんでしょう?」
「そそ。キミじゃダメ。子供の頃から知ってるんじゃ甘えが出ちゃうでしょ。まー、まかせといて。テキトーにやっとくから」
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適当、という言葉の良さを知っている老獪なハロルドは雑談を切り上げてオフィスの自室へ向かった。

さてさて。庸一は何が悪かったのか気づくかな?
老年のハロルドはわくわくと若さと可能性の塊の庸一の成長すべてが楽しみでしょうがない。






まだ夕方と言うよりも早い時間に庸一が静かに帰宅すると、
そこには家族の日常が広がっていた。
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すでに帰り道で冷静さを取り戻し、あの暴言のヤバさが庸一のなかに沸きあがっている。
この4人家族を支えられるのは自分だけなのに、なんてことをやらかしてしまったのか。

「ただいま、桜子。おままごとか」
「んーん。どーじょ」
「? ありがとう」

否定しつつ桜子は沢山のおもちゃを父・庸一に差し出して座り込み、理由が分からない庸一が暫く見詰め合っていると
シムボット・マルちゃんが『なんでも屋さんごっこですよ。』と補足説明をしてくれた。
庸一はそれで納得して頷きながら、愛娘の小さな手にお金を渡すフリをして応える。
大学復学準備の予習をしているリズが、「はい、桜子ー。おやすみの日だよ~」と声だけで桜子のお店屋さんごっこに参加する。

「ん。ぱぱ、ばいばい」
『定休日なんです』

随分設定がしっかりしてるな!と庸一はしみじみ頷きながら感心する。
すると桜子はお金(のつもりだが何も持っていない)を取り出して、シムボット・マルちゃんに手渡す仕草をみせる。
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『お給料ありがとうございます。嬉しいな、マルちゃんはこれでご本買いますね』

3歳の桜子が、非常に単純ながら労働の仕組みを理解しているのには驚く。
子供はアウトプットが追いつかないだけで、実際は大人が思う以上に目の前の物事を理解しているのだ。

シムボット・マルちゃんは家族として家事育児をおこなってくれているが
庸一たち夫婦は給金・・・とはいえない、ささやかが額だが、ちゃんとマルちゃん自身が好きに使えるお金を渡している。
”道具”ではなく、家族としてマルちゃんを認めている何よりの証拠なのだが・・・・

(・・・・・・!)
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このとき庸一は上司ハロルドが怒った理由が分かった。

自分は外部との契約だと大金が掛かるからと無料であることに目がくらみ、
よりによって大切な家族のシムボットのマルちゃんで「どうにかできないか」という話を切り出してしまったのだ。
仕事で労働力が必要だったら自宅から持ち出せばいいなんていうやり方、誰が認めてくれるだろう。

庸一は表情が変わらないながらも、恥ずかしさとマルちゃんへの申し訳なさでいっぱいになった。






その夜。
鉄面皮とはいえ1人で抱えきれなくなった庸一はリズに今日の会社での出来事を全て明かした。
もしかするとクビになるかもしれないという正直な怯えもあるし、そうなった場合の懺悔の意味でもある。
s3-25[1]
「俺はこの国では評価されないと思う」
「えー?今更、外国人ってこと気にする必要あるかぁ?アンタの日本で育ったより、こっちのほうがもう長いじゃん。
 それは性格だろーよ。つか口の巧い奴が目立つのは国関係ないと思うけどね」
「言い直す。きっと俺は働くのが向いてない。すまん」

彼のこの様子は完全にクビ覚悟だ。
マジで腹切とかしそうじゃんかとリズは冗談大部分、真面目ほんのちょっぴりで内心びびるほどだ。
かなり思いつめてる。

「庸一アンタ、働いて4年目だっけか。初めてじゃん?アタシにこういう話してくれたの。
 正直心配はしてたんよ、働いてる周りはアタシらの親より年上の人間が多いっつってたしさ。
 でも今まで本ッ当に一言もウチで愚痴らしいこと言わないのは、すごいなって思ってたけど・・・正直安心もしたよ」
s3-25[2]
庸一が無表情で「どうして安心するんだ?」と尋ねているのも、リズは読み取れる。
すると彼女は悪魔のようにヒッヒッヒと笑いながら、

「やっぱアタシがいなきゃだめだねえ~庸一ィ~!所詮アンタはアタシの子分だっつーことだ!」
「・・・・・・・」
「まっ、そんなんはともかくさ。だーからアタシ絶対大学復学したいわけじゃないつったじゃんかよー。
 アンタは強く勧めてくれたけどさ。いいじゃん、クビになったら一緒に働くのもさ。ウチはマルちゃんいるからダイジョブ。
 やれるやれる。むしろ余裕」

かつての夫婦の話し合いで、自分に任せておけと請け負っただけに庸一は眉のかわりに視線が下がる。
そこをリズが真面目な口調で、
「庸一、アタシさ。大学の金出してくれた親に孝行するより、アタシは自分の家族のために生きたい。
 そもそもアンタをクビにするような会社なら居る価値ねーよ。桜子に嫌われりゃいいんだ、あんな子供好き」
s3-25[3]
あんな子供好き、が指しているのは、庸一の仕事にも今回のことにもまったく関わってないイアンのことである。
当然イアンが悪いわけでもないがリズは問題の矛先をそらすために堂々と彼のせいのように言った。
この庸一が弱音を吐き、仕事に向いてないとまで言うのは余程思いつめてんだろうと幼馴染のリズは分かっている。
そして、この話は終わり!とばかりにリズは立ち上がり、こともなげに言い放った。

「クビ待つこともないんよ。アンタが辞めたきゃ辞めちゃいな!」
「・・・・いや、いいんだ。自分が悪いのは分かってるから頭は下げてくる。ありがとうな」

おお。そういえばこういう場面では言うべきじゃないかと庸一は無表情のまま重々しく告げる。

「リズ愛してるぞ」
「そッッゆーッッのは!!アレクサンダーだけで十分だっつんだっ!アンタは真似すんなっ!!」
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「別に真似じゃない。思ったから言ったんだ」
「うっせっ、ばーか!ばーかばーか、ばーか!アタシは絶ッッ対言わないかんね!」

子供まで作っておきながら、この反応はすごく良い。
リズは言ってるも同然の捨て台詞と共にリズは逃げてゆく。
付き合い始めのときから変わらず、ばあさんになるまで変わってほしくないなあと、庸一が密かに思っているリズの一面である。
そして入れ替わりに娘・桜子がくの一のごとく静かに別のドアから現れた。

「・・・・・・」
「桜子、起こしたか。俺たちがうるさくしてすまない」
「けんか?ママぷんぷん?」
「いいや。リズは照れ屋さんだからパパに好きと言われて照れて逃げただけだ。女の子だからな」
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庸一は非常に珍しく、娘にうっすらと微笑みをみせる。
そうなの、いつものアレね、とばかりに、桜子は動じることもなく父と頷いた。






「おはようございます。昨日は大変失礼な態度をとり、申し訳ありませんでした。
 帰宅した後、自分の出した企画の内容の悪かった点を見つけられました」
「おっはよ~。それならよかったねー」

切腹同然の覚悟で庸一は出社早々謝罪したのに、上司ハロルドのその一言で終わった。

「それじゃあ最後の部分は変えたの?」
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「はい。元々の内容なので、・・・・金額が大きすぎてしまいます」

重々しく庸一は元々の企画書データを表示させて自分のタブレットを渡した。
上司ハロルドは「なあんだ、いいじゃない!じゃ、コレで進めてみよ」と再び一言だけで終わらせてしまって庸一のほうが焦る。

「承認でいいんですか?」
「ダメ?だってちゃんと合見積もりとってくれてるじゃないの。外部委託するならフツーだよ。比べたなら分かるでしょ」
「そう、なんですが」
「委託先の企業だって誰かを雇ったりしてるんだもの。このくらいかかるよ~。
 個人のサイフと企業のサイフは桁が違うからねえ。この金額の釣竿買ったら僕なんか家から追い出されちゃうけど」

上司ハロルドは安心させてやるように朗らかに笑い、庸一が下書きモードのままだった企画書をタブレット上で承認を進めた。
そして庸一にさりげなく、アドバイス。

「グレンツ君の奥さんに協力してもらうって話出てたんだよね、ちゃんと断るんだよ」
「はい。昨日の夜に電話しておきました」
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「うんうん。そっか~。理由分かってた?」
「言い出した俺が辞退したので理解はしてくれましたが食い下がられはしました。心では納得はしてなかったようです」
「うんうん。旦那さんのグレンツ君の財団のことだし、彼女はお誕生日会を手伝うような純粋な好意しかないんだろうけど、
 僕は仕事とプライベートは別にしたほうがいいと思うよ。最初は正攻法から覚えたほうがいいしね、何事も」

それは庸一も同意なので頷く。
すると上司ハロルドはヒヒヒッと、まるでリズを髣髴をさせるようなイタズラっぽい笑いをして、
 「そもそもいつかはグレンツ君のライバル会社とかに転職しちゃうかもしれないんだし!ねえ?」などと冗談を飛ばした。
そして和やかな雰囲気のなか、

「じゃあ次の企画お願いね、庸一!色々変えたいことあるんだろう?楽しみにしてるよ~❤来週には草案くらい出せるよね」
s3-25[9]
上司ハロルドはにこやかにハートマークまで付けた。
━━本日は既に週後半、木曜である。
もちろん、たった今承認された企画を進めながら、新しい企画の草案を考えなければいけないということだ。
仕事というのは終わりがないのだ。常に前へ進んでゆくしかないからこそ、とても厳しい。
でも、このツラい楽しさというものはなかなかクセになるかもしれない。
過程の苦しさと達成感はまるで登山に似ている。

庸一は力強く了解したという意味で頷いた。





帰宅した庸一はいつもの無表情ながら、真っ先にリズにそう報告した。
今まで仕事の話はしなかったのに昨夜の弱音をきっかけに、「少しは男のプライドを下げる気になったらしいね」などと
リズはまた悪魔のようにヒヒッヒとそれはそれは嬉しそうに笑う。

「でも、やったじゃん。すぐ気づいただけすごいよ」
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「ハロルドさんにもそれは言われた」
「そかそか」

非常に嬉しそうにしたあと、リズはちょっと考えると、ん"~~~と長く唸り考え事を始めた。

「どうしたんだ、リズ」
「アンタのほうは解決したけどさ。ダイアナの会社のこと考えてた。今日届いた記事、読んだ?」

そういってリズが示したのは配達されてる経済誌。庸一も会社でなら無料で読むことが出来る。
庸一が首を振りながら捲ると目次が目に入り、彼の瞳は難しい色を浮かべて距離を取る。
読む気がすすまない内容だ。
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その内容とは━━拡大している普通メーカーのシムボットとの比較してイアン達のシムボットは『コケた』という内容であった。
実はイアンが興した、ダイアナを社長としている自律思考シムボットの会社が赤字続きなのである。
公爵家に関する私生活に関しては法律で報道制限があるが、公的活動については規制がない。
だからアレックス達の父親ジョン・サウス議員の報道もされれば、財団・会社経営しているイアンやダイアナのことも報じられてる。

「イアンさんなら大丈夫・・・じゃないのか」
「経営者ってさ1コを大きく当てても、他の事業で大コケする人間って結構多いんだよ。
 さすがに破産でドビンボー転落なんつーのはないだろうけどさァ、公爵サマのアレクサンダーっつーアニキもいるしさ」
s3-25[12]
経済学部のリズの言葉に、庸一は黙る。
そもそもシムボットだって高級家電だというのに、自律思考する性能、さらに外見も人間に準じたものだと価格がとんでもない。
先進的な性能=商業的成功とは限らない。
あのスティーブ・ジョブズが実の娘の名前を付けたコンピューターが大コケしている。

「ダイアナとはこの話はしてるのか?」
「んにゃ。相談すらされてないよ。ホレ、ダイアナはさ。中学んときから根っからの『イアン信者』じゃんか。
 心配すらしてないんじゃないの~?最初騒がれたせいでマスコミには懐疑的だしさ。ま!平気だろうけど!」

心配そうに話題をふっておきながらも、結局リズも楽観視しているのだ。
ふと、恩人ではあるイアンも自分のように仕事のことで悩むんだろうかと思ったら、つい苦笑がもれた。

「イアンさんも大変なのかもしれないな」
s3-25[11]
珍しく心のまま庸一は言葉を発するのだった。
働くってのは本当大変だ。



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第24話 庸一くんの仕事の事情Ⅰ mentorⅠ

←第23話


大学時代、リズが妊娠して養うために中退した佐藤庸一。
リズはリズの親の意向もあって休学にしているが、自分は一度就職すれば同じ大学には戻れないだろうということで中退した。

理由は違ったが同じ中退組ということでイアンが紹介してくれた就職先はといえば、イアンが個人所有するグレンツ財団。
s3-24[2]
形式の面接はあったものの採用が決まってからの庸一のビジネスキャリアは一番下のお茶汲み係レベルの事務員から始まった。

「・・・・・・・・」

働くというのは実に厳しい。
いま会議に出ている佐藤庸一はしみじみ思う。
一通りの議題が終わったとき、この会議の議長が難しい顔でいつものように尋ねる。

「庸一?君は発言してないけど何かあるかね?」

勿論あるが、どのタイミングで言おうか迷っていただけだ。
しかし指摘された後では言い訳になって見苦しいのが分かりきっているだけに庸一は言葉を紡げず・・・黙り続けてしまう。
自己主張ができない、これはこの国だと非常にマイナスにとられる。

「会議に出るようになって2ヶ月、君は何も発言しないがどう思ってるんかね。何もないの?」
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この会議の場は各部門の理事たちが集まり、庸一の親よりも上の年齢層が集まっていて発言が非常に難しいのだ。
鉄面皮の庸一でも尻込みする。
そして数秒、「議題は終わりだな。以上、今週も頑張ろう」と切り上げられてしまった。
学校ではないので待ってくれるわけがない。

どやどやとスタッフたちが各部署へ散るなかで庸一が静かなため息をつくと、
会議室を出てゆく直属の上司ハロルドが慰めるように彼の肩を叩いて通り過ぎてくれた。

中退とはいえ西海岸の雄・サンセットバレー大の学生だったので、それなりに寄せられている期待があるのだが━━
まったく応えられている気がしていない。
会議のあとは、いつもの無表情ながら落ち込んでいる。
s3-24[3]
そんな庸一くんのお話。





この話はすこしだけ時間を戻して、時期としてはエリンが記憶喪失になるより前。
ダイアナも妊娠していない初夏のころ。

グレンツ財団は様々な助成事業・社会福祉事業を展開しているので、ちょっとした中小企業規模の人間がいる。
庸一が所属しているのは奨学金部門で、その部門の理事ハロルドの直属でアシスタント兼事務員として働いている。
s3-24[4]
実はエリンはこの財団の美術館事業部門の理事として館長の任についている。
ただしこの話の時点ではエリンは休暇中で会議は欠席していた。
とはいえ出席していても忙しい彼女は、庸一にウィンクだけして足早に去ってくことの方が多い。

庸一の仕事は全国から寄せられる奨学金の申し込み書類の受付作業から始まる。
書き漏れ、添付書類漏れがないかをチェックするのは完全手作業で、しかもその作業をするのは庸一ひとり。
受け付けたあとは上司に審査してもらい、ローン債権管理会社に送り、
戻ってきたものはファイルに収納して、一定期間後に倉庫へ・・・
書類を一気に機械が読み取って自動で不備チェック・情報を文字列データ化してくれるといったテクノロジーはない。
s3-24[5]
受付数が少ないとはいえ今時、紙での受付・審査・保管とは!!
審査が通ったあとの奨学金の支払い&返済管理などローン債権管理会社に完全外部委託とはいえローテクがすぎるだろう・・・。
口にも顔にも出さないが庸一にも一般的な会社員と同じように、そんな不満がある。

「庸一、今日は何件くらいきてる~?6万件くらい?」
「8件です。1時間もあれば受付作業は終わります」
「そ~か~。じゃああとで審査に持ってきてね」

庸一の直属の上司・ハロルドは見た目通りの好々爺で、彼が奨学金受け入れについては1件1件審査をする。
趣味が釣りの彼は今時ビデオチャットで済む時代に、月に何度も出張に出ていて庸一は内心呆れている。
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「さっきの会議のことは気にしなくていいからね。ああいうの、上の人間ってすーぐ簡単に言うけど難しいよねえ」
「・・・。正直タイミング図ってるうちに終わってます」
「庸一は礼儀正しすぎるんだよね~。僕の影響かなあ、僕の息子もそうなんだよ。息子いないけど」
「いませんよね」

会話しながらも書類の処理をする庸一の手は淀みなく動く。
学生などの個人から直接申し込み書類を受け付けるため、その書類不備率はかなり高いのだ。

「庸一はさ~、なんか変えたいことない?」
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「! あります」

促されて庸一は初めて顔を上げた。

「じゃあさ、企画でもさ、な~んか立ててみてよ。ちゃんと予算もつけたげるよ」
「やります。ありがとうございます」
「やりたいことにはどんどんチャレンジするのは大切なことだからねえ。
 難しくなくていいから考えてみなよ。どこにいっても通用するようにさ」

転職もキャリアのステップアップの手段であり前向きな選択肢として彼は言う。
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庸一はまったく転職なんて考えていないが、それは庸一には非常にありがたいことだ。
そして釣りが趣味の上司ハロルドはひゅうっと釣竿を投げる仕草をして「そうだ、飛行機の手配頼めるぅ?」と言った。







庸一が帰宅すると、彼らのシムボット・マルちゃんは鮮やかに庸一の夕食を準備してくれる。
そして桜子は早めに寝てしまったこと、リズは入浴中であることを告げて出かけていく。
マルちゃんは定期的な充電が必要だが、庸一たちの家に充電ベッドを置くと電気代がべらぼうに掛かってしまうので、
市内にあるダイアナとイアンのシムボット販売店に都度都度充電に行っている。
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シムボット自体、購入費だけでなくメンテナンスと充電に多額の維持費がかかる。
マルちゃんの場合はダイアナからの贈り物だったので、維持費の心配はないようと全て無料サービスを受けていた。

夕食を終えるころに風呂上りのリズが「お、庸一おかえり」と、肌をピカピカさせてやってくる。

「庸一、あんたは今日どうだったん?こっちは桜子が昼寝しなくてさ~、だから寝るの早かったんよ。顔見れなくて残念だったね」
「そうだったのか。俺はいつも通りだ。今月の給料日、週末だから振込みは明日になる」
「オッケ。いつもおつかれさん。しっかしアンタすごいよ。1人でアタシら3人分マジ稼いでてさ」
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庸一、表情は動かないが心の中にぽっとコスモスが咲いたような喜びに包まれる。
惚れた女に尊敬を寄せられることほど嬉しいことはない。
ありがとうの意で頷くが表情は動かない。でもリズにはその心の機微は伝わっている。

「リズ、予定通り秋から大学に戻れそうか?」
「ん。桜子もプレ幼稚園問題なさそうだし大丈夫だと思う」
「そうか」
「・・・・あのさ~、アタシがホントに大学戻っていいん?やっぱし、あたしも働」
「その話はもうしただろ。2人して親が入れてくれた大学を無駄にすることない。お前は行くんだ」
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「・・・。うす」

リズが妊娠したときに調べて知ったが、この国の大学の学費は日本と比べようがないほど高い。
正確には大学によっての格差がべらぼうなことになっていて、私立大学は州立大学の3倍もかかる。
・・・・自分たちがいたサンセットバレー大も私立だ。
親たちが自分たちにかけてくれていたものの重みを、親になって稼ぐようになって非常に厳しく身にしみている。

庸一はシュッと音をさせてネクタイを抜き取った。

「マルちゃんは今日は満タンまで充電するから遅いらしい。リズ」
「へー・・・・。さいですか」
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「そうだ。1時くらいにならないと帰らない」
「さいですか」

風呂上りとは違う熱でリズの頬の赤みに明らかな恥じらいの色が入る。
ぐいぐい来る庸一のこの姿勢は変わらない。
また照れると、妙な言葉を繰り返すことしか出来ないリズの密やかな乙女っぷりも健在である。

「庸一、冷蔵庫にプリンが」
「リズが先がいい」

とんでもなくクサいセリフすら全くの躊躇いなく庸一からは相変わらず投げかけられて、
小柄なリズは洗濯機の上に座らせられる。
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寝ている桜子を起こさないようにしながらも、
電源が入ってない洗濯機は結構揺れた。






やる気は十分!まずは奨学金申し込み書類の受付を機械化しよう!
庸一は早速ビジネス本を開きつつ、さらにカタカタと『企画書 作り方』などとネット検索して、
企画の立ち上げにかかった。

「燃えてるねえ~庸一。いいねえ~。お嫁ちゃんとエッチでもした?僕はしたけど」
「・・・・なんの用ですか、ハロルドさん」
「僕の飛行機のチケットきてるぅ?」
s3-24[9]
「予約は済んでます。バイク便が午前中に届ける予定です」

当たり前のようにビジネスクラスで飛行機も予約されている。
こういう費用を削減すればいいのに、とも庸一は思う。あのビル・ゲイツだってエコノミー推奨者じゃないか。

庸一はすぐに企画書へと頭を切り替えた。
書類の受付を機械で見るとなると、そもそも書類のフォームを一新する必要があるか?
そして①書類をスキャンして、②文字データ化・・・というのが、ふんわりとした庸一のアイディアである。

具体的なやり方は正直さっぱりわからない。餅は餅屋。
電子入力システムを提供している会社をいくつかネット検索して探し、庸一はコンタクトを取るために受話器をとった。
のに。

「ね~ね~ 庸一ぃ~~。僕コーヒー飲みたいな~」
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「さっきサーバーに新しいのが作ってありましたよ」
「あれ美味しくないよね~僕ラテがいいんだ。買ってきて~2ショット追加でグランデ」
「わかりました」

企画書作ってるのにちょいちょい集中を切らされるのはイライラしないと言ったら嘘になる。
これも仕事、これも仕事と唱えながら彼からコーヒー代には少々多い札を渡される。

「庸一、おやつの時間だからドーナツもお願いね。キミのぶんも僕おごるよ」

上司ハロルドがそう言ったことでもう3時近くになっていて、庸一は初めてランチを食い逃していたことを自覚する。

「ありがとうございます」
「来月まとめて返してくれればいいよ」
s3-24[11]
あとでコーヒー代を返せなどといつも言うが本当に彼からコーヒー代を回収されたことなどない。
憎めないひとだと庸一は(心の中で)微笑んで頷いた。
ただ彼がわざと休憩をとらせようとしてくれている気遣いまでには頭が回らない庸一である。





奨学金申し込み書類の完全機械化ということで各社に見積もりを頼み、それらが手元に集まった。
無料見積もりでないので既に費用が掛かっている。
s3-24[16]
単に書類をスキャンされた画像データにするのは簡単&安い。
しかし庸一がしたいのは『既存の書類に手書きされているものをデジタル化』するということだ。文字列データにしたい。
ところが庸一が考えていた、①書類をスキャンして、②文字データ化という過程は
思いのほかのコストと技術と、あと根本的な手作業仕事が必要であることが分かった。

「・・・・・」
s3-24[15]
奨学金申し込み書類をスキャンして、その画像を光学文字認識(OCR)ソフトが文字列データ化するのだが
その読み取る書類は奨学金希望者が記入している手書き文字だ。
実は手書き文字の認識率は高くなく、読み取れない場合エラー情報として最終的にヒトが目と手でデータを補完する必要がある。
そのエラー発生率はおよそ30%-10%・・・

かといってシムボットにも使われる人工知能を応用した高度OCRソフトの利用となると、とんでもないコストになってしまうので
エラー情報の補完作業にヒトを雇って作業したほうが安いと見積もりを依頼した各社からの提案だった。

「~~~~~~~~~」
s3-24[12]
庸一がくるまえからドッサリ倉庫に保管されている受理不受理関係ない申し込み書類が約3万件、
最大で9000件分のエラーを直す必要があるが外部委託でヒトを雇うのにも下準備と金と時間が掛かる。
外部委託でエラー情報修正作業は1件あたり●$で▲分かかり、作業フロー作成等の初期費用に●●●$━━
思いのほか大企画になることに庸一は内心ビビってしまった。

・・・いや、待てよ。
グレンツ財団にはアンドリューやマルちゃんのように自律思考はしないがシムボットが数体いる。
彼らにエラー修正作業をできるようプログラミングすればいいんじゃないだろうか?

「庸一~~ 僕お腹空いてきちゃった。ランチいこうよ」
「すいません。俺は今日はここで済ませます」
s3-24[17]
思考がノッってきているのだ。止めたくない。
上司ハロルドは「ちぇ~」などといいながら口を尖がらせて1人で出かけていった。

庸一は早速シムボットといえばと、”宇宙人”幼馴染ダイアナに連絡を取る。
一通り自分のアイデアを話したが返答は・・・

『自律思考しないシムボットにはエラー修正作業は難しいね。
 OCRソフトのふるいに掛けたあとでヒトが直すっていう作業レベルは”手書き文字を見て推察”する・・・
 思考が必要な作業レベルになっちゃう』
「なるほど、そうなのか・・・。! そうだ、例えばマルちゃんにならできるのか?」
s3-24[18]
『うん、庸一の家のマルちゃんなら作業としては余裕でできるよ。でもリズも大学復学するからしマルちゃんが時間がないなら、
 タダでアンドリューにやってもらうようにしてもいいし!アンドリューもOKって横で言ってるよ』
「!! 本当か」
『イアンの財団の仕事だもん。喜んで手を貸すよ。決まったら連絡してね』

やった!これでコストも削減できる!と、ホクホクだったのだ。
そのときは。





「書類を文字データ化・・・うん。
 で、ソフトができなかったエラー情報の修正作業は、キミの家族のシムボットか、キミのお友達のシムボットがやってくれる、と」
s3-24[20]
「はい」
「━━ 庸一。僕はこれは違うと思うな」
「どうしてですか。まさかシムボットだからですか?」

ヒトのよう動き考えるシムボットを忌避するのかと、家族のマルちゃんがいるだけに庸一は非常に珍しく眉を吊り上げた。
上司ハロルドはいつもの好々爺ぷりはどこへやら厳しい顔を見せる。

「キミ、何が違うのか本当にわからないの?」
「はい。教えてください」
「庸一、仕事には絶対に正しい答えなんか用意されてないんだけど確かな誤答ってのはあるのよ~。やっちゃったねえ」

上司ハロルドは明るく茶化すが、まるでそれは詰るかのようじゃないかと庸一は素直にむっとした。
s3-24[19]
「俺はこれが正しいと思って提案してるんです。
 いつまで手書きの書類を受け付けて、段ボールに入れた書類を倉庫に積み上げておくんですか。
 俺も何年も働いてきましたけどムダが多すぎます。だからこうして改善案を出してるんです」

庸一は毅然と声を上げる。
声を腹から出したせいでそれはいつも以上に大きく声が響き、部屋の外の人間の注目が集まるほどだったが庸一は気付かない。

これは正しいことだ。
おかしいところなんて何もない。自分が調べた限り最善策で最安値だ。
そもそも上司なら間違い箇所を教えてほしい。
静かに鬱屈していたものが庸一を突き動かす。

「あのね。僕に責めるようなことをいうのはお門違いってもんだよ。キミは正社員スタッフだろ。
 『いつまで積み上げておくんですか』って、つまりキミは上からああしろこうしろと言われないと変えようとしないってこと?
 違うよね。だからキミもこうして出してきたんだもの。企画が思い通りに通らないからって随分おかしなこと言ってるよ」
s3-24[21]
上司ハロルドは厳しい瞳で企画書が載ったタブレットに手を添える。

「僕は間違いを探してみなさい、と言ってるの。企画書の作り方は本当にとてもよかったよ。
 問題は中身だ。何がいけないと思う?僕は教えないから自分で焦らずに、考えてみなさいよ。
 その間違いがちゃんと分かるまで他の企画も考えちゃだめだからね。でないとまた同じ事を繰り返すよ、キミは」

「ハロルドさん。俺はちゃんと考えてきました。だから出してるんです。
 他の企画もやるななんて肝心のボツ理由も言われずに意味がまるで分かりませんし、納得できません。
 釣りの口実の出張ばかりじゃなく、俺の上司としての仕事をしてください!」

「・・・僕への暴言も許すのは今回だけだよ。もう今日は帰りなさい。庸一。娘ちゃんと水遊びでもして頭を冷やしておいでよ」
「わかりました。帰ります」

そんな上司ハロルドのいつもの茶化しすら完全に頭に血が上ってしまった庸一には侮辱にしか響かない。
s3-24[23]
スムーズなガラス戸は庸一の歩みを止めることもない。
驚き顔の周囲の視線すら意識に入らず、庸一は足早にオフィスを去っていってしまった。





→第25話






あとがき 『Amina』編

第23話にて性転換話『Anima編』は終了です。

『Set a thief to catch a thief編』にて念願の「旧エリン×新アレックス」を書けてウッキウキだったものの、
なんかシリアスぽくなってしまい、反動でバカバカしいことしたくなったのが『Anima編』です。
第3シーズンではエリン夫妻&ダイアナ夫妻が親になるので、
『親にも過去がある』話としてマーガレット達親世代の話をお送りしました。まーた三角関係だ!(笑!)


Anima


彼らの女性化は騒動のきっかけで、そこから

■シムボット・アンドリュー×人間マリアさんの恋愛関係のコミットメントさせる
■シムボット・アンドリュー、最終形態として精神的自立(敬語脱却&イアンの”弟”化)
■マーガレット×ジョン・サウスの過去~現在話
■タラ教授→ダイアナ実母マーガレットの横恋慕をくわしく
■ラファエルの才能と想い人が判明
以上、ちゃんと書きたかったけれども点々としているネタを『Anima編』ではまとめて書きました。



■女体化
Season2あとがきでも触れましたが、Season1にて当時チビシムだったダイアナちゃんの特質に
「エキセントリック」「天才」を入れていこうと決めたのは『タイムマシン』をキーするためでした。
そこから元々Sims3で登場しているアイテムはもちろん、
MODでできちゃう機能(ここでいう性転換)も発明でやっちゃったーと何でもアリSF展開ができるのは書いてて楽しいです。
性転換ネタは以前の記事から。
20171115TOP.jpg
以前の記事ではわざと男性時の特徴を残してましたがストーリーにあたり完全に女性として手直しました。
本当はイアンはもっと爆乳にしてもよかったかったのですが髪の毛が埋まる&洋服CCが乱れるので、これが限界でした。
↑のSSだとアレックスと同じくらいに見えるのが心残り。


■なぜ今アレックスたちの親世代の話をしたのか
第2シーズンに入り、主人公ダイアナを中心に色々な設定を詰めようかとなったときに考えていきましたが、
アレックスやダイアナ側=主役であるため、
彼らと相容れない立場・性格・行動をした『アレックスの実母ヒルダ』や『傍観しがちな彼らの実父ジョン』が
悪役ようにしか描写できない点が不満でもありました。
いままで書いてきた通りダイアナもアレックスも誰も彼も全員欠点だらけですし絶対的正位置でもありません。

▲一番お気に入りのマーガレット×ジョンSS。このカップルもマーガレットが攻め(笑) 母子よのう・・・

しかし第2シーズンは『パンプキン』の正体をスタートから一貫して伏せ、また登場カップルが多かったりして
さらに親世代のことを掘り下げてゆくのは冗長がすぎると思い、ネタはお蔵入り。
第3シーズンは既存キャラにそれぞれスポットを当ててゆく中編構成なのでやっと陽の目をみた次第です。


■副題Animaについて
由来はユン/グ先生からです。
アニマとは男性の無意識下にある女性的な面を指し、男性は恋するときには異性に自らのそれを投影し、うんぬんかんぬん。
結構どうでもいい点ですが興味あるひとはググってください。
当時『好きな人としかしない清純さ』があり『ごくごく平凡』で『(彼が失った)青春真っ盛り』であるマーガレットは、
ジョンの理想の女性像そのものと映りました。

若き日のヒルダさんも、
エリンとジョゼット(アレックス双子兄ウィリアムの恋の相手)と髣髴をさせる顔かたちにしました。特にとメイク。

心理学うんぬんは知りませんが、男性が結局自分の母親に似てる女性を選ぶのってあるあるかと(笑)



■ジョン・サウスについて
彼のコンセプトは完全に「もしもエリンに出会えなかったアレックスがいたら」そのものです。
人として成熟する前に周りに流されるまま公爵を継ぎ、結婚をし、親になっても枯れたまま色無き世界に生きている。

何を考えているのかが本当に分かりにくそうな爬虫類の顔&性格です。(特に瞳。コンタクト、さらに眼球値色々いじってます)
ジョンが全体的に与えるイメージはアレックスぽいバランスで作りました。
ちなみに娘ダイアナの鼻の形はジョン似。本日現在、一番顔立ちが気に入っている男シムです。

劇中のマーガレットの指摘のとおり、
アレックスはエリンとの恋愛視点でいえば”王子様”のようなカッコいいことを満載しているように見えますが、
実際には元公爵の仕事やサウス家の運営等々を父親ジョンに押し付けており、
このジョンこそがアレックス夫婦のサンセットバレーでの自由で平和な生活を支えて守っている立役者。
これが一番が書きたかったところ!!

素直に心のまま言葉に出来ればジョンにもジョンなりの温かさがあるとわかってもらえるのですが、
誰も彼もそんなに分かりやすく素直な人間ばかりじゃありません。捻くれた男です。

ただ子の立場からするとジョン&ヒルダ夫婦は間違いなく嫌な親です。
「いや、ヤって親になったならしっかりしろよ、いい親になるよう努力しろ、いい夫婦になるようにしろよ」と
管理人自身が親になる前はもっと強く思ったと思います(苦笑)
しかし親になるとわかることもありまして・・・
親になるときっていうのは、もっと精神が成熟した自分になっていると無根拠に漠然と思ってました(笑)
でもそんなわけないんですね~・・・・ 
ジョン夫妻は若い時に流されるまま一切の覚悟もなく親になっちゃったタイプです。

ただこれは物語なので、
いつかはアレックス&ダイアナと、ジョン、そしてヒルダも完全な和解は無理でも
なんらかの良いところに落ち着かせたいとおもっています。


■マーガレット・ヨークについて
なぜか管理人は内心でつい「さん付け」をしてしまう、マーガレットさん。華なき美人です。(逆に華あり美人シムはアデル)
第1シーズンから登場シムの中では肌CC変えたものの、ほぼ整形してません。

若かりし頃から結構あけすけな物の喋りかたをしますが娘ダイアナにはそれが悪い形で遺伝してます。
第2シーズンじゃあダイアナ×イアンなんていう表記をしてきましたが、
母である彼女も恋をするとすぐに夢中になり押せ押せでした(笑)純朴ゆえに駆け引きや計算できずに突っ走る典型ですね。
赤毛の女性は情熱的じゃないといけません(こだわり)

口下手ゆえに誤解されやすく、それを解こうともしない諦めと優しさがある男ジョン。
彼のそんな真実を唯一理解していることに満足を感じ、独占欲が満たされるマーガレット。
やはり不倫してるひとというものは、本心で二番手でいいと満足してるわけがなく、
「私だけは分かってるけど(ココが重要)、私こそがやはり彼にとって一番なのだ」と間違いなく自認してると思うんです。
良き母親のそんなひっそりと黒いところが好きです。
s3-14[28]
鼻以外は完全にダイアナに遺伝してる、そっくり母子設定です。(ただダイアナは目がずんぐり大きい)
なのでSeason2での娘ダイアナとの初対面の喧嘩のあと、
物思いに耽って閉じ篭ったのは彼女とよく似ている若き日のマーガレットとの思い出です。
間違いなく。

■書いてるときのBGM
ちなみに彼らのストーリーを書いてるときには決まったBGMがありました。
M/ONDO GROS/SOの 「ラ/ビリンス」、今チェックしたら577回リピートしていて草。

FMで偶然聴いて即虜になったのですが、この陶酔感は癖になります。
歌詞も「2人の世界に陶酔しきってる感」「浮遊して流されるまま感」が
管理人の中でイメージしていたマーガレットとジョンに合い、かなり勢いに乗って書けました。



■動き出す未来の子
未来からやってきた子供たちを交えた第3シーズン。
なんかワッチャワチャやってるだけのアホなことばっかりでしたが(笑)ようやくストーリーに食い込みます。
彼らが現れてかたの24話まで読んでくださってた画面の前のあなたが、
目立つ金髪ラフィに「ラフィってば~❤」と注目し、
実際に紫髪レオの存在を忘れてしまっていたことに、もし”ぎくり”としていただいてたら狙い通りで最高に嬉しいです。

紫髪レオが引き継いだ特質のひとつは、隠し特質『泥棒』です。




以上、Anima編を読んでいただきありがとうございました。
拍手ぱちんいただけると、とても管理人の励みとなります(*'∀'人)



第23話 報酬 AnimaⅩⅡ

←第22話

アレックスが女性になってから。
ついつい本能のままイイ雰囲気になっても「女同士でしたいの?」とエリンにドストレートに尋ねられ、
夜は本当に睡眠をとるだけになっているアレックス夫妻。
複雑な悲しみと切なさを男アレックスは酒で飲み下すが、エリンがなんとなく付き合わなくなってきていた。
そんな夜のこと。
s3-23[25]
「やっぱりそうだったわ」
「ん?なにが?」

バスルームから戻ったエリンが最近増えていたアクビをまた繰り返し、
なにやら見慣れない白い棒を掲げてくる。
一瞬経ったあとでそれが何かを理解したアレックスは部屋中が花が咲き乱れるような幸せな驚きに包まれる。

「エリン!」
「もう人数も性別も名前まで分かっちゃってるけどねえ」
s3-23[26]
陽性反応を示している妊娠検査薬。
女性の身体のままであることも忘れて、アレックスは喜びのまま妻を抱きしめてキスの嵐を降らせる。
彼がここまで爆発的に感情を示すことは珍しい。

「エリン、嬉しいよ。ありがとう!本当にありがとう!体調は?ダイアナは吐き気とかすごかったけれど大丈夫かい?」
「ぜーんぜん変化ないのよねえ。次のがいくら待っても来ないから検査しちゃったくらいだもの。どのときかっていうと・・・・」
「へえ、どのとき?わかるのかい?すごいなあ!」

まるで子供のようにウキウキとアレックスは瞳を輝かせる。
確かにクセの強い子もいるが双子はエリンにとっては血が繋がる初めての家族。どちらも素晴らしい贈り物だ!
アレックスはいそいそと酒瓶とグラスを片付けにかかる。

「エリン、ここに座って。お酒の匂いもきっといやだったんだろうね。空気も入れ替えるよ」
s3-23[27]
「あなたが昔の私と”不倫”したにできたわけね。あの夜はアトリエで随分と頑張ったものねえ。アレクサンダー?」

エリンは笑顔のままながらも、彼をアレックスという愛称で呼ばないときの彼女は絶対に怒っている。
彼の背中にうっすらと嫌な汗が湧いた。

「エリン。まさか、あー・・・自分に、妬いては、ないよね?」
あなたがいつもより興奮して、いつもより回数が多かったことに、どうして同一人物の私が妬くのかしら?
「・・・・・・・」

アレックス、ぐうの音も出ない。
正直、”あの”丸くなる前の昔のエリンを抱くのなんてのは、そりゃもう。
えらい興奮した。
s3-23[28]
アレックスがマズイとおろおろしてるうちに、
「ふーんだ」とばかりにエリンは幼稚に唇を尖らせながら早々にベッドに潜り込む。

その後、ふて腐れエリンと宥めにかかるアレックスとの、おままごとのようなイチャイチャは数日続いた。






ひと月半。
あっという間というほど気楽ではなかったがタラ教授が正確な期日を守ったことで、
アレックスとイアンは元の性別の生活が戻ることとなった。
s3-23[5]
シムボット・アルテイシアが盆に
タラ教授によって完成された性別変換をする薬、戻る薬のそれぞれの瓶にを持っている。

「先生、本当にありがとうございました!」
「こちらも利があってのことだ。気にすることはない。私も滞在を楽しんだ」
s3-23[6]
入る機会があまりないから見せてよ、などという気軽な理由で、
一緒にダイアナ宅地下のラボに付いて来た紫髪レオは「はー」と見回す。

「しっかし自宅にこんなラボ持ってるなんて贅沢だよなあ。まだ奥にも何部屋もあるよね?ダイアナ」
「だって誕生日に船とか別荘もらうより、こっちのほうが良かったんだもーん。こっちのほうが安いし❤」
「なるほどなあ」

ここには弱小私大では手が届かない設備もある。
シムボット・アルテイシアが早速2つの薬瓶をラボ専用の冷蔵庫へしまうと、
「そんな簡単な保管でいいの?冷蔵庫には鍵とかないの?」と紫髪レオが驚き顔ながら尋ねた。
s3-23[3]

「だってラボ自体入るのにパスが必要だけど、そもそもこの家に外部の人が入るの絶対無理だから」
「うーん・・・俺、そいつでラフィが遊びたがってるから心配なんだよなあ」

「あっはは!そっか!でもね、申し訳ないけどラフィじゃ無理だな~。
 このラボ入室のパスワードはその都度出題される暗算問題なんだ。制限時間あるし、ラフィはちょっとだけ勉強苦手でしょ?」

ちょっとだけ、と気遣いのウソを交えるダイアナ。

「ならよかった。それが聞けてよかったよ。でも面白いパスワードだね」
「でしょ!」
s3-23[2]
ダイアナはどんな暗算なのかを詳しく語らないが・・・
つまり自分たちがダイアナ達の子が作ったタイムポータルを拝借したときと同じように、
このラボの入室パスワードの突破法はずっと変わってないわけだ。

現在のラボ管理者のダイアナも、未来でラボを引き継ぎタイムポータルを作ったダイアナ達の子も、
無自覚に自身らの知力への驕りがある。
『自宅に出入りできる家族の中で、自分たち以外にそんなことできる優秀な人間がいるわけない』と。

「ラフィが変なことしそうなときはすぐに教えてね。タイムポータルみたいなイタズラはもうさせないよ!」
「うん。わかった。俺らがいるころとは仕組みが違うみたいだね。
 こういうガードされてたら俺たちもタイムポータル借りちゃうのは無理だったなあ」
s3-23[1]
紫髪レオは父譲りの優しい瞳で、平然と嘘をつく。
ダイアナも心から安心し満足したように笑い返した。

ここのものを盗むなんて家族ならとっても簡単なんだよ、ダイアナ。

母エリンから密かに引き継いでいる黒い才能はすでに芽吹いている。






イアン達の姿形の大きすぎる変化があったことに伴い、警備用の情報変更処理のため
警護長のロンを始めとする技術者がチームで来訪している。
女性になったときも彼らはすっ飛んできたが、元に戻るときも来るのは早かった。
指紋等は変わっていなかったが顔と身体情報のデータを掴んでおけば、この監視カメラ社会においては
記憶喪失のエリンの失踪のように万が一有事・・・例えば誘拐などの発生時の追跡が容易になる。
s3-23[7]
「間違いなくご本人であることも確認致しましたので、以降も通常通りの警備を継続いたします」
「面倒をかけて本っ当に本っ当にごめんなさい!」
「いえいえ。全くお気になさらず、どうかお身体をご自愛ください。ダイアナ様が同居なさってた頃がお懐かしいですよ」

顔見知りになってしまった技術責任者の朗らかな笑いにダイアナは「んもー・・・ホントすいません・・・」と小さくなる。
ダイアナが同居していた当時の警護長はまだイアンの旧友ロンではなかったがエリンの出生の秘密を知った今、
彼ら夫妻の家で同居していたときのエリンの子供化・猫化のたびに”なんだか責任者っぽいひと”たちが
血相変えてすっ飛んできていた理由がダイアナには今なら十分にわかってしまう。
この厳重に張り巡らされている電子的警護の最重要対象はエリンだったのである。
s3-23[8]
「そういえば私が猫になったときはマイクロチップ埋めなきゃいけないのか話してたわねえ」と当の女王様はあっけらかん。

当時ロンは警護長ではなかったが警護チームの一員ではあったので、
「法律では”飼育動物”には装着義務がありますからね。飼育の定義には入りませんでしたが」と笑顔で頷いた。

「そうそう!装着すべきか、オンライン会議しましたよね。サウス卿が 『飼育ではないが安全上必要なのか』とひどく悩まれて」
「あれは失礼しちゃうわよねえ。私は頭のなかまで猫になっていたわけじゃないのよ!」
「懐かしいね。エリンはいつも通りにふらり外に行っちゃうだろう?ケガでもしたら大変だからね。
 保護されても家にちゃんと戻れるようにしたほうがいいのかとも思ったんだよ。かといって身体に傷はつけたくなかったからね」
s3-23[9]
つまり『この国かつての真の王位継承者に猫用マイクロチップを搭載するべきか』という会議がおこなわれたと。
一同がはははと和やかに思い出話をする中、イアンが「なんつーアホな会議だ」と大いに呆れる。

「ご苦労だった。下がっていい」

和やかな雰囲気も一瞬。
サウス家当主アレックスが当たり前の柔らかさで宣言するだけで警護長ロンらは速やかに退出しはじめる。
実家で人の上に立ちなれている兄アレックスは見送りもしない。
見送るのは執事モナの役目だ。
しかしダイアナは警護長ロンがイアンの旧友ということもあり慌てて「ロンさん!よかったらうちでお茶でも」と引き止めた。
s3-23[11]
「━━ ダイアナ様。非常に光栄なお申し出ですが私は業務時間中ですので遠慮させていただきます。申し訳ありません」
「いーから寄ってけよ。茶くらいする時間くらい作れ」

旧友ロンがサウス家警護長だと分かったときはエリンは記憶喪失事件で旧交を温めるどころではなかったし、
次に彼がこうやって顔を見せるのもいつだか分からないのでイアンはアレックスの手前、傲慢な物言いで誘った。

「別にいいよなあ?アレックス」
「業務に支障がないなら構わないよ、ラングトン中尉」

リビングとを仕切るセンターウォールの向こうから、警護長ロンの主・アレックスが声だけで許可する。

「ホレ、うるせえのからお許しも出たぞ、ロン来いよ」
「んもー、イアンっ!!ごめんね、アレックス。ありがと!」
s3-23[10]
まったく変化がない妻エリンと違い、つわりがひどいという妹ダイアナが大きな笑顔を見せるだけで安心する。
アレックスも微笑みながら軽く手を振って応えた。

イアンたちの家に移り、
改めてダイアナが「今回は本当ごめんなさい!」と謝り倒すのを、ロンはにこやかに止める。
そして仕事モードがOFFになり旧友イアンには軽い口調になる。

「でもイアン、元に戻ってよかったね。やっぱりイアンはこうでないとな~」とロン。
「ま。どっちでも俺はサマになってるってのは分かったけどな。イイ女だったろ?」
「確かに。でもアレクサンダー様が元に戻ってくれたのは正直良かったよ」
s3-23[13]
心から重荷を下ろしたかのようにため息をつく警護長ロンに、ダイアナは冷や汗がでる。
”家族”には木漏れ日のような優しさを惜しみなく降り注ぐアレックスだが、
”使用人”相手だと冷たくはないが明らかに一線を引いて接しているのは先程のとおり。

「もしかしてアレックスってば荒れちゃって、まさか当たられたりとかしました?!
 もちろんここだけの話にしますから大いに愚痴でも文句でもあたしに言ってください!ごめんなさいっ!」
「いえいえ、違います!誤解を招きすみません、ダイアナ様。今のは完全に私個人の私的な感想です」
「?」
s3-23[14]
「私自身アレクサンダー様が公爵家で育まれた、あの純なる高貴なお振る舞いは非常に好意的に思っています。
 庶民出のいち軍人としては感動するほどで・・やはり仕える身としては男性のお姿のほうが深い幸福感を覚えるのです」

どこか恍惚とした表情を見せるロン。
天然高慢ぷりのある貴族の兄のふるまいに幸福感とはどういうことか。

「・・・・・・・・。はい」
「オイコラ変態。身重の嫁をドン引かせるな。胎教に悪い」

ロンは面白がって、わざとらしく肩まで竦ませてみせた。

「あのねえ、イアン。そう言うけどボスの見かけの良さはかなり重要なんだって。
 見かけは優しいけど俺ら使用人には何かと厳しいからね~・・・ しかも誰かさんと違って天然物」
「てめえ、人を養殖モンみてーに言うな」
s3-23[15]
「あっはっは!だってな~、イアンは態度は偉そうだけど人のよさが滲み出ちゃってるからな~。根も純粋な構ってちゃんだしね」
「ああ?うっせバーカ。何きめえこと言ってんだ」

なんとない会話だが妻ダイアナとして旧友であり、かつてはイアンを想っていたというロンの洞察に舌を巻く。
真逆のイアンとアレックスの外殻のキャラクターは分かりやすいが、彼らの深遠も見抜いてる。

そのあと少し昔話をして、
昔ロンがイアン達とつるみつつも、煩いお節介などしないような距離をとっていたらしいのが伺えた。
━━ ダイアナの女の勘としては、それは異性愛者イアンへの望みのない恋心ゆえだったんだろうと分かる。

「・・・・っと、つい居すぎてしまいました。部下の手前がありますので失礼いたします。
 サウス卿について不遜なことを申し上げてしまいましたが、ダイアナ様、どうかくれぐれも今の話はオフレコで」

「もちろん!何はともかくアレックスを慕ってくださってるのは分かりますから。困ったときは、あたし達に言ってくださいね」
s3-23[12]
「ありがとうございます。そのようなお言葉だけで嬉しいです。くれぐれも、ご自愛ください。ご馳走様でした」

そして玄関先での見送りはロンが遠慮してイアンだけとなった。

「仕事中に悪かったな。今度は夜どっか飲みでも付き合えよ。昔の連中だと黄色のケンなら連絡のツテがある。
 アデルは呼ぶつもりねえけどな」

警護長ロンは、いまでもイアンが黄色と連絡がつくことに驚きを示さない。
イアンたちの結婚式にヘアメイクとしてやってきたメンバーに含まれていたので情報として把握しているらしい。
しかし彼から集まろうと言い出さないのも任務をキッチリ割り切っているプロフェッショナルということだろう。

「姐さんはダイアナ様とじゃないと来ないだろうしね。同窓会ってのもオツかもね。俺も機会があれば相方紹介するよ」
「ああ」
s3-23[23]
「・・・イアンさー、いいコを見つけたね。俺好きだなー、”ダイアナ様”。
 この仕事してて、お詫びのお茶もお呼ばれとは思わなかったよ。ふつ~にいいこだ」
「まーな。『移民上がりが金で元公爵家に入りこんだ』だの、『幼妻を捕まえた』だのと影で言われてっけど気にならねえよ。
 普通にいい嫁だろ」

「・・・うん、それはすごいな。ホントよかったよ。昔俺らとツルんでた、━━ アデル姐さんとかと遊んでた頃はさ。
 そういう噂とか周りの奴らにいつもイライラして疲れてる感じだったけど。今はいい顔してる」
「いい顔は生まれつきだろうが」
「そうだった!じゃ、またね」
s3-23[24]
くすぐったい話をされると偉そうな返答で誤魔化すイアンのこういうところはロンには可愛らしく映る。
若かりし日のイアンが、あのアデルに、そして周りにボロボロにささくれてゆくのを見てるしかなかった赤色ロンとしては
今のイアンの澄んで落ち着いた海色の瞳に心からの安堵を覚えた。






しばらくして男の姿に戻ったイアンとアレックスは揃って盛装し、
ダイアナの母校(そしてタラ教授の職場)を訪れていた。
タラ教授が解毒薬の完成させる代わりに求めた報酬のためである。
s3-23[19]
開かれた大学構内のステージ上で学生、関係者とメディアのカメラというカメラが向けられる。

「ダイアナの師匠なだけあるよな。自分にゃ1ドルも欲しがらないとは生粋の科学バカだ」
「個人宛に大きすぎる報酬を支払うとなるとお互いに面倒もあるからな」
「まー俺らの使い方をよく分かってたのは助かったなァ」
s3-23[18]
ムダな税金払うのなんざゴメンだしな~と根っからの商売人イアンが零すので、
かつては公金の収入もあった元貴族のアレックスはふ、柔らかく微笑んだ。

開始時間になると記念式典が始まり大学長の開会の辞が述べられた。

『━━ これにより未来ある学生たち、そして研究者たちの探求が爆発的に飛躍することは間違いありません。
 それでは当大学の基金に多大なるご協力をいただいた、素晴らしいお二人をご紹介させてください。
 本校卒業生ダイアナ・ヨーク・グレンツさんのご夫君イアン・グレンツさん、そしてアレクサンダー・サウス様です』
s3-23[20]
大学長に紹介されて彼らが立ち上がると会場中が待ってましたと大歓声で迎える。
公の場には出てこない、”あの”元公爵アレクサンダー・サウスが、
サウス家次期相続人ダイアナの夫イアンと揃ってメディアの前に登場するとなれば大殺到した。

学生などはビジネス業界の雄イアンに夢中でお祭りのノリで歓声を上げている。

タラ教授は記念撮影用に額縁に入れられて運ばれてきた6000万ドルのスーパーコンピューターの購入証明書を満足げに見送る。
それは彼女が喉から手が出るほど欲しがっていたもの。
とはいってもイアン達が個人的に買い与えたのでは当然なく、
タラ教授が求めた報酬・・・というよりも依頼は大学の『スーパーコンピューター購入支援基金』の達成協力だった。
s3-23[21]
基金設立当初もちろんダイアナやアレックスも寄付をしたが、目標達成金額は半分程度で停滞しつつあった。
そこで今回の一件の報酬としてイアン達は常識の範囲内ながら追加の寄付をし、
さらに残りの額については彼らのツテ等を駆使して支援の輪を広げて目標は達成させたのだった。

そして”全面協力”なので大学の宣伝のために、
イアンはもちろん、元公爵としては隠居状態アレックスすら
お披露目の記念式典には宣伝と祝辞のために狩り出されるというわけだ。
役目を終えたアレックスたちにタラ教授は非常に満足そうだ。

「改めてお二人には礼を申し上げる。多方面の後援者たちをかなり紹介いただいたおかげで大学も新しいコネクションもできた。
 研究者たるもの後進のためにもパトロンを募ることも重要な仕事と理解はしているが、わたくしは大の苦手だったのだ」
s3-23[22]
だろうな、と思っても彼らは口にはしない。
今回のことがなければ、支援基金が全くうまくいっていないことを悩んでいたわりに
大富豪の妻となった弟子ダイアナにタカろうとはしていなかったタラ教授の世渡りにおける致命的愚直さ。

「パトロンが欲しけりゃ二度とロバ呼ばわりはしないことだな」

タラ教授は一瞬視線を空に向けて頷きは見せたが、
「わたくしはロバは好きなのだが拘るのはそこか?」などとまだ言う。

イアンはあてつけがましい大きな大きな溜め息をするしかない。
アレックスは「それじゃあ」とさっさをその場を立ち去るのだった。


→第24話




第22話 光の当たらない存在 AnimaⅩⅠ

←第21話



ゴホッゴホッと、苦しそうな咳がダイアナの部屋からマーガレットの部屋に近づいてくる。
控えめなノックがされてマーガレットが促すと、元々小柄だったダイアナはますます小さくなって頼りなげに入ってきた。

『おかあさん・・・』
s3-22.jpg
『ダイアナ、咳ひどいね。今日寒いから一緒に寝ちゃおっか』
『! うん!』

この国の慣習では早くから子供部屋で親と離れて寝ることが当たり前なので、
自分で言い出さずに済んだダイアナは安堵しながら近づいた。
ダイアナが1人で居られないぐらいに体調が悪いときは、
母マーガレットは出来る限りキャバレーの歌手の仕事を調整し、ずっと一緒にいる。
s3-22[1]
いつも我慢しているぶん、ダイアナは子供返りする。

『・・・ママ、りんご食べたい』
『いいよ、剥いてあげる。ほかには何か食べられそう?チキンスープ作ったのがあるよ』
『チキンじゃなくて、とうもろこしのがいいー!クルトン沢山入れたやつだよ!』
s3-22[2]
『はいはい。食べられるならよかったね。いいよ』

”よいこ”でいることが板につきすぎてしまってた少女ダイアナが、体調の悪さを大義名分に子供らしくワガママを言えるのだ。
細いマーガレットの手が優しくダイアナの頬を撫でた。





そして今は母の手は、夫イアンの手になった。
・・・といっても逞しい男性の手ではなく母マーガレットと同じ、しなやかな女性の手だが。
今夜もまたトイレで戦ってげっそりとした声でダイアナは切り出す。

「・・・・あたし。髪、切る~~~~」
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「んあ?そっか。結婚式に間に合わせるのに色々やったのにいいのか?それに気持ち悪いんじゃサロン行けねえだろ」
「なんで否定するのー。切るって言ってるのに」

ぶすっとダイアナは子供っぽい拗ね顔。この妙な突っかかり方も、子供の反抗のような捻くれた甘え方が入っている。
イアンは心得たものでダイアナのそれは柳のようにさらりと受け流す。

「否定はしてないだろー、ただの確認。あと心配してるだけだよ。急にどうした?」
「~~~~ ちょっと、邪魔なだけ!・・・気持ち悪いときとかに」

別に何でもかんでもイアンの好みに合わせてしまってるつもりはなかった。が・・・
庸一の指摘の通り(リズも否定しなかった!)、
イアンが「長いのもいいな」と褒めながら、2人のときだけ見せる無防備な笑顔が嬉しくて、結婚式を終えてもそのままだった。
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そして色々と選ぶ基準が『イアン』になってるのは否めない。惚れた弱みなんだろうが正直ひとに指摘されるとくやしい。
あと、それとは別に吐くときに髪が非常に邪魔で、大変不愉快な汚し方をするのもウンザリしてきていた。

「ん~?それだけじゃないんだろー。おねーさんに言ってみろ、ん?ん、ん?」
「! ・・・イアンは、あれだね。冗談でもアレックスと違ってそういうの言えるんだね」
「色々不便はあっけど治る見込みがあるしなァ~ なるようにしかならねーし。なにより美人だろ

最初こそ強がりもあったが、その言葉の力強さは増してきている適応力高きイアン。
さきほどアレックスと酒を酌み交わしたときにグチった通り、
他人から女扱いされてナンパされるだの、助けられるだのは流石にうんざりはしているが受け入れつつはある。

「本当はどうしたんだ。言えよ」
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軽めに言った後でイアンの言葉が真剣な色を帯びる。
この強引な男らしさはダイアナがとっても好きなイアンの言動のひとつだ。

「・・・あのね。あのね。あたし、イアンに合わせすぎかなあ・・??」
「ああ?」
「・・・庸一に。言われた。さっき。イアン好みで色々変わったよなって」
「おっ前、そりゃあ俺に惚れてんだからしょうーがねえだろー?」

はっはっはー!と笑い飛ばし、昂然と胸を張るイアン。
それは長年のいつも通りなのだが、妊娠初期のダイアナは今それが我慢ならない。

「でもっ、なんか、なんか!・・・・あたし自主性がないみたいに言われたっ!庸一に言い返せなかったっ!!くやしいんだもんっ」
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従来じゃ考えられないほどダイアナは瞬間湯沸し器のような発憤をするようになっていて、蒸気の幻が見えそうなほどだ。
イアンは、ふんふんと荒めの息をしたダイアナを慌てて「わるいわるい」と鎮めにかかる。
そもそもイアンは女性の髪形の拘りはないので「お前、俺の好みだから短くしたり伸ばしたりしてたのか?」と尋ねた。
すると昔をありありと思い出したダイアナはちょっと恥ずかしそうに、

「中学のときにあたしは首が長いから、短いのも似合いそうだよなって言ってくれたのはあったんだよ」
「へえ。かーわいーのなー、お前。俺は長い髪見るのも好きだし、短めでいつも首見れるのも好きだよ。パンプキン。
 お前だって俺がどんな頭でも『俺が』好みなんだろ?俺も一緒」

照れ隠しにダイアナの鼻を軽くつまみつつも、真心のままイアンは優しく言って妻を腕の中に収める。
あーん、やっぱりカッコいいよー、イアーン!
ダイアナは13歳のころからいつも通りのそんな喝采を心の中で上げた。

「・・・あたしね。どっちかっていうと好みは長いほうだから、今のイアンもとってもカッコよくって好きだよ」
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「てめぇ。つか前は長いと軽く見えるとか言いやがっただろうが」
「へっへ。あたしはイアンそのものが好きってことだよ。今のイアンは外見は女の人だけど、すごく男らしくてカッコいい」
「・・・。知ってるよ。でも、ありがとな」

ダイアナはイアンの豊満な胸に押しつぶされるようにして抱きしめられた。






「この紅茶のにおいなら大丈夫そーお?」
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「うん、ありがとー」

イアンの異母妹ダニエルが人数分の紅茶を淹れ・・・るわけがなく、相変わらず偉そうにラフィに指示を与えて給仕させていた。
金髪に即戻したラフィ、相変わらずダニエルに「ゴーマン女」と言っては、べーと舌を出されている。

「はい、ダイアナ。俺らがお願いしておいてなんだけど、気分悪くなったら止めてね」

においは勿論ダメ。食べられるものもヘタすれば数十分単位で変わる。
快適な環境であっても車酔いしてるかのような気持ち悪さが取れない。
でもダイアナの場合は横になって身体の不調でひとりきりで戦うよりも、誰かと話して気が紛らわすほうが向いていた。

「ありがとー!でもこういうの楽しいからうれしいよ!」
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名門サンセットバレー大学に滑り込みで入ったものの、常に単位はギリギリのお勉強苦手のダニエルにラフィ。
雑談からダイアナに特別家庭教師をしてもらおうという話になった。

「んじゃあ、本当にお言葉に甘えちゃうけど。ダイアナ大先生、特別補習おねがいしまーす」
「お願いしま~す❤」

これなら発明関係で危険物に触れる心配もなく、家族内だしダイアナの体調にあわせ、ゆる~くやっていけるよねと合意に達した。
とはいってもダイアナが特段事前準備もなく教えてやれるのは、
20年先でも大きな変更の心配がないであろう授業科目・・・外国語等に限られてはいたが。
彼らに使用するテキストも、必要以上の未来の情報を知るべきじゃないと現在のものである。

「それじゃあ早速!2人ともフランス語からね。2人揃って2年連続で単位落としちゃってるのはマズいね~」
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通常は大学1年目でクリアされるべき、考古学専攻の2人には基礎一般科目に含まれる科目。
これだけで2名の危機的状況が察せられるが、彼らには危機感はまったくない。

「やーん、紙の教科書にえんぴつって、すごい~レトロ~❤アドラーブル~❤」
「まずはテキストを開こう。230ページね」
「? ダイアナ、これ確認テストのページだよ」
「そうだよ。制限時間は60分。辞書の使用は禁止。テストページ以外を開くのも禁止。始めっ」

ヒッ!
いきなり抜き打ちテストから始まった。





採点後のダイアナ先生から厳しい顔で講評。

「フランス語の試験内容は、毎年300ワードで内容自由のレポート課題なんだよね。随筆でも日記程度でもOKっていう。
 そもそも2人とも基本中の基本すら全然できてない!3年目なんでしょ!?」
「・・・うぅ・・・ だからダイアナに頼んでるんだもーん・・・」
「ダイアナも大学で教えてたんでしょ?滑り込みで入った俺らでも卒業できるように抜け穴をパパッと教えてくれればいいよ」

「サンセットバレー大は甘くないよ!!そもそも語学の基本は構文理解!核となる単語の暗記!」
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ぱーんっとスパルタ風にダイアナが言い放ったところで、
忠実なるシムボット・アンドリューが空気を読んでホワイトボードを転がしてきた。

「ダニエルちゃん、何かフランス語で簡単な文章ちょっと思いつく?思いついたら言ってみて?何でもいーよー」
「えっとぉ・・・・・ジュ プ エッセイェ~?」
「・・・・『試着してもいいですか?』 ? 面白いの出してくれたけど買い物かな」
「そう❤お買い物で使えるから丸暗記したの~。あとエスク ヴ ザヴェ ドゥトゥ クロゥ? 」
「なるほど。『他の色ありますか?』 うん。レポートには使えないけど悪くないよ。 次、ラフィはどうかな」

完全にレポートには使えないが相手のモチベーションのために肯定だけするダイアナはホワイトボードに今の文章を書く。
ラフィは金髪を揺らし、「ウィ。ディアーヌ」と微笑んでダイアナの名前をフランス風に呼びかけ、

「トゥ・エ・ラ・プリュ・ベル・デ・ローズ・・・・・ディアーヌ・・・・Passons la nuit ensemble」
「んもぉぉぉーっ!ラフィ!! んもうっ!  2人とも自分が興味あることしか覚えてないのはよーく分かった!!」
「えー!なになに、なんでラフィそんな難しいの知ってるのー?なんて言ったのー?」
「だって役に立つかもしれないだろ?」
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ダイアナが大いに呆れたところで、外でバスケ練習をしてきたレオとイアンが帰ってきた。
女性の身体であるうえ30代突入済みのイアンはバテバテで「ぶへー」と呻きながら冷蔵庫へ向かってゆく。

「ちょうどいいじゃん、ダニエル。レオに聞けば?」
「えーでもあたし、ラフィが言ったの、むつかしくて言えないぃ・・・もっかいラフィ、いまのやつレオに言ってー?」
「やだよ。男で、しかもレオになんか気持ち悪くて言いたくない」

「えー、ひどい~っ。あたしだけ分からない~!!レオレオレオぉ、ラフィがいじわるするのー!!訳するの手伝ってー!」
「ん?ダイアナがいるのに俺が手伝うの?どれを訳すればいいの?」

優しいレオナルドはまんまと呼び寄せられて、ついダイアナとアンドリューは含み笑い。
助け舟としてダイアナはホワイトボードにラフィが言った文句を書く。
そして紫髪のレオはダニエルが指差した文章を目にして、即翻訳することに難色を示す。
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「・・・━━ あ~・・・・何これ。ダイアナはどういう授業してるの」
「とっかかりに2人に知ってる文章を適当に挙げてもらったんだ。下の2行がダニエルが分からないんだって」
「レオぉ、翻訳して~。あたしだけ仲間はずれなのー」
「いや、でも・・・これは・・・さあ。ラフィがまた冗談で挙げたやつだし、勉強には役に立たないから気にしないで大丈夫だよ」

レオが渋るほどに、ダニエルはしゅーんと落ち込んで「レオも教えてくれない・・・」と目を潤ませはじめる。
s3-22[17]
「わかった、わかったよ!ダニエル」
「うん」
「君は薔薇よりも美しい。・・・・・。・・・・・一緒に、夜を過ごそう」

目を見つめられながら言われたダニエルがボッと茹で上がって「ラフィのばかー!大バカ~!サイテー!」と叫び、
レオも耳まで赤くしながら目を逸らす。
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悪童ラフィがぶくっくっくと笑ったところで、
イアンがなんとも複雑に光景を見ている。
あー・・・・
アレックスとエリンの息子のレオナルドと、自分の妹のダニエルがいい雰囲気に・・・・・。
最初こそダニエルの存在に振り回されてたものの流石に今では、彼らのこのモジモジ関係に感づいてはいるイアン。

「オイコラ。ダイアナ引っ張り込んでんだから、てめーら真面目に授業しろ」
s3-22[20]
とはいっても当の妊娠中のダイアナが実に楽しそうに笑っているので完全に複雑な兄イアンとしての横槍である。

「イアン、あたしは真面目っ!ラフィがひどいのっ。ばかーっ」
「知ってる文章言えって言われたから言っただけだだよ、俺このくらいしか知らないし」

ラフィはふざけてばかりかと思いきやダニエルと揃って学ぶためにノートを開いて、特別補習を受講する意思を見せる。
それがダイアナには嬉しく、できるだけ楽しくやろうと朗らかに授業を開始した。







汗だくなのでダイアナ達から距離を取りつつ、2人でアイスに齧りつく。
s3-22 (2)
「お前も同じフランス語専攻してたんだろ。1年目で単位取れるとは、やるな。バスケットマン」
「外国語は・・・まあ、ダニエルたちには悪いけど普通は1年目に取れるよ。
 レポートと言っても文法をちゃんと理解して、知ってる単語で自由な文を書けるか見るだけだったから。
 発音きっちり見られるような面接試験じゃないだけ相当楽だよ」

レオはさらりと言ったが、イアンはほーうと感心の声。
部活に注力してる割に押さえるべきところを押さえてるのは非常に感心だ。

「お前、将来はどうすんだ?」
s3-22[1] (2)
「・・・それ訊いてどうするの。未来のことは知るべきじゃないって言ってたのに」

爽やかな苦笑いを浮かべつつレオは答える。あまり話したくはないらしい。

「俺とダイアナの話は大体は知ってんだろ。知るのが俺だけなら平気だよ。実績もあるしな。
 バスケこれだけやりこんでるくせに、単位もこなしてる優秀な甥ってのは嬉しいんだよ。俺はドロップアウト組だしな」
「・・・・。俺さ、プロになれるとは思ってないよ。大学で全力は出すって決めたけどね」
「へえ。そうなのか」

イアンはさも『意外』という態度を演じてみせたが、やはり残念ながらレオナルドはバスケットの才能はない。
彼がサンセットバレー大学代表としてはスタメンどころかサブメンバーにもなれないのは、
プロや大学リーグ観戦が趣味のイアンには分かってしまってる。

「俺は”持ってない”からさ」
s3-22[4]
軽い口調で零す。
そしてレオナルド・ウッドヤードは表情のないまま、
双子の片割れのラファエル・ウッドヤードの方角に意識を飛ばすそぶりを見せた。

その瞳には普段のレオからは想像できないような暗い羨望の色が宿っているがイアンは気づいてないふりを続ける。
才能は欲しがる者に与えられないことも往々にしてある。
イアンだって高校でバスケとは別れを告げていた。
そうやって人は大人になってゆくなかで何か道を見つけるものだ。

「そういやエジプトで必要なもんは撮れたのか。遺跡の資料だっけか」
s3-22[5]
「うん。思ったとおりの成果を得られたよ。ダニエルは大喜び」

実はダイアナが補習してる外国語だけじゃなく、専攻している考古学関連科目の単位すら危ないダニエルとラファエルが
未来(レオたちにとっての”現在”)で失われた遺跡の詳細データがあれば単位もらえるかもというのが
彼らなりに見出したタイムポータルの情けない活用法だったのである。
アンドリューに追及されたとき、レオは自分の目的もあって意図的にこの部分は隠した。
つまり未来からやってきた自分たちに難色を示してたシムボット・アンドリューの怒りは正しかった。

「お前とおかっぱ娘にとっちゃ過去に観光旅行ってところか。ダニエルが付き合せて悪いな」
「ううん。ジュアもジュアで知りたいことがあったからね。もちろん俺も楽しいんでるよ。まだまだ色々出かけようと思ってる」
「へえ、そうか」
s3-22[6]
レオにもジュアにも、この時代の過去に来たい理由がそれぞれあるのだ。
双子でどちらが早く産まれて兄であるのか、というのはレオとラフィの目的だが、このレオの真の目的は別なところにある。
エジプトでは成果が得られなかった。

「イアンがまさか女になってるなんてな~本当、面白いよ。」
「ちゃーんと目に焼き付けとけよー。そうそう生きてて、ここまでの天然美女はお目にかかれねえからな」
「ええ?天然ってくくりでいいのかなあ?」
「うっせ」

「大体さ、あのディフェンスはズルいんじゃないの。あれじゃセクハラだよ、イアン」
「ふははははは。観てた連中にゃ羨ましがられてただろーが。
 大体おっさんに現役バスケットマンが正々堂々求めんじゃねーよ。ノーブラの天然モン押し付けらたんだ、有り難がれ!」
「叔父さんに胸板押し付けられて何を有り難がるんだよ~。でも久しぶりの割には結構レイアップシュート決まってたね」

レオとイアンは大笑い。

「あ?まーたダイアナが喚いてんな。 ラフィか、ったく!どうしようもねーな、あいつは!」
s3-22[7]
そう言ってイアンは紫髪レオとの雑談を切り上げて、
くだらない冗談を言い始めたらしい金髪ラフィにゲンコツを見舞いに行ってしまう。

「・・・・・・」

小さい頃からそうだ。
”どうしようもない”と大人たちはラフィに大いに呆れて文句を言いながらも、彼を心から愛して何かと構う。

アレックス譲りの片付け性でエリンの妙なお節介性分もあり、
バスケットに嵌っても両親が心配する必要がないほど勉学面も冴える紫髪レオ。
対して、桜子目当てで始めた空手も続かず、
桜子を追いかけながらも他の女と遊び回り、勉強はドンジリで適当が服を着て歩いてる金髪ラフィ。

そんな対照的な自分たち双子を前にしたとき、
アクの強い問題児ラフィにみんな関心を良くも悪くも引かれてしまい、模範的優等生ともいえるレオの存在は置き去りになる。

━━ 俺は、ラフィがいると忘れられがちになる。
”よいこ”は損をするんだ。
s3-22[9]
「・・・いつものことだけどさ」

そして内側に言葉に出来ないようななにかが渦巻く。

子供の頃から愛し、自分の出来る限りの全てを捧げてきたバスケットすら自分に振り向いてくれる気配がない。
それどころか抜群の運動神経の才は、よりによって双子の片割れのラフィにだけ与えられていた。
なのに当のラフィはその才能を活用する気がまったくない。
なんて残酷なんだろう。
天すら俺に光を当ててはくれなかった。
s3-22[8]
努力が実を結ぶと信じたい。
心から信じている。
だから絶対に毎日の練習は欠かさないが、世の中がそんなに甘くないことも頭では知っている。
バスケットボールの世界競技人口が4億5000万人、でもこの国のプロプレイヤーは1000人にも満たない。

『お前は将来どうすんだ』、だって?

s3-22[10]
本当はね。俺なりに考えてることがあるよ、イアン。
でも教えてあげない。


まるで若き日のエリンへの愛ゆえ道をはずすことを選んでしまった若き日の実父アレックスのように、
レオは鬱屈したものを静かに溜めつつあった。
ラフィにはない彼にある英才は、光のあたる場所を求めている。



→第23話




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