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第25話 庸一くんの仕事の事情Ⅱ mentorⅡ

←第24話



そんな庸一が居なくなって5秒ほど。
遠巻きに注目が集まっているなかでパーテーションの陰から、ニヤニヤしているのが丸分かりの笑いを含んだ声が上がる。

「いや~~~~熱い!熱いねえ~~~。若いってのはいいねえ~~~」
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「・・・・・盗み聞きはよくないよねぇ~」
「外に聞こえるような声で、あの庸一が怒鳴ってれば注目も集まるってもんでしょう。いやァ~うまく焚きつけるもんだ!」

ひょっこり立ち上がって、にやりと例の笑いで現れたのはグレンツ財団の長・最高理事イアン・グレンツ。
といっても運営自体は副理事に一任しており、基本的に彼は常駐していない。
庸一は怒りのあまり床を睨んで歩いていったせいでイアンに気づかなかった。

「ひとをイジワルじいさんみたいに言わないでくれる~」
「会議で庸一が発言するように議長の副理事を突っつかせて裏で糸引いてんだから、じゅうぶん意地悪じいさんでしょう。
 俺んトコに『孫より若い男の子をイジめたくないんだ』って泣き言が来てますよ」

とはいっても、ちゃんとした匙加減でパワハラじゃないレベルで行われていて、
庸一の上司ハロルドがフォロー役を演じてることも把握しているイアンが微笑む。
s3-24[25]
するとハロルドも「イジめてはないからね。普通の指摘させてるだ~け」と、イタズラっぽい笑顔をみせた。

「育て始めたみたいですね。で、庸一の奴、どんなポカをやらかしたんです?」
「イアン、キミさ。他人事みたいに言ってるけど、庸一のポカにキミんとこのバンビーナちゃんも関わってるからね」

彼が”バンビーナ”呼びするのはイアンの幼な妻ダイアナのことだ。
イアンは意外な事実にちょっと片眉を上げて「ダイアナですか?」と、企画書が表示されてるタブレットに目を通してゆく。

初心者にありがちな文字ばかり・色が多すぎということもなく、最低限のデザインルールも準拠し、
複数社から見積もりもとり、その比較のしかたもコンパクトにまとめている。
独学なら十分に合格点だと感心した矢先、最後にさしかかってイアンの目が厳しい色を帯びた。

「ね。そこ。庸一、気づくと思う?」
「どうでしょう。気づかなきゃ困るのはアイツなんで俺ァ知りませんがね」
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「あー!ヤダヤダ~~~! そういって僕に結局やらせてんだからな~ 何も考えないで釣りだけさせてよぉ~」
「くれぐれも頼みますよ」
「よくできてるのにね。しっかしキミんトコのバンビーナちゃんも、どうなのかなあ。仮にもキミのシムボット会社の社長でしょ」

とはいえ、ダイアナについては『お飾り社長』なのは彼女自身も含め誰でも知っている。
ビジネスのBも分かってないし、イアンは仕込む気もない。

「会社の舵取りは俺の仕事です。
 ”バンビーナ”は完全に友達の誕生日パーティー手伝うノリ程度にしか考えてないんですよ。すいません」
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「舵取りミスって、こっちの大切な船に接触させんのは勘弁してよ~。キミさ、”乗ってる”だけじゃないか」

彼が指す”大切な船”とは勿論彼が育てはじめた庸一のことだ。
乗ってるだけ、というのは例え話だけじゃなくアッチの事も指していてイアンは肩をすくめて苦笑い。

「本当にすんません。とはいっても、この庸一が作った企画書。昔出した俺のヤツよりゃあ、ずっと上等じゃないですか」

くっくっくと押さえるつもりが、つい自分の昔を思い出してイアンの笑いは大きなものになってしまう。
ハロルドも昔を思い出して同じように笑った。

「まあ確かにキミがうちに昔持って来たやつ辞書みたいなのよりは大分マシだね。読む気しなかったもんなぁ」

昔々、イアンが大学を中退し起業したての会社の営業で駆けずり回っていたころの話だ。
まったくうまくいかず倒産寸前の生活ギリギリのなかで初めて掴むことができた顧客が、このハロルドが経営していた会社だ。
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イアンにとっては大恩ある人間だったが恩を返す間もなくハロルドは早期リタイアして悠々自適な老後へ入ってしまい、
そして暫くイアンが迷走していた時期はずっと縁遠くなっていた。
しかし財団設立することとなり、老人というにはまだまだ元気なハロルドを「仕事ついでに釣り旅行でも」と口説いて
奨学金部門の理事になってもらった経緯である。

「企画書っていうか仕様書だったね。そのくせ食い下がるから困った困った。気づいたらウチで夕飯食べてんだもんなあ」
「貧乏生活だったもんで隙あらば美味いメシには食いつきますよ」

昔話がひと段落して、ハロルドはわざとらしくふてくされ顔。

「庸一、結構なこと言ってくれるよねえ~。僕のこと”釣り口実の出張”だってさ。」
「・・・・んな生意気なこと言ちまうのも、まだまだ物が分かってないガキって感じですね。シメんなら手伝いますけど。
 俺じゃない方がいいんでしょう?」
「そそ。キミじゃダメ。子供の頃から知ってるんじゃ甘えが出ちゃうでしょ。まー、まかせといて。テキトーにやっとくから」
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適当、という言葉の良さを知っている老獪なハロルドは雑談を切り上げてオフィスの自室へ向かった。

さてさて。庸一は何が悪かったのか気づくかな?
老年のハロルドはわくわくと若さと可能性の塊の庸一の成長すべてが楽しみでしょうがない。






まだ夕方と言うよりも早い時間に庸一が静かに帰宅すると、
そこには家族の日常が広がっていた。
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すでに帰り道で冷静さを取り戻し、あの暴言のヤバさが庸一のなかに沸きあがっている。
この4人家族を支えられるのは自分だけなのに、なんてことをやらかしてしまったのか。

「ただいま、桜子。おままごとか」
「んーん。どーじょ」
「? ありがとう」

否定しつつ桜子は沢山のおもちゃを父・庸一に差し出して座り込み、理由が分からない庸一が暫く見詰め合っていると
シムボット・マルちゃんが『なんでも屋さんごっこですよ。』と補足説明をしてくれた。
庸一はそれで納得して頷きながら、愛娘の小さな手にお金を渡すフリをして応える。
大学復学準備の予習をしているリズが、「はい、桜子ー。おやすみの日だよ~」と声だけで桜子のお店屋さんごっこに参加する。

「ん。ぱぱ、ばいばい」
『定休日なんです』

随分設定がしっかりしてるな!と庸一はしみじみ頷きながら感心する。
すると桜子はお金(のつもりだが何も持っていない)を取り出して、シムボット・マルちゃんに手渡す仕草をみせる。
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『お給料ありがとうございます。嬉しいな、マルちゃんはこれでご本買いますね』

3歳の桜子が、非常に単純ながら労働の仕組みを理解しているのには驚く。
子供はアウトプットが追いつかないだけで、実際は大人が思う以上に目の前の物事を理解しているのだ。

シムボット・マルちゃんは家族として家事育児をおこなってくれているが
庸一たち夫婦は給金・・・とはいえない、ささやかが額だが、ちゃんとマルちゃん自身が好きに使えるお金を渡している。
”道具”ではなく、家族としてマルちゃんを認めている何よりの証拠なのだが・・・・

(・・・・・・!)
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このとき庸一は上司ハロルドが怒った理由が分かった。

自分は外部との契約だと大金が掛かるからと無料であることに目がくらみ、
よりによって大切な家族のシムボットのマルちゃんで「どうにかできないか」という話を切り出してしまったのだ。
仕事で労働力が必要だったら自宅から持ち出せばいいなんていうやり方、誰が認めてくれるだろう。

庸一は表情が変わらないながらも、恥ずかしさとマルちゃんへの申し訳なさでいっぱいになった。






その夜。
鉄面皮とはいえ1人で抱えきれなくなった庸一はリズに今日の会社での出来事を全て明かした。
もしかするとクビになるかもしれないという正直な怯えもあるし、そうなった場合の懺悔の意味でもある。
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「俺はこの国では評価されないと思う」
「えー?今更、外国人ってこと気にする必要あるかぁ?アンタの日本で育ったより、こっちのほうがもう長いじゃん。
 それは性格だろーよ。つか口の巧い奴が目立つのは国関係ないと思うけどね」
「言い直す。きっと俺は働くのが向いてない。すまん」

彼のこの様子は完全にクビ覚悟だ。
マジで腹切とかしそうじゃんかとリズは冗談大部分、真面目ほんのちょっぴりで内心びびるほどだ。
かなり思いつめてる。

「庸一アンタ、働いて4年目だっけか。初めてじゃん?アタシにこういう話してくれたの。
 正直心配はしてたんよ、働いてる周りはアタシらの親より年上の人間が多いっつってたしさ。
 でも今まで本ッ当に一言もウチで愚痴らしいこと言わないのは、すごいなって思ってたけど・・・正直安心もしたよ」
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庸一が無表情で「どうして安心するんだ?」と尋ねているのも、リズは読み取れる。
すると彼女は悪魔のようにヒッヒッヒと笑いながら、

「やっぱアタシがいなきゃだめだねえ~庸一ィ~!所詮アンタはアタシの子分だっつーことだ!」
「・・・・・・・」
「まっ、そんなんはともかくさ。だーからアタシ絶対大学復学したいわけじゃないつったじゃんかよー。
 アンタは強く勧めてくれたけどさ。いいじゃん、クビになったら一緒に働くのもさ。ウチはマルちゃんいるからダイジョブ。
 やれるやれる。むしろ余裕」

かつての夫婦の話し合いで、自分に任せておけと請け負っただけに庸一は眉のかわりに視線が下がる。
そこをリズが真面目な口調で、
「庸一、アタシさ。大学の金出してくれた親に孝行するより、アタシは自分の家族のために生きたい。
 そもそもアンタをクビにするような会社なら居る価値ねーよ。桜子に嫌われりゃいいんだ、あんな子供好き」
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あんな子供好き、が指しているのは、庸一の仕事にも今回のことにもまったく関わってないイアンのことである。
当然イアンが悪いわけでもないがリズは問題の矛先をそらすために堂々と彼のせいのように言った。
この庸一が弱音を吐き、仕事に向いてないとまで言うのは余程思いつめてんだろうと幼馴染のリズは分かっている。
そして、この話は終わり!とばかりにリズは立ち上がり、こともなげに言い放った。

「クビ待つこともないんよ。アンタが辞めたきゃ辞めちゃいな!」
「・・・・いや、いいんだ。自分が悪いのは分かってるから頭は下げてくる。ありがとうな」

おお。そういえばこういう場面では言うべきじゃないかと庸一は無表情のまま重々しく告げる。

「リズ愛してるぞ」
「そッッゆーッッのは!!アレクサンダーだけで十分だっつんだっ!アンタは真似すんなっ!!」
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「別に真似じゃない。思ったから言ったんだ」
「うっせっ、ばーか!ばーかばーか、ばーか!アタシは絶ッッ対言わないかんね!」

子供まで作っておきながら、この反応はすごく良い。
リズは言ってるも同然の捨て台詞と共にリズは逃げてゆく。
付き合い始めのときから変わらず、ばあさんになるまで変わってほしくないなあと、庸一が密かに思っているリズの一面である。
そして入れ替わりに娘・桜子がくの一のごとく静かに別のドアから現れた。

「・・・・・・」
「桜子、起こしたか。俺たちがうるさくしてすまない」
「けんか?ママぷんぷん?」
「いいや。リズは照れ屋さんだからパパに好きと言われて照れて逃げただけだ。女の子だからな」
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庸一は非常に珍しく、娘にうっすらと微笑みをみせる。
そうなの、いつものアレね、とばかりに、桜子は動じることもなく父と頷いた。






「おはようございます。昨日は大変失礼な態度をとり、申し訳ありませんでした。
 帰宅した後、自分の出した企画の内容の悪かった点を見つけられました」
「おっはよ~。それならよかったねー」

切腹同然の覚悟で庸一は出社早々謝罪したのに、上司ハロルドのその一言で終わった。

「それじゃあ最後の部分は変えたの?」
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「はい。元々の内容なので、・・・・金額が大きすぎてしまいます」

重々しく庸一は元々の企画書データを表示させて自分のタブレットを渡した。
上司ハロルドは「なあんだ、いいじゃない!じゃ、コレで進めてみよ」と再び一言だけで終わらせてしまって庸一のほうが焦る。

「承認でいいんですか?」
「ダメ?だってちゃんと合見積もりとってくれてるじゃないの。外部委託するならフツーだよ。比べたなら分かるでしょ」
「そう、なんですが」
「委託先の企業だって誰かを雇ったりしてるんだもの。このくらいかかるよ~。
 個人のサイフと企業のサイフは桁が違うからねえ。この金額の釣竿買ったら僕なんか家から追い出されちゃうけど」

上司ハロルドは安心させてやるように朗らかに笑い、庸一が下書きモードのままだった企画書をタブレット上で承認を進めた。
そして庸一にさりげなく、アドバイス。

「グレンツ君の奥さんに協力してもらうって話出てたんだよね、ちゃんと断るんだよ」
「はい。昨日の夜に電話しておきました」
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「うんうん。そっか~。理由分かってた?」
「言い出した俺が辞退したので理解はしてくれましたが食い下がられはしました。心では納得はしてなかったようです」
「うんうん。旦那さんのグレンツ君の財団のことだし、彼女はお誕生日会を手伝うような純粋な好意しかないんだろうけど、
 僕は仕事とプライベートは別にしたほうがいいと思うよ。最初は正攻法から覚えたほうがいいしね、何事も」

それは庸一も同意なので頷く。
すると上司ハロルドはヒヒヒッと、まるでリズを髣髴をさせるようなイタズラっぽい笑いをして、
 「そもそもいつかはグレンツ君のライバル会社とかに転職しちゃうかもしれないんだし!ねえ?」などと冗談を飛ばした。
そして和やかな雰囲気のなか、

「じゃあ次の企画お願いね、庸一!色々変えたいことあるんだろう?楽しみにしてるよ~❤来週には草案くらい出せるよね」
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上司ハロルドはにこやかにハートマークまで付けた。
━━本日は既に週後半、木曜である。
もちろん、たった今承認された企画を進めながら、新しい企画の草案を考えなければいけないということだ。
仕事というのは終わりがないのだ。常に前へ進んでゆくしかないからこそ、とても厳しい。
でも、このツラい楽しさというものはなかなかクセになるかもしれない。
過程の苦しさと達成感はまるで登山に似ている。

庸一は力強く了解したという意味で頷いた。





帰宅した庸一はいつもの無表情ながら、真っ先にリズにそう報告した。
今まで仕事の話はしなかったのに昨夜の弱音をきっかけに、「少しは男のプライドを下げる気になったらしいね」などと
リズはまた悪魔のようにヒヒッヒとそれはそれは嬉しそうに笑う。

「でも、やったじゃん。すぐ気づいただけすごいよ」
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「ハロルドさんにもそれは言われた」
「そかそか」

非常に嬉しそうにしたあと、リズはちょっと考えると、ん"~~~と長く唸り考え事を始めた。

「どうしたんだ、リズ」
「アンタのほうは解決したけどさ。ダイアナの会社のこと考えてた。今日届いた記事、読んだ?」

そういってリズが示したのは配達されてる経済誌。庸一も会社でなら無料で読むことが出来る。
庸一が首を振りながら捲ると目次が目に入り、彼の瞳は難しい色を浮かべて距離を取る。
読む気がすすまない内容だ。
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その内容とは━━拡大している普通メーカーのシムボットとの比較してイアン達のシムボットは『コケた』という内容であった。
実はイアンが興した、ダイアナを社長としている自律思考シムボットの会社が赤字続きなのである。
公爵家に関する私生活に関しては法律で報道制限があるが、公的活動については規制がない。
だからアレックス達の父親ジョン・サウス議員の報道もされれば、財団・会社経営しているイアンやダイアナのことも報じられてる。

「イアンさんなら大丈夫・・・じゃないのか」
「経営者ってさ1コを大きく当てても、他の事業で大コケする人間って結構多いんだよ。
 さすがに破産でドビンボー転落なんつーのはないだろうけどさァ、公爵サマのアレクサンダーっつーアニキもいるしさ」
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経済学部のリズの言葉に、庸一は黙る。
そもそもシムボットだって高級家電だというのに、自律思考する性能、さらに外見も人間に準じたものだと価格がとんでもない。
先進的な性能=商業的成功とは限らない。
あのスティーブ・ジョブズが実の娘の名前を付けたコンピューターが大コケしている。

「ダイアナとはこの話はしてるのか?」
「んにゃ。相談すらされてないよ。ホレ、ダイアナはさ。中学んときから根っからの『イアン信者』じゃんか。
 心配すらしてないんじゃないの~?最初騒がれたせいでマスコミには懐疑的だしさ。ま!平気だろうけど!」

心配そうに話題をふっておきながらも、結局リズも楽観視しているのだ。
ふと、恩人ではあるイアンも自分のように仕事のことで悩むんだろうかと思ったら、つい苦笑がもれた。

「イアンさんも大変なのかもしれないな」
s3-25[11]
珍しく心のまま庸一は言葉を発するのだった。
働くってのは本当大変だ。



→第26話



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