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第37話 お約束のあのセリフ Slip&Splash

←第36話


あたしは自分を人より特別だなんて思ったことはない。
s2-37 (32)
因数分解なんか教科書にやり方が書いてあるのに「なんであたしより年上の人が皆できないんだろう?」って、ずっと不思議で、
その不思議はずっと続いた。

『沢山じゃないかもしれないけど、いいこにしてたら友達はできる』
お母さんのその言葉を、あたしはずっと信じて大切にしてた。
・・・あたしはちっちゃいころから時々でしゃばった口きいちゃうらしいから、お母さんはそう言ったんだろうけど。

友達はできたよ。
s2-37 (33)
でも皆あたしにないものを皆もってて、
庸一はお父さんとお母さんが揃ってたり、お母さんがいないリズだってお兄ちゃんがいて。
アレックスとあたしみたいにお母さんが違うとかじゃなくってさ。

みんな皆あたし以外は好きな人と幸せそうでさ。
あたし、友達と自分くらべてばっか。そればっか。
友達をいらないなんて言わないけど、
比べるために皆といたわけじゃないんだけど、あの夜からそれしかしてない。
s2-37.png
幸せって、「いいこ」して友達がいれば必ず来てくれるもんじゃないんだ。
バカバカしいって思えてしょうがなくっって、
そーゆーのが態度とかに出ちゃってたんだと思う。
だからアンドリューにも嫌われて、こんな反抗されたんだ。

”かっこいいイアン兄ちゃんが好き”ってだけだった昔の方が、よっぽど簡単で幸せだった。
s2-37 (34)
大人になって、ただ純粋で好きで恋をするだけのことがこんなに難しくなるなんて。


















物語の本当の始まりは、ここ。
『ここ』のダイアナは16歳、イアンは27歳、夏生まれの彼らの誕生日を近くに控えた夏。

アレックスとの結婚式を終えたばかりの夏の始まりのころ ━━━━そのエリンへの電話は、唐突に鳴った。
s2-37.jpg
「イアン。仕事は終わったの」
『ああ。お前何してんだ』
「別に何も?ああ、今日ね。アレックスと初めて海に行ったの。でもね、人ばっかりで、もう行きたくないって」
『昼間なんざ、行く気になんねーってのは・・・・ま、分かるけどな』

エリンに集ろうとする男でもいたか。
半年前にこっちに帰って来たばかりで新婚で浮かれ尽くしてるアレックスには耐え難かったのだろうと思うと、最高に笑えてくる。

「なあに?どういう意味?」
『別に。お前には言ってなかったけどな。今日のついさっきから夏の休暇に入った。サンセットバレー出るからな』
s2-37 (6)
「ふうん。あなた、もう空港なんでしょ」

鋭いエリンに、イアンが驚いたように笑う。

『よく分かったな! ったく、うんざりなんだよ、そっちの芋洗いなビーチは。サンリットで好き放題波乗りしてやる』
「偉そうに。あなたの物じゃないんだからしょうがないでしょ。彼女と一緒に行くの?」

『いや、別れたからな。っつっても結構前だけどな。古い話題だよ』
「またなの!本っ当長続きしないんだから。あなたねえ、そもそも ━━━━」

お節介お説教モードになりかけたエリンに、電話の向こうのイアンが低く尋ねる。
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『んなこと言うなら、お前アレックス置いて一緒に来てでもくれんのかよ』
「行くわけないでしょ」

脊髄反射的に答えを投げ返して、エリンは一瞬遅れて驚いた。

『だな。じゃあな、仲良くバカしてろよ』
「・・・・あなたいつ帰るの?イアン」
『さあ?どうだか。 じゃな、エリン』

どうだか、というのは『帰るかどうかも決めてない』という意味なのが分かったエリンがさらに驚いているうちに、
ばつん、と断ち切る勢いで通話は途切れた。
s2-37 (7)
アレックスが居なくなって3年、そして帰ってきて半年。
冗談で「へーへー、お美しいこって」だの言うことはあっても、イアンは男女的なものを一切匂わせず、ずっと『友人』だった。
アレックスが帰ってきてからも3人で会い、結婚式の準備に必要なら協力して、式当日も勿論イアンはいたのに。

やはり友人、だなんて都合のいいことをさせていたのか。
エリンの心臓は早くなるが、電話をこちらから掛けても何を言える?
イアンのもとに行く気なんか全然はないのに「帰ってきて」「待ってる」などと言えるはずもなく。
s2-37 (4)
・・・・アレックスが帰ってきて「仮」のお守り役は終わりということなのかと、
やっと持ち主の帰ってきたイーゼルを撫でながら、エリンは強烈な寂しさを抱える。

そういう役目を求めたことはなかったけれど、イアンがそのつもりだったなら自分達はこれがお別れなんだろう。
本当はプロポーズを断った時点で放り出されてもしょうがなかったのに優しいんだからと、エリンはちょっと鼻の奥が痛む。
友達でいるの、やっぱりムリなのかな?










電話を一方的に終えたイアンは空港とは言ったが、既にサンリットタイズのある国の乗り継ぎ空港。
エリンにああ言ったものの頭数に入れてるわけもない。
s2-37 (41)
エリンもアレックスも、イアンは2人を見てると苛々してしょうがない。
結婚式で心が痛まなかったかといえば嘘になるが、エリンへの未練とはちょっと違う。
違う形の愛情になっている節がやはりあるのに、・・・・あの夫婦を見てると無性に苛々する。
あの2人にぶつかってしまう前に離れたかったのに、とうとうやってしまった。

アレックスは最初会った頃は最悪に気に食わない男だったが、エリンのためにやったことと、
あと実際会ったこの半年でそうでもないとも分かったし、悪くはない奴だと思える。(自分には劣るが)
エリンも最初は・・・・出会いなんざ思い出したくもないが、まあ相変わらず綺麗でバカで可愛い奴だとも思う。
s2-37 (38)
友人として祝福もできているはずなのに、怒りすら孕みつつあるこの苛立ち。
イアンはエリンへのプロポーズがダメになり、その後で付き合った恋人たちを思い出す。

イアン自身よりも、イアンの付加価値の巨大さに相手が自分を見失ったり、潰れそうになったり、
他にはイアン自身の遊び歩いたバカな過去のせいで信じきれず結局別れざるをえなかったり。
好きでコロコロ替えてたわけじゃあ決してない。

━━━━自分はアレックスとエリンとは違って、
童話よろしく主人公の姫様と公爵様のようにトントンなどといきもしないのだ。
一番の身近となったあのバカな友人夫婦と独りである自分を比べ、どこにもぶつけ様がない苛立ちが日々増してく。

そんな自分の矮小さを忘れたくて、イアンは長くサンセットバレーを離れることにした。
s2-37 (36)
大人になって、ただ純粋で好きで恋をするだけのことがこんなに難しくなるとは。


















同時刻、サンセットバレー。
16歳のダイアナの夜の習慣は、イアンの影響でワイドショーニュースではなく経済ニュース番組を見ること。
テロップでは上場企業の株価の一日の終値がするする流れてゆく。

『本日のNYダウ平均株価は━━━━』
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「ありゃー また外れたー!!・・・・・まってまって・・・・うあわー、だめだ、全部だめだー!」
「あーあ。当たるならお母さんも買おうと思ったのに」

まるで宝くじかのような軽さで、ダイアナの母マーガレットが笑う。
16歳のダイアナはネットで知り合った数学好きの人間たちと、株価予想額を算出しよういう遊びの集まりを作っていて、
毎夜同じニュース番組を視聴しながら答え合わせ━━━━ が、当たり前だが連日みんな揃って外れる。

株価なんて突き詰めるほど最終的には何百万人もの人間の心情と期待値で『単純なのに意味不明』な動きをするから、
皆で欲しがっている定理には全然至らない。
s2-37 (3)
当然こういう数値の全ての完全予測ができるわけもないと分かってるからこそ、仲間たちと遊びで色々やってるのだが。

(やっぱイアンてすごいなー、なんでこんなの当てられるんだろ)

投資と起業で”当てた”、あのかっこいいイアンへの恋心と憧れは増すばかりだ。
この夏にはイギリス留学のため出国を控えているし、イアンも長期休暇でサンセットバレー離れると教えてくれた。
でもイアンはもう既に休暇に入って出立したというリアルタイムの連絡までは別にしていない。

「チャンスは毎日あるんだから。うまくいけば当たるんじゃないの?」と、母マーガレット。
「んもー、これはうまくいけばで当たらないのー!」
s2-37 (35)

「ふうん?どのくらい難しいの??」
「イアンの犬のブーツが喋りだして、イアンの会社乗っ取るくらい難しいの!」

「あーりゃりゃ。   ダイアナ、ご飯の前にシャワー入っちゃいな」
s2-37 (1)
母マーガレットが、ふふっと笑った。








そうして数日経ち、
エリンにあんな八つ当たりをした自分から目を逸らしながらイアンはずっとサンリットタイズの海に出た。
彼女は「きっとまだ自分が未練があるから、そんなことを言ったんだろう」などと思ってしまったに違いないが、
事実はもっと情けないものだ。

でも実際とうとうあんなことをしてしまうくらいなら、
自分はもうサンセットバレーには戻らないほうがいいかもしれないとも思った。
s2-37 (12)
月単位での休暇でとなると完全に仕事から解き放たれたわけではなく、決算発表資料の最終承認の仕事くらいはつきまとう。
中身は既にCOOやら下の人間がキッチリ対応してるため、非常に楽だがハリのない仕事だ。
相変わらずギリギリに承認申請が来たものを、今日の15時までポチっと承認ボタンを押してやればいい。

耳に入るのは波の音だけで人すらいない・・・と言いたいが
リゾートスタッフが御用聞きと清掃も兼ねて顔を見せるし、
専用プライベートビーチに行けば専任スタッフがいるので社会から孤立はしてはない。
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「あ、そうだ。なあ、ケルタ。冷蔵庫にさ、ママレードのジャム入れておいてくれるか。好きなんだよ、アレ」
「ハーイ。好きな銘柄あったらメモしますから、タオル替えたら教えてくださーいね」
「ああ」

人と仲良くなるのは巧いイアンに親しげに名前で呼ばれたリゾートスタッフが、家族みたいに返事する。
そんな平和なときに、ノートPCを開いていたイアンの飲み物がガタガタと揺れだした。

「! 地震か?」
s2-37 (8)
超一流といっていいビーチ付き施設のリゾートともなると警報設備くらい当然あるのに━━━━ 何の警報もない。
目線の先のプライベートビーチのライフセイバーも、泳いでる客(つまりイアン)がいなければ
小屋でのんびり待機をしてる。

ちょうど降りてきたリゾートスタッフに揺れを感じたかを尋ねると、
流石といった対応ですぐ本部へ連絡し、危険がないことを返答してくれた。

「地震はなかったみたいです。心配はありません。アー、僕の足音だったのかもです。スイマセン」
「はは!なるほど。そうならいいんだ。いつもあんがとな」
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そんな妙な揺れを感じて、3分ほどして。
また仕事に戻ろうかとイアンが座りなおしたところで、異変が起きる。


最初に降りてきたのは、
ロマンなんざ欠片もないような酒の匂いの吐息。

その匂いの直後にイアンが感じたのは人間の重みと柔らかさ。
"落ちてきた"にしては衝撃もなく、べちょっとそれは突然現れた。




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目の前5cmの距離で、自分のすぐ上にいきなり現れたのが人間だと脳がやっと理解した途端、
イアンは素っ頓狂な声を上げる。

「は・・・っ!?」
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互いが目をまん丸にし、
"落ちてきた"方のダイアナは突然の超至近距離のイアンに驚きすぎて、
彼の膝から後ろへ飛び跳ねた。

「わわわわわ!?」
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「な、なん、なん、な・・・・」

イアンが口をぱくぱく、していると
対してダイアナは髪が長い、屋外で、しかも半裸(!)のイアンに簡単にパニックになった。
勿論ただの水着だが。

「わ、わ、わわ、わわ」
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ガタタンと激しいステップで、
南の島に不釣合いなブーツが椅子の上から転げ落ちる。




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「!! ダイアナ!」

理解するよりも先にイアンは名前を叫ぶ。

完全不意打ちで頭から水に落ちたダイアナがもがく顔が見えてイアンは反射的に飛び込みかけたが
海で水の恐さを知ってる彼はすぐに思いなおし、
救命具に手を伸ばした。

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あわわ、と完全にパニックになって必死なダイアナはそれどころではなく、
一か八かでイアンが飛び込もうとした瞬間、
彼女は無事救命具に捕まった。

ひどくむせたままのダイアナに手を伸ばし、
励ましを掛けながら力技でプールサイドに引き上げているところへ
騒ぎを聞きつけたリゾートスタッフと、ビーチからもライフセイバーがやってくる。
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無事陸上についても咳き込んでいるダイアナが落ち着く前に医療スタッフも到着し、
そのまま応急診察と、さらに大事はないがVIP御用達であるだけあってリゾート専用の医療機関への搬送となった。


徹底的な検査だので数時間が嵐のように過ぎてゆく。


突発的な様態急変の危険はないが一回溺れた後は肺炎の危険性あるため安静するというところで決着がつき、
さらにダイアナは丁重に迅速にイアンの借りてるリゾートハウスへ戻された。

そしてイアンはダイアナに大いに余っている部屋の一つをあてがい、
医療スタッフ一同が全員が退出すると、明らかに挙動不審なダイアナがとうとう2人きりになった。
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「・・・・・・」
「・・・ゴホッ ゴホゴホ」

ダイアナは時折深く深く咳き込み、酸素不足気味ながら考える。
イアンがこの髪の長さってことは、少なくとも『ここ』は1年~7年前くらい過去のはず。
南の島みたいだから・・・毎年イアンの休暇はサーフィン三昧だから、そこへ来てしまったのだろう。

診察のとき医療関係者に色々と訊かれたが、
イアンは病状に関係なさそうな事情は適当に誤魔化しつつ対応してくれていた。
そこまでしたってことはバレてる気がすると、既に名前を呼ばれたことなど覚えてもないダイアナは大いに焦る。

・・・こういう状況のときに口火を切るのは、もちろんイアン。
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「お前、ダイアナ?だよな?」

相変わらず単刀直入。
しかしダイアナとしては自分は赤毛じゃなくて黒髪だし、
自分は随分大人になってるから誤魔化せるはず、と祈るような気持ちで嘘をつく。

「ひ、人  ゴホッゴホッ ・・・人違いです。助けてくれてありがとうございました ゴホンッ」
「・・・・ほう」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

イアンとしては彼女だとしか思えないからこそ、自分のリゾートハウスで休ませることにしている。
思春期特有の頬のぱんと張った幼さがすっかり抜けて大人びてるが、この顔、この声。
イアンは遠慮なくどかりとベッドに腰掛け、彼女の顔立ちをじっくりじっくり見やる。
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「そういやマーガレットはどうしてっかな?電話でもして様子訊いてみっかっな」
「!! ダメ!イアン、ダメダメダメ!!」

ダイアナの母親の名前を出してきたイアンに、ダイアナはついいつもの調子で叫んでしまった。
初歩的過ぎるカマ掛けにひっかかった彼女を見つめつつ、
イアンはその綻びを遠慮なく広げにかかる。

「で?じゃあ、仮にマジで人違いだとしてだ。
 この俺の名前をしってるっつーのは問題ねえだろうが、初対面でいきなり名前呼びか?・・・ま、珍しくはないとして。
 完全に見知らぬ他人のお前が、なーんでマーガレットって名前にんな反応になるんだよ?
 俺の恋人かも、母親かも、部下かも上司かもしんねーのに、お前に何か関係あんのか。
 大体、明らかに俺と同じ西海岸訛りだよな?お前もバレー育ちだろ」
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ザク、ザク、ザク、っと容赦ない。
同じ国でも、サンセットバレーのある西海岸方面は微妙に独特の喋り癖がある。
イアンとダイアナが育った西海岸は歌うようで、アレックスが育った東海岸だと少し堅い。
人の心を揺さぶるのが本当に巧い。

「そ、それ ゴホゴコホ ・・・・それは私も西海岸出身ですけれど、サンセットバレーじゃないです。 ゴホ。
 今日お会いするのは初めてです。助けてくださってありがとうございます。
 スカイダイビングで間違った場所に着地してしまいました。 ゴホンッ ご迷惑をおかけしました。すぐに私は帰ります」
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そもそも過去に来て、いきなり溺れて、この状況。
動揺しているダイアナの嘘は、明らかにグダグダだ。

「誰がいつ、サンセットバレーつったんだよ。バレーがある西海岸なんざ、世界中にどんだけあると思ってんだ」
「!!」
「大体あんな冬服で何の装備もねえくせに、なにがスカイダイビングだよ」
「・・・・」
「で? なんなんだ?・・・・なんでお前いきなり、どっからきた?」
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対応力はアレックスの10倍はあるイアンでも程度問題だ。
動揺のまま立ち上がり、
イアンは犬のようにうろつきながら独り言のように問いかける。

「いや、そもそもこれは、一体、なんなんだよ?」
「・・・・・・」
s2-37 (31)
うろうろうろ。


先月、エリンの結婚式で初めてだというダンスを教えてやった16歳のダイアナ。
そもそもごく普通の家庭の16歳のダイアナが、サンリットにいきなり現れるわけがない。
留学前でそんな金も暇もないだろう。
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対して、それよりも明らかに大人になっている、目の前で咳き込んでいる大人の、しかも黒髪のダイアナ。
目の前のダイアナは、いくつぐらいだ?
化粧なしで肌の調子からすると、21、22?いや・・・25、6か?
このぐらいが一番判別が難しい。
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もうイアンの脳裏には1つの仮説しか浮かばない。

「まさか、あれじゃねーよな?」
「・・・・・・・・・・」
「未来から来ましたとか、じゃ、・・・ねえよな」
「! ・・・ゴホッ ゴホッ ゴホッ!!」
「・・・・おい。 ってことはだ。━━━━ お前がいま俺に訊きたいのって、『お約束のあのセリフ』じゃねーよな?」
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原理なんざ理解できるはずもないイアンはすっかり顔が笑ってしまってる。
対してダイアナとしても、
嘘をかれに突き通すのはムリだと分かってる。
じゃあ、訊くしかない。

「イアン・・・あのさ。・・・・・今って何年の、何月何日・・・??」
「うっそだろ、オイ」

急に真顔になって、
イアンはもう一度「うっそだろ、オイ」と呟いた。
そして映画やドラマのようにイアンが場所と日付を戸惑いながら告げると、ダイアナが反射的に呟く。
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「あー、決算発表が延びた日だ?  ね」

ダイアナが16歳のとき(つまり、"今"だ)、
イアンの会社が何故か決算発表日延長のお知らせを出したことがあったのを、彼女は当然覚えている。
その言葉に、非常に珍しくイアンが狼狽した。

「!! やっべえ!!承認進めてねえ!!」

タイミングよく、非常に恐縮しきった声でリゾートスタッフがドア外でノックする。

「グレンツ様、勝手にお邪魔しております。非常に重要で緊急の件ということでフロントと本部へ何本もお電話がございまして、
 サンセットバレーのブラウン様、スミス様、佐藤様とあと━━━━」
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「こっちからかけ直すっつってくれ!」

予定してた承認期限時間を、この騒動ですっかり忘れてしまった!
受電メモ数枚を持ったリゾートスタッフの横を飛び出し、イアンが転がるように駆けて行く。
あんなイアン見たことないダイアナは目を丸めつつ、まだ咳き込む。

あの決算発表が延びた年だと2年半前に、・・・・イアンが例の恋人とやらに会う年だ。
本当に、来ちゃった。彼女もそのうち帰って来るのかな。

・・・そんなことよりどうしよう。
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あたしが過去に来ちゃったことで色々もう起こしちゃってるのかも。
自分が溺れたせいで駆りだされた医療スタッフが、他に助けるべきひとを助けられなかったりしたらどうしよう。

ダイアナはまずは手近な情報収集と、気分を落ち着けるためにテレビをつける。
一流リゾートともなるとチャンネルは豊富で、ダイアナがイアンと出会ってから見ていたあの経済ニュースがライブで放送していた。
時差の関係で、サンセットバレーがある自分達の国の市場は取引が終わっている夜中だ。
16歳のダイアナは母親に言われて、お風呂に入る時間。

『本日グレンツ社より広報発表があり、来週月曜日に予定されていた決算発表の延期するとのことでした。
 理由と延期日数について公式発表もなく、同社は沈黙を守っております。
 そのため一部投資家が嫌気を示したグレンツ社株は売り気配を見せ、本日金曜の取引終値は4ヶ月ぶりに━━━━』

s2-37 (45)
同時刻の16歳の自分もサンセットバレーで見てるこのニュース━━━━ 結局、1日延期しただけで普通に決算発表されたんだよね。
別に数字も悪くなくって他の発表もなくって、あのときは不思議だったっけ。

そしてニュースが発表するグレンツ社と同業他社の株価と取引高が発表されるたび、ダイアナは驚愕しながら、テレビに近づく。
全部が全部、数値が同じだ。

「うそ」

すぐにリモコンのデータボタンを押し、画面下テロップで今日の市場取引情報を、株価一覧を見てゆく。
それは16歳のときに見た数字と全て一緒で、ぞわぞわっと鳥肌が立った。

本来なら居るべきでない未来から来たダイアナが、単なる呼吸で酸素原子をちょっと使ってしまうだけで
未来にとんでもない多大な影響を与えてしまうかもしれないというのが、タイムトラベルの危険性。
そうして本来自分がいた未来からズレてく、過去と未来がズレる、原因と結果が矛盾する。それがタイムパラドックス。
s2-37 (49)
でもダイアナの仮説はもう一つあった。
例え過去に行って何をしようが、宇宙の時空の力はそんなことすらも全て織り込み済みで━━━━全てが予定調和だと。
だから因果の矛盾など、そもそも起こりえない。

何も知らないダイアナが、何も知らないイアンを水難事故に巻き込み、
そのせいでイアンの会社の決算発表日がずれ、
何千人もいるイアンの会社の人間に、株価に、世界市場にまで影響したのに、
ダイアナが知っている結果と、目の前で出ている世界中の市場数値にはコンマ1もズレが生じていない。

偶然の一致など確率としてありえないのは、ダイアナは十分知ってる。
自分はここへ来るべくして、来た、ということだ。
s2-37 (42)
ただ何のためなのかなのは、イアンもダイアナも知るわけもない。



→第38話


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Re: タイトルなし
miruさん、こんにちは✿いつも読んでくださってコメントありがとうございます。連休でお返事が遅めでごめんなさい。

私個人は非常にせっかちなのでこのシーズンを引き伸ばしている気は毛頭なかったのですが(連載始めてどのくらい経ってるのかw)
イアダイについてはジリッジリでした。両思いなのにすれ違いっていうのは個人的に好きなのですが、もう限界(・ω・)
南国編早く行きたくてしょうがなくってもうですね、あれででしてね。非常にあれでした(小田和正ばりに言葉に出来ない)
そういえば、ふと思う。エゴイストやら0シーズンで散々ウフフしていたイアン君ですが、
本命とのウフフ描写は、実は未だにないという!!!!!ストーリー初となりますからね(´;ω;`)ブワワッ つくづく不憫でしてね!
ああ、かわいそう!!(爆笑:ひでえ)どういった形で書くべきなのか実はまだ悩んでます。描写レベル感とか(!?)
最近だとトムアデがありましたが、あれはわたしとしてはライトだったと思うので(他のに比べればwww)さてどうしましょう。

16歳のダイアナ十代シムとかを見ると非常に懐かしい思いに実は駆られるのですが、
実際頭のいいというだけで中身自体は素朴な子でいてほしいし、そのつもりです。そのアンバランスさが愛らしいと同時にイラッ(笑)
ダイアナがちょっと自分を卑下している感がかなりイラッとポイントなのだと思うのですが、愛されてる人間ほど実は鈍感だし
天然的に傲慢な部分があるかとおもうのです(*´∀`*)
でもそんな及第点未満な彼女が南国編でどうやってパンプキンの地位を築くにいたったか、ちゃんと書きたいなと・・・!
・・・・ちゃん書ければいいな!(;^ω^)いつもテーマがあるけれども書ききれるかはドッキドキ

過去エリイア部分は、本当は第一シーズンラストor第2シーズン冒頭に入れようかとも悩んだシーンでした。
懐かしい、ちょっとした切なさとかシリアスさがある感じの頃の彼ら(*´∀`*)
ダイアナがイアンの上(意味深)からの溺れるというのはタイムスリップネタに思い至った時から温めてました///
こういうラブコメなありがちハプニング、だいすき(笑)ドボンシーンのあたりは、自分用とはいえポーズ作れるようになって
良かったとちょっと思いました。意外に驚き顔ポーズってないので✿

>ダイアナちゃんが未来から来たんだろうって結構あっさり受け入れたのが意外な気も
おお。実はこの感想には驚いた。そういう視点は最初から考えてなくて、なんでだろうと考察したところ、
「そもそもイアンは生粋の女好きだから同一人物っていうのは間違えないな、うん」というのがありました(笑!)
あと作中最も柔軟性も持ちえているイアンという人物のせいかなと(´∀`)  ※逆に頭が固いのは誰かというのは言う必要ないでしょう(笑)

ダイアナの天才特質、これは全てイアダイのために決めましたからね(マジで)シムズ話ならではなチート術。
最近更新が早めなのは、クリスマス以降の現在の辺りは第2シーズン開始前から決めていたシーンばかりで
前後の矛盾とかを考えなくていいから書くのが早いというのが1つと、区切りやすいのが大きいと思います✿
番外編は文字も多い話で1話長すぎたうえに、プロットから外れすぎて毎回難産だったしのを自省したのです(苦笑)

半裸だなんて・・・女性がよくないですよ(フワサァ:イケメンのえる)いつも楽しみだと言ってくれてありがとうございます❤
今年12月までに完結させられたら(9割ムリ)褒めてください(ノ∀`)wコメントありがとうございました✿
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