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番外編ストーリー:エリンのかまど





新年最初のストーリー更新です(*´∀`*)
この番外編はもともと本編第2シーズン途中に組み込もうかも考えていたネタです。
が。既にお分かりの通り、これ以上過去の話を組み込んだりして
メインカップル以外の時系列を乱すとややこしくなりそうだったので番外編として出そうと温めてたエピソードとなります。

本編でもちょこちょことと出てきていた、エリンの料理スキルに関するお話。
たぶん第2シーズンでエリンにいきなり「すごい料理」設定が出ていたので唐突感があったと思いますが
ちゃんと流れがありました(;A´∀`*)
タイトル由来は某料理番組から✿
録画するとお菓子作る→太るになりそうなので、時折観るのですが独特の雰囲気が好きです。










エリンのかまど 
SEASON1.5 Erin's Kitchen 





アレックスが『待っていて』とサンセットバレーを一時的に去ってしまっていたころ。
その間のエリンは暇に任せて少しずつ新しいことを始めていた。
まずは海岸沿いで、薔薇やら花のガーデニング。これは元軍人のマークからの手ほどきを受け、なかなか順調。
心配していた潮風の中でも花が咲いてくれるようになってきた。
20141231 (2)
そして。

「・・・・・・お前、本当に料理できねえんだな」
「? 何言ってるのよ、ちゃんと上手にできてるでしょ、ブルーレア」

ぶっちゃけ色々な男性とデートやらで最高級といえる料理を堪能してきたエリンは食知識の豊富さには自信がある。
ステーキ肉の表面を数十秒だけ焼いたという見事なブルーレアのステーキが、
某レストランの真似っこをした美しき体裁で皿に乗っている。

「イアン、まさかあなたブルーレア知らないわけじゃないでしょう?できてるじゃない」
「ああ、そうだよな。でもな、エリン」
「?」
「これは豚肉だろうが」
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一緒にテーブルについている少女ダイナアと彼女の母マーガレットが、
「あわわわ」という顔でエリンの自信作・『生焼きポークステーキ』を見下ろしていた。
しかしエリンは非常に誇らしげにウィンクまでしてみせる。

「そう!牛肉だとつまんないから、豚にしてみたの!牛肉と違ってビタミンも摂れるし、美容にもいいの。知ってた?
 エステで知り合ったおば様に教えてもらっちゃった。流行ってるみたい」
「待て待て、そうじゃねえだろ。そこじゃねえよ」

「なによ。普通に美味しいわよ、失礼ね!」
「! お前、まさかこれ食ったのか!!」
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「決まってるじゃない、でなきゃ出すわけないでしょ?先週自分用に作ったのはもうちょっと表面がピンクだったけど、
 今日はもっと上手にできたの❤ あなた用にお替わりの分もあるわよ」

ウッドヤード家の食卓にお招きされた一同の顔が歪む。

「「「エリン!」」」
「えっ?」
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これは今よりも少しだけ若かったエリン・ウッドヤードの、・・・・『花嫁修業』のささやかな記録である。











ふつうに店で流通している生肉は、全て加熱調理用であるという基本中の基本知識がなかったエリン。
1番動揺したのは、色々な背景と共にエリンを愛してやまない(恋愛的な意味ではない)元軍人マークだった。
彼にほぼ強制というかたちで病院で寄生虫やらなんやらの検査までさせられたが、
元々旅行癖があり色々な地域を行っていたこともあったエリンは時折そのテの検査もしていたらしく、幸いにも問題はなかった。

「アンタ、本っ当~に気持ち悪いとかなかったの?」
「ないわよ、大袈裟ねえ」
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ぷんすかと言い返すエリンに、マークは深く溜め息をつく。
そして呆れ半分、「暗殺されかけたようなもの」だと怒り半分のイアンが、キッチンカウンターの上にノートを広げてやった。

「書け。『その1。専用に仕入れたものじゃない限り、全ての肉は中まで火を通す』。書け、エリン」
「何で?」
「エリン。料理をするなら”グルメ知識”だけじゃダメよ。基本的なことから学びましょ。
 センセイを呼んでおいたから。センセー、ヨークセンセー!! 5番テーブルにご指名よー」
「ハイハイハ~イ❤」

マークが茶化しつつ呼ぶと、澄んだ声で年甲斐もなく可愛らしいポーズを決めるのは いつもの顔。
娘ダイアナとお揃いの赤毛が鮮やかな、エリンの親しき友人の一人である元歌手のマーガレット。

「まずは目玉焼きから。朝食のお約束だけどダイアナもこれから勉強したの。エリン、頑張ろう!」
「! そんなの卵を割って焼くだけじゃない!」
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すぐに反発したエリンに対し、彼女の両サイドからマークとイアンがさらに強く反発する。

「肉を焼くだけの料理で俺ら全員を殺しかけたお前がそれを言うか!」と、イアン。
「料理をしたいなら大人しく勉強してちょうだい、エリン!アレックス暗殺犯にでもなりたいの?!」と、マーク。
「その通りだ、マーク!アレックスが戻ってきたら一面記事のタイトルはこうか?!『サウス公爵、ステーキで死ぬ』!! 」
「エリン、あたしはあなたの写真がそんなスキャンダルで世間に出るなんて許さなくってよ!!」

口達者っぷりはトップクラスのイアンとマークに言われたら、エリンが逃れられるわけがない。

「ダイアナが乗馬を教えてもらったりとかもあるし、お互い様よ、エリン。これで我が家の貸しがやっとゼロってこと。
 ね?一緒に料理するの楽しいし、やろ!」

飴と鞭の役割を即座に理解したマーガレットがにっこりとフォローして、
エリンは彼らの思惑通りに授業を受けることとなった。

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「まずフライパンを温めておいて、バターか油を入れておく。ここまではいいよね。で、卵を割って入れるだけなんだけど注意」
「え?なにかある?」

「お店とかで綺麗にしてくれてる卵だけど、鶏のお尻の穴から出てくるでしょう?
 お店のパックとかはちゃんと薬で殺菌されてるけど、基本卵はさわったら、何も触らずにすぐに手を洗うこと!
 そのまま冷蔵庫を開けたり、お皿やグラスを触ったり、サラダを作ったりしちゃダメ」

「! そうか、そうね。総排出腔よね」
「へえ、そう言うの?さすがエリン。よく知ってるのね」
「うふふ」

さすが母親でもあり、少し年長でもあるマーガレットはそうやってエリンを褒めながら、
料理の仕方は簡単な説明にしつつも気をつけるべきことを重点的に教えてゆく。
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ところが思わぬところでショックを受けている男がひとり━━━━ イアンがぼそっと呟く。

「マジかよ」
「あら、イアン。知らなかったの?卵が出てくる出口は一緒よ」
「ケツの穴なのか」
「ケツの穴よ」

タバコ嫌いのエリンの手前、
マークはシリアス顔でタバコを吹かしているようなフーっというジェスチャーをしながら繰り返した。

「アンタはケツの穴から出てるものを食って育ったってことよ、イアン。で?卵がすきなの?ケツの穴はお好き?」
「おい、マークやめろ」
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スクランブルエッグ好きのイアンは複雑そうに呻いた。











そんな感じで講師マーガレットのお料理教室は不定期に開催された。
ある日は市場から配送されてきた、立派な白身魚があるのでソテー。
といっても今時は店で頼めるからと、シングルマザー・マーガレットは魚の三枚下ろし講座なんざはせず、
なかなか現実的な料理を毎回披露した。

「白身のお魚は好きよ、さっぱりしてて。白身魚だもの、白くなれば火が通ってるってことよね?」
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「おしい!焼いた魚につまようじとかを刺して、色のついてない透明な汁が出てきたらOK。
 見た目で判断はダメよ。強火とかにして焦りすぎて焼かないこと。中火で様子をみながら。料理は焦らない」

エリンの若干の猪突猛進するきらいを見抜いてるマーガレットはそう繰り返すと、
ふんふんと頷きながらエリンは大人しくノートに書く。
その生い立ちゆえ、学校には通ったことないエリンは楽しんでいた。
それにマーガレットと自分の共同制作料理目当てで、イアンやマーク達が来てくれるのも賑やかでエリンは非常に嬉しい。

20141231 (10)
あと昔の泥棒時代に時折見ることのあったアレックスの料理の手つきよりも、やはりそつがない。
生真面目に大きさを揃えようとしていた彼を思い出し、エリンは心の中でいつものように遠くのアレックスを想う。
気付いたら家族になっていた唯一のひと。

この不定期の料理教室の開催は日曜日なので、
見学者兼『イアンに会いたい』少女ダイアナがニコニコ顔で彼の隣にちゃっかり居座っていた。

「あなた達、あいかわらず食べるだけね」と、明るく笑うエリン。
「だって食べる係だもーん。ねーねーねー、イアン。日本だとサシミってあるじゃん?あれって」
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「! ダイアナ、余計なこと言うな。
 ・・・・エリン、刺身を作っていいのは特殊な免許があるシェフだけだからな」

ダイアナの言葉を遮ったイアンが言い放つと、エリンはふふんと笑い、

「あら知ってるわよ、フグでしょう?昔すすめられたけど断っちゃった。ちょっとゲテモノよねえ。
 でも普通の魚も免許が必要なの?」
「そうだ。お前じゃ刺身とかスシは作れねえからな。絶対にやるんじゃねえぞ」
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イアンは自分(とエリンの料理を食わされるであろう他の人類)の身を守るため、
堂々と嘘をついた。













エリンにとっての鬼門 ━━━━豚肉。
その豚肉を使ったコンフィのときには特別講師として理系少女ダイアナが参上した。
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憧れのイアンも見守っているのでちょっと張り切り気味のダイアナは
豚肉ブロックに大目の塩、そして市販のミックススパイスの袋を並べる。

「これはあたしの得意料理なんだー。この低温の油のなかにね、この豚肉のカタマリを入れまーす」
「あっ、低温殺菌ね?」
「ピンポーン、その通り!牛乳とかと一緒で風味を壊さないように、65度以上70度以下でじっくりじっくり殺菌するよ。
 コレコレ、油の温度はかれる奴ねー」
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そこには食材の温度も見れるよう先端が尖ってる電子温度計がある。
煮物用のナベいっぱいに油を注ぎいれて、ゆっくりと豚肉ブロックがその中に沈んだ。
ぐつぐつ、さえ言っていない。ただ静かに沈んでいる。
手順が落ち着いた頃を見計らって、イアンが指先を少し挙げて「ヨーク先生、質問」とヒラヒラ揺らす。

「はーい、グレンツさん。なんですかー?」
「そもそもコンフィってなんだ?食いはするけど実は知らないんだよな。フライじゃねーのか」
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「えっとね、お肉が保存しやすくなって美味しくなるんだけど細かくは油じゃいけないってわけじゃないんだー。
 あとの詳しいことはネット検索してくださーい」
「おい、コラ」
「んもー、今ちょっと忙しいの!肉の中の温度を65度をキープしなきゃだから、こまめに火の調節しなきゃいけなんだからー」

この頃は将来教壇に立つなんて知りもしなかった少女ダイアナは、そう言い放つ。
そしてキッチンタイマーが3分ごとに鳴るたび、
ダイアナは用意しておいた食材の温度を測る温度計を見ては変化のない鍋をじーっと見つめる。
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「・・・・見てる必要、あるものなの?ダイアナ」と、エリン。
「ううん、必要ないよ?でも面白いよ」と、ダイアナ。

ダイアナに言われた通り、ささっと携帯で検索し、
要するに保存食を作る料理法だと知りはしたイアン。
母マーガレットにでも教わったのか、若い割に凝ったもん作るもんだと感心しつつ彼は何気なく尋ねる。

「で?どんくらい煮るんだ?」
「6時間」
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わざわざ空腹でやって来てやったイアンの腹の虫が低く鳴いた。
 










我は強いが頭もよく、あと根幹では素直さも持ち合わせているエリンはそつなく料理の知識を吸収していった。
アレックスが居なくなってから3回目のクリスマスがくる頃には、
例の『生焼きポースステーキ』の無謀さも認識はできるようになる。
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その日は焼きすぎた量のパンの香りが、エリン一人の家に満ちた。

「裏ごしすると舌触りは滑らかになるけれど、栄養素を壊しちゃったり繊維質を失くしちゃうんだって。
 だからヨーク家では裏ごしは基本しないでマッシャーでつぶしてるだけにしてる。楽だしね!」
「あら。繊維質は美容には必要よねえ」
「その通り。好みの問題もあるけど普段の食事で手を加えすぎたりすると、思わぬところで栄養が偏るから気をつけて」
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「はーい❤ あ、あのねマーガレット。次のクリスマスは、イアンの家でステーキのリベンジをするのよ!」
「そうなの?あたしは行けないけど今度あたしにも作ってね」

エリンは喜んでと先生に向かって頷いた。

「あのパン、イアンも食べたいわよね。取りに来てもらおうかな」
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届けてあげる、という種の献身さはエリンにはない。


ただし残念ながら、
この話題になった『リベンジ』のステーキは調理したエリン自身は皆と食べることはなかった。







当然、そのクリスマスに待ち人が帰ってきたからである。
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さて、アレックスが帰ってきて年明け。
エリンとアレックスが結婚する報告を受けて、友人であり講師マーガレットを始め、いつもの面々は大いに喜ぶ。
努力の甲斐もあって、エリンの料理は特別すごい腕前ではないが普通に作れるようになった。

「これにて卒業ね、エリン」
「本当にありがとう、マーガレット」

師匠と弟子がティーカップを持ち上げて乾杯の仕草をしたところで、彼女らを支えた功労者たちが呟く。
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「長かった」と、イアン。
「長かったわねえ」と、マーク。
「お疲れさまー」と笑うダイアナが言うのは勿論エリンに向けてではなく、エリンの花嫁修業を支えた母達にだが。

そんな和やかな中おっとりとした仕草で紅茶を給するのは、エリンではなくアレックス。
3年ぶりの再会の興奮もついさっきまで一同にあったはずなのに、その独特の緩やかさでアレックスはまた当たり前に馴染む。
そして心から安心したように、

「でも良かったよ。昔からエリンは外食ばかりでね。イタリア時代もエリンが留守してたときなんかは、いつも心配してたんだ。
 それがちゃんと自分で作れるんだからすごいよ。本当にありがとう、マーガレット」
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「今朝は目玉焼きを焼いたのよ。ね、アレックス」
「そうそう。素晴らしく美味しかったよ。
 サラダもスープもあって盛り付けも完璧で、お店も開けるよ。『グランドメゾン・エリン』だって言ってたんだ。ね?」
「うふふ❤」

それは記念すべきエリンが教えてもらった1つめのメニューだが、スープはインスタントだし、サラダはちぎっただけ。
イアンすら時折作るような簡単なメニューだが、
お料理ノートで新妻エリンの努力の軌跡を既に知っているアレックスは、手放しで最上に甘く褒め称えた。

「で?お前ら旅行はどうすんだ。結婚式前に行っちまうんだろ」と、イアンが尋ねる。
「2人とも行った事ないところにしようと思って、中国で食べ歩きするのよ。あなたのお勧めのお店とかあったら教えてちょうだい」
「ああ。メールしとく。でもな、エリンお前式の準備はサボんなよ。全然選べてねーだろ」
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「はいはい」
「いいないいいなー!あたし、外国いったことないー」

アレックスが戻って来たばかりであるため、
約半年後の夏からイギリス留学する予定であることを母以外には隠していた少女ダイアナは
目をキラキラさせながら声を上げた。









初夏に結婚式を控えて、
エリンの誕生日がある3月に彼らは1ヶ月のハネムーンへと出かけた。
穏やかなる人生を2人で共にと願ったアレックスの幸せは長くは続かなかった。
20141231 (33)
新婚旅行先の中国にて、それは起きてしまったのだ。


「薬食、同源??」
「欧米でも最近は科学的に栄養学を考えておりますが・・・
 中国では紀元前から皇帝陛下の栄養を食医という医者が管理してまして、食事もすべてが薬であると考えておりました」

かつて中国皇帝が食したという豪華な料理を前に、レストランの代表の説明を聞きながらエリンは目を輝かせる。
顔が売れてしまった元公爵のアレックスがいると、お忍びとはいえ、どこでもこういう待遇になってしまう。

「味だけではなく、体に入ると作用を現すものもあります。体を温めたり、解毒・・・身体の疲労物質を排出させたり」
「! デトックスね」
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「その通りです、奥様。
 最近でこそ有名ですが、古来の医師たちは当たり前に取り入れていたのです。例えばこちらの━━━━」

机の上の料理の解説を聞きながら、エリンは頷く。アレックスはマイペースに食べながら、

「面白いなあ。やはりスープは体を温めるとかかな?風邪を引いたら、子供の頃は鶏とオニオンのスープだったよ」
「はい、旦那様。さらに料理自体の温度だけでなく、ゴマや・・・土の中で育つものは体を温める作用があるので、
 そういったものを使ったりします」

少しだけ漢方香がする料理が出ると、エリンはくんくんと香りも楽しみながら笑う。

「こういう薬の香りがするのものを王様はいつも食べていたのね」
「いいえ、そういったものは目立ちますがあくまでアクセントです。
 旦那様がおっしゃったオニオンも体を温める野菜ですし、薬である、そういうことなのです。奥様」

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「食事が、薬ってそういうことなの」
「はい、奥様。たとえ体系立てていなくとも世界中の台所が実はそう考えているのです。
 インドでもスパイスのカレー、イタリアのオリーブオイル、日本の生食も、特別な薬ではなく日々の当たり前のものです。
 そのように全てのお召し上がりになる食事によって、お健やかに末永く、お幸せに暮らすことこそが大切ということです」

「なるほど。エリン、どう思う?」
「なんて素晴らしいの!」

感動したエリンは目を輝かせる。
決して特別なことではない、全ての食事が薬というのはそういうこと!なんて素晴らしい考えなのだろう!
自分の食知識は完全に西洋料理ばかりに偏っていたと、
正直『お腹に溜まればいいし、時々美容も気にする』程度だったエリンの食事観が、まさに大きく転換した瞬間である。

「ただ、わが中国は紀元前から知っておりましたが」
「黄河文明は違うね」
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胸を張る中国人の彼にアレックスは朗らかに微笑んで、さらりと流した。
近々、妻となる女性のなかに芽生えてしまったものを知らずに。












エリンは自分なりにマーガレットみたいに『自分のオリジナル得意料理』なんてものを生み出してみたいと
料理の基本を覚えたと彼女にお墨付きをもらったときから考えていた。
マーガレットの料理も主婦ならではで細かい分量の取り決めがあるわけではなかったし、
そもそもレシピ本の通りに作るなんてつまらない!

オリジナル料理について考えていた矢先、その方向性を決定付けてくれる閃きが、とうとう舞い降りたのだ!

「最近は読書漬けだね?」
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「暇なら手伝ってくれる?」
「読書を?」

エリンの手に引かれるまま腰掛けると、まるでアレックスをソファーさながらにしてエリンは読書を続ける。

「その本、さっき宅配で届いたやつかな?」
「静かに」

ぴしゃり言われると「はいはい」と笑って、アレックスは時折エリンの髪を指先に巻いては解いてを繰り返した。
新婚旅行から戻ったエリンは、西洋東洋のスパイスハーブと料理に関することを色々齧って勉強している。
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そして中国じゃ『良薬は口に苦けれども病に利あり』・・・
つまり病に効く薬は、美味しくないっていう格言があるらしいことを知る。

エリンが目指すのは、ズバリ"西洋と東洋融合"。
薬食同源は知らなかったけれど世界中を旅行してきたエリンは
普通の奥さんよりも、きっと色々な料理を作れるはずと密かに自信があった。

「アレックスは漢方とかは平気よね?」
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「そういう好き嫌いはないから大丈夫だと思うよ。
 旅先でもあれだけ食べてたし、こっちじゃああまり食べることがないから少しだけ恋しいかな」
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「! そうね!」

そして、家族のアレックスだけじゃなく・・・・親友のイアンや、マーガレット、マークにダイアナだって、
自分の料理で健康に幸せに、おじいちゃんやおばあちゃんになっても一緒にいてくれたらと思う。
そうだ、そういう料理を作ろう!そうしよう!

「きーまった」

もちろん甘え方も心得始めてるエリンは代金代わりとでもいうようにチュッと軽くキスだけして、
ソファからひらりと降りてしまう。

「何をするの?」
「内緒!アレックス、私忙しいから。くっつくのは、後でね❤」
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「はいはい。お邪魔しました」

つい数分前に呼んでおいて追い払う・・・とても彼女らしい。
こういう気まぐれなところは変わらないんだろうとアレックスは口先でだけ思ってもないのに謝って、
急にわくわくと忙しそうにしはじめたエリンを見送った。



そして。
20141231 (38)
エリンは、庭で育て始めていた自慢のハーブへと手を伸ばした。










「薬食同源!というわけで私の第1号のオリジナル料理よ。ハーブと、旬の野菜を使ったの」
20141231 (41)
もう当初のように生焼けだとか食べる以前の問題は、エリンの料理にはない。
しかし一口目から、アレックスは『ヤギにでもなったみたいだなあ』と思いながらハーブだらけのそれを咀嚼した。
素材そのものの味というより、もうまさにハーブだ。

「あのね、これであなたが私のお料理で元気になってくれたりしたら嬉しいなって思うの。
 それにイアンもマークも仕事が忙しいみたいだし、私たちの家での料理で元気になってくれたらうれしいでしょう?」
「・・・・・・━━━━ 」

アレックスは愛しさのあまり心が震えた。
もう、どうしたものか!こんなにも可愛らしく、優しく、愛溢れる女性が他にいるだろうか!?(いや、いない)
世界中の人間に、エリンはまさに女神であるとアレックスは熱弁したくなる。

「とっても美味しいよ。ありがとう、エリン」
「! そう、良かった!これからも頑張るわね」
20141231 (42)
・・・・ん?
感動のあまりアレックスは初手を誤った気が、した。

動揺しやすい彼は少しだけ軌道修正させたいと良い言い回しを考えるが、
残念ながらイアンと違ってアドリブで切り抜けられるような器用さはない。
片づけを終えて、「ごちそうさま」とアレックスに言われると彼の女神はさらに嬉しそうに微笑む。

「味はどうだった?ちょっと薄味だけど私はこのくらいでもいいのだけど」
「うん、大丈夫だよ」
20141231 (43)
味、ついてたのか。
味の濃さという面ではエリンは昔寺院育ちだったせいか味が薄くても平気みたいだというのは昔から感じていた。
それは彼女のせいではないし、ならば合わせるべきだと考えているので、そういった主張しない。

「良かった、じゃあ合格ね!」
「あ」

もう、遅い。
猫のようにくるりと喜びのまま一回りまでして見せて、エリンはとっても嬉しそうだ。

「・・・・・」
20141231 (40)
良き夫でありながらも、今となってはどこか父のようなものだ。
エリンへの甘やかしという自覚もあるが、しょうがない。
アレックスにとって家族がいなかったエリンは、もっともっと甘やかされてしかるべき存在なのだから。










そして。




「━━━━と、いうわけで君にもエリンの料理を無下にしないでほしい」
「お前が勝手に甘やかすのはいいが、この俺を巻き込むな」
20141231 (45)
「エリンは俺だけじゃなく君の健康も考えてのことなんだ。君だって海に来た日は、こうしてアポもなく食事にも来ることだし、だ」
「わーったよ。で?そのご自慢のヘルシーだとかいうホットドックってのはどこだよ?肉なしは認めねえからな」

言葉を遮ってイアンが渋々の”ふり”で結局承知すると、
安心したアレックスは柔らかく微笑む。

「ちなみにこれはサラダじゃないよ。ハーブに埋まってるけど、ちゃんと肉のソーセージが入ってるホットドックがあるんだ」
20141231 (47)
こんもり、という表現がぴったりのサラダの中だと?
食べれそうだが、肝心のホットドックのパンはじっとり湿り気でも帯びているだろう。
こういうお節介が好きなくせに、どうしてこうエリンはガサツなのかとイアンは呻く。

「うっそだろ、オイ。この俺がウサギにでも見えるってのか、お前は」
「え?はは・・・見える見える」
「ぬかせ。せめてサラダと別々にするように甘やかす前に、あのバカに言っとけ」
20141231 (44)
「夫が妻を甘やかして何か悪いかな?こういうコンセプトなんだ。
 ・・・・・・ま、夏はどんどん葉も伸びていくみたいでね。2人だと多すぎるから助かるよ」

爽やかに笑いながらも、
アレックスはぽろっと本音を零した。

エリンのかまどの火はまだまだ落ちることはない━━━━忍耐強き彼女の夫と、心優しき親友がギブアップしない限り。
   
                                                (Fin)







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>miruさんへ
miruさん、こんにちは✿連休明けましたが、そちらもそろそろ平常運転でしょうか?(*´∀`*)

TOP画にも感想寄せてくれてありがとうございます♪
和風中華とアジアンテイストも好きなので、いつかやってみたかったの///
チャイナ服も既存EAのもいいけれど、こちらがまた『エリンらしい』と思って速攻DLさせていただきまして・・・
この服を買ったときもアレックスは色々天秤にかけてハラハラしながらも結局デレデレしたんだろうと想像しました(笑!)
エリンの柔らかさは折り紙つきですよ!(`・ω・´)三☐シャッ

この料理のネタは結構初期から温めてたけど蔵入りしていたので書けてよかったです。
文章自体は2時間くらいできたくらいノンストップでした///
そして、そう!エリンは料理が下手っていうよりも、そうだ!『センスがない』非常にぴったりだと思う!!それだ!
一応ちゃんと作ろうと思え(思えば!*大事なので強調)ちゃんと作れるのに、思考回路とかセンスだとか頑固さとかが
微妙にセンスない方向に走っちゃうんだ!ww
でもアレックスが「それでいいよ❤」なせいで緑色のライスケーキとか出ちゃうんだよ・・・(´・ω・)、 ←www

満漢全席で合ってます✿そしてお察しの通り合成で合ってます✦
さすがに満漢全席CCを見つけられず・・・正直実はよーく見るとアラがあるのだけれど、
更新が伸びすぎていたから合成に時間かけすぎるのはやめたのだけれど、ちゃんとそう見てもらえて良かった///;
miruさんの描き入れも気付けなかったからなあ(*´∀`*)花魁姐御の足がね。忘れられません。足(すごくいい)

エリンはやっぱり初代ヒロインなので愛着があるから、
いかに現在彼女が家族のような友人に愛されつつ、そして皆に育ててもらってるかとか、
そういうものをいっぱいいっぱい出したくなってしまうのです///
アレエリのイチャイチャラブラブも、アレックスがエリンに対して当初のほんの少しの間だけだったけれど
一応「兄」の体裁で少しだけ偉そうな口調をしていた頃がちょっと懐かしかったり(笑
でも彼らは永久にいっちゃいちゃ幸せです!それ以外の道はありえません!

そしてコンフィ(爆笑)話したことあったから気付くかしらと思っていたのだけれど流石です。
いえちゃんと美味しいのよ!(必死に弁明)でもそれが2ヶ月毎週末とか カ・ン・ベ・ン ❤
豆知識は書いてて「あれ?」と思ってネットでささっと検索するのが本当大好きなだけですからっ(;>д<)でもネサフって楽しいよねっ

今年もマイペースでこんな話をまったり更新してゆきます(੭ु˙꒳​˙)੭ु⁾⁾
丁寧なコメントあちがとうございました。

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