1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
12

 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第49話 ダイアナのウェディングノートⅠ Diana and Ian

←第48話



毎週決まった曜日のこの時間は、レインと婚約者サニーがそろって講義がない。
素直な感情表現が非常に苦手な彼の口に勝って雄弁なもの。
s2-49.jpg
玄人はだしの腕前で彼の奥底にある優しい音がまったりと出る。
演奏の途中、現れたアンドリューに横目で気づきながらも曲を終えたレインは尋ねた。

「・・・お前、まだ髪のこと怒ってるのか?」
「怒ってないです」
「~~~~~~~。兵役が終わったら戻すよ!」
「もう僕には関係ないです」

アンドリューはぶすっとした声で長めの前髪を揺らす。
国の兵役義務のため10ヶ月だけサンセットバレーを離れることになったレイン。
規則で入隊前に髪を短くしたが、それががっつりアンドリューと同じだったためアンドリューは髪型を変えた。
s2-49 (4)
「・・・・アンドリューお前、俺のこと嫌いなんだろ。なんでよく来るんだよ?」
「別にレインさんに用があるわけじゃないですよ。そんなことも分からないんですか」
「!」
s2-49 (54)
初めて理解してレインは、さっと顔色を変えた。こんな風に正面からサニーをめぐる修羅場なぞくぐったことなんかない。
そのうえ来週レインだけ帰国するのだからたまったものではない。

「そ・・・。 ・・・・それで、お前あいつにどうする気だよ!?」
「レインさんは何をされたら嫌ですか?」
s2-49 (53)
ばちと両者の目がぶつかったところで、アンドリューはわざと言葉を止める。
そしてタイミングを計って切り出した。

「まあ・・・レインさんはサニーさんのこと、どうでもいいと思ってそうですけど。いつも怒ってますもんね」
「どっ・・・どうとでもなんて思ってるわけないだろ!」
「へえ、そうですか?僕にはあなたに愛情があるようには見えませんけど」

アンドリューに煽られて、カーッと血がのぼる。

「好きじゃなかったら婚約なんか誰がするかよ!お前・・・・サニーを困らせるようなことしたら絶対許さないからな!」
「国に帰っちゃうのに何が出来るんですか」
「そんなのどうでもいい!サニーのためなら何があろうが帰って来るに決まってんだろ!何かしたらすぐ戻るからな!」
s2-49 (7)
なんてバカらしいほど単純なんだろう。
でも、そのくらい言ってもらわないと僕だって困る。

「・・・・じゃ、僕はもう用も済んだので行きまーす。レインさん、訓練気をつけてくださいね」
「! な、おい!お前どういうつもりだよ!話はまだ終わってない」

アンドリューは片眉をあげて口笛を吹きながら、彼の背後を指差した。
そこに立ってるのは、もちろん・・・・・
s2-49 (9)
真っ赤という表現じゃ生ぬるいほど赤面したサニーが立ち竦んでる。
大声で大告白したのを聞かれたレインも同じようにレインもボッと染め上がった。

「サッ・・・・・ サニ、サ・・・な、な、な・・・・」
s2-49 (11)
ざまあみろと思いながらアンドリューはひそっと彼に耳打ちする。

「ひっかかりましたね、レインさん。僕からの餞別です。次からはひとの助けなしで言えるようになるといいいですね?」
「おま、おおま。おま・・・・おまおまおま」
「あとですね。ここまでお膳立てされておいて長いお別れ前にキスの1つもできないなら本当に僕がもらっちゃいますからね」
s2-49 (13)
あまりのことにレインは口をぱくぱく、言い返せもしない。
アンドリューが囁いた内容までは聞こえてないが、
先ほどのレインの告白はアンドリューの目論見通りサニーの耳にちゃんと届いてる。

「お邪魔なんで僕は行きます。さようなら、サニーさん」
「は、はい。あの、あのあの、あの・・・ごきげん、あの・・・」
s2-49 (10)
真っ赤になりながらも挨拶をしようとしパニックでできないらしいサニーに笑いかけ、アンドリューはその場を去った。
レインが彼女に近寄ったようだが、そのあとに彼らがどうしたのかまで見届ける気はない。

・・・・アンドリューはサニーに恋に落ちた瞬間を思い出す。

『あの、あの・・・資料で拝見して、本当に素晴らしい内容で・・・・こうしてお会いできるのを、
 とっても楽しみにしておりましたわ』

初対面でも礼儀正しく、シムボットのアンドリューに向かって"会う"という物言いをしてくれたひとは初めてで、
彼はそれだけで恋に落ちた。







「ありゃまー・・・・だからカレシもちは止めろって言ったじゃーん」
「止められたら、もっと早くやめてました・・・」
s2-49 (15)
彼女は涙目の可愛いアンドリューを、やれやれと見つめる。
涙を流してメソメソする男は気持ち悪いのに、
我慢しきれずにこんな場所で座ってしまうような少年の色が残っているアンドリューは超カワイイ。

「ここじゃあなんだから、アタシの部屋おいで。飲もう飲もう」
「僕、のめないです・・・」
「酔ったフリぐらいすればいいでしょ、ほら行こ」
s2-49 (16)





で、気づいたら。

「あの、マリアさん!?」
「慰めて欲しいんでしょ、アンドリュー。男の子には、これがいちばーん」
s2-49 (17)
彼女が何をしようとしてるのかが分かってアンドリューはぶっとんだ。
目を白黒させながら、

「あの!まだ僕失恋して1日すら経ってないし、僕まだ」
「ちょっとぉ!こういう場面になってまで他の女のこと、フツウ言うぅー!?」

アンドリューにマウントをとったまま、
彼女は躊躇なく服を豪快に脱いでは床に投げ捨てる。
”親”以外の女性のナマの半裸を見たことなんてないアンドリューはあわわと真っ赤になる。
しかもこんな至近距離で。
そして体重と柔らかさを押し付けながらにっこり。

「ダメぇ?」
s2-49 (21)
「いやいや、あの・・・僕その、こういうのは、そもそもですね、あの」
「やん、初めて?マジカワイイ~❤ いいよ、いいよ、全然あたし気にしないもーん」
そうじゃなくってですね!

力で負けるわけないと、痛がらせないようにしながら上半身を起こして頬を染めたアンドリューは
彼女・・・マリアに言う。

「イヤじゃないんですか。僕のこと・・・僕がなんなのか知ってるじゃないですか」
s2-49 (20)
「えー?そりゃ知ってるけど、フツーの男の子にしか見えないんだもん。だから、あたしもフツーにこうしてるだけ」

マリアの言葉にぎくりとした。
してることは清純なサニーと真逆なのに、くれてる言葉はほぼ同じ。
別にシムボットとしてモノとして扱われても彼は傷つかないが、こうやって優しく包まれると簡単に揺らいだ。
恋で傷ついた心の隙間に、彼女の温かさは簡単に潜り込んでくる。

s2-49 (19)
彼女は起き上がって、戸惑いながらも目が離せないアンドリューをくすりと笑う。

「失恋して泣きそうになっちゃって、女の子に押し倒されてドキドキしてってさ。どこが違うの?」
「・・・あの・・・僕のこと好き、なんですか?」

「好きだよ、嫌いなヤツとは流石にしない。でも恋とは違うかな?っていうか、この歳でそこまでマジになる必要ある?」
「とっ、・・・とんでもないですね・・・!」
「ま!そこらへんは、まずはしてみてから考えよ」


再三「女にはくれぐれも気をつけろ」などとイアンに言われていたのに、
教訓というものは実体験からでないと効果がないらしい。



s2-49 (22)
こうして、アンドリューとこのマリアとの関係はこれからズルズルズルと・・・・続くこととなる。









ダイアナとイアンの生活は、アレックスと養子縁組したという発表を機に嘘のように静まり返った。
そしてやっとダイアナは赤ちゃんが生まれたばかりの親友リズの家を訪れることが出来るようになる。

ダイアナもサニーもふっくらしてきた赤ちゃんにメロメロ。
リズと庸一の赤ちゃんは無事に産まれ、名前は桜の子と書いて『さくらこ』となった。
s2-49 (27)
「しゃくらこちゃ~~~ん❤きゃわいいね~、きゃわきゃわぷにしゃんだね~~、ダイアナねーたんだよ~~~」
「何だソレ」
「桜子ちゃん、もうもう・・・本当なんて可愛らしいんでしょう。ほっぺたがふわふわ」

大学中退の庸一とリズながらベビー用品は飾り付け用まで完璧に揃ってる。
知り合いで初めての赤ちゃんだということで、
親友ダイアナとサニーを始め、みんなが大フィーバーして”お祝い”と称して全部揃ってしまった。
イアンと結婚して、アレックスとの記者会見に、リズは出産育児、サニーは試験と、3人が直接会うのは4ヶ月ぶり。
s2-49 (26)
そしてリズが用意しておいたのは1冊のスクラップブック。
表紙から切り抜いた花やレースの柄が飛んでる、なんとも少女趣味全開のもの。

「これ。あたしが預かってた”ダイアナのウェディングノート”」と、リズ。
「可愛らしくて素敵ですわ。ダイアナちゃん、もう作ってらっしゃったのですか?」と、サニーはおっとり尋ねる。

「あっは!違うよ、なつかしいな~~~!これはねー。エリンの結婚式のとき自分の作りたくなっちゃって、
 すっごい好き勝手なこと色々書いた子供のときのやつ!」

当時エリンが使い終わったウェディング雑誌を少女のダイアナは大喜びでもらって、
乙女の暴走のまま「自分の結婚式はこうしたい」とまとめて遊んだ。
s2-49 (23)
古くなっているスクラップブックをめくるとパリパリと音を立て、アレックス達の結婚式からの時間を感じる。
式はしてないとはいえダイアナもリズも世間より早く、結婚してる歳になったのだ。

眠っている桜子を気遣って3人娘は静かにくすくす笑って盛り上がる。

「おもしろーい。今見るとやっぱ好み変わってる。こんなヒラッヒラのとか、あんまり着たくないもん」
「でもシュークリームのようにまんまるで可愛らしいドレスですわ」
「サニーちゃん、こういうのすき?」

「これこれ、何を訊いちゃってんのさ。サニーちゃんは、レインちゃまに贈ってもらうドレスで決まってっから!」
「まあ、リズちゃんたら・・・リズちゃんには、ふわふわしたのがお似合いですわ。庸一さんの仰っていた通り」
s2-49 (30)
ダイアナの誕生日プロムの庸一スピーチは、リズにとっての黒歴史。
サニーが意外なツッコミをみせたのでリズは恥ずかしさで口を歪める。

「ヤダ。ドレス着て人前でとかアタシ好きじゃないし。まずはチビの世話しなきゃだしさ」と、目にクマがくっきりのリズ。

庸一とリズも桜子が産まれる前に結婚の書類手続きは済ませてる。
彼らの身内たちは新しい命を好意的に迎えているが若すぎる彼らにはまだまだ心配顔ばかりだ。

そこでタイミングを図っていたリズが口火を切った。

「ダイアナ。アンタさ、会ったんでしょ。お父さんに」
「いかがでした?ダイアナちゃん」
「・・・・アレックスとブリッジポートに行ったときにね。アレックスが当主だけど、やっぱり挨拶はしないとだったから」
s2-49 (32)
それまで直接会ったことなかった実の父親との対面をダイアナは振り返った。







s2-49 (160)
ブリッジポートのサウス家の本邸。
居るはずなのにプロの使用人たちは気配すら感じさせず、
広い邸内は寒々しすぎてダイアナは落ち着かない。

「今日は、あの、アレックスのお母さん・・・・奥様は?」
「おや・・・アレクサンダーがこの日を指定したのは、あれが居ない日だったからだと思ったんだがね。
 主宰している団体の式典があってね、理事の彼女は今日はそちらにつききりなんだよ。
 君は先週かのグレンツ氏と結婚されたそうだね。おめでとう。あとで何かお祝いを贈ろう」
s2-49 (161)
「ありがとうございます」

このひとが父親?
ダイアナには全然ぴんとこない。
顔だちはよくよく見ると似てるみたいだけど、
アレックスの柔らかいしっとりとした声とは随分違う、重い掠れた声のひと。

あとエリンが嫌いな、タバコの匂い。でもタバコなのに甘い匂い。
s2-49 (162)
ダイアナの誘拐を主導した実母を張本人のダイアナに会わせる気などないアレックスは、
見慣れた庭を見ながら溜息をついて口を開いた。

「今日は報告と挨拶だけだしね。電話で伝えたとおり手続きも全部、俺たちの方でしておく」
「どうとでもするといい、アレクサンダー。あれも今更騒がないよ」

そしてサウス議員が意外にも低く楽しそうに笑うのにはダイアナが驚いた。
代替わりした途端に爵位返上してしまったアレックスと、この先代当主の父親の間にはてっきり確執があるのかと思っていた。
公爵家とかに思い入れはなかったのかな?
s2-49 (171)
が、それよりもダイアナには訊きたいことがある。

「サウスさんは、あたしの誘拐のこと知ってたんですか?」
「うん?どうしてそう思うのかな、ダイアナさん」
「引っ掛けです。やっぱり、誘拐って聞いても驚かないんですね」

初歩的なカマをかけられたと気づいて、サウス議員は微笑んでタバコに火をつけた。

「おや、家の中だと思ってつい油断したよ。やるね、ダイアナさん。
 ・・・そうだね、薄々あれが何かしてるのを感づいてはいたよ。けれど、あんな強硬手段はまずかったね」
s2-49 (165)
他人事のように。
しかもアレックスみたいな柔らかいのんびりした口調なのに、ちっとも優しさがない物言いはダイアナの癇に障った。
勿論それはアレックスも同じで暗い顔つきになる。

「・・・ただ、当時あれが君らの生活を調べさせたら、マーガレットは夜の仕事で君はいつも家にひとりで残されてたらしいね。
 苦労もあったんだろうが、さすがに子供が育つには少々相応しい環境とは言えな」
は!? 種撒くくらいしかしてないくせに、お母さんのこと何か言えると思ってんの!!?

誰だろうと母の侮辱は絶対に許さない。
南の島で開眼したとおり、
ダイアナは怒りも隠さずに爆発させてサウス議員の言葉に無用で被せて立ち上がった。

ビックリ顔のサウス議員、異母兄アレックスすら目を丸めた。
息をすうと吸って怒りを静かに迸らせつつダイアナはゆっくりと続けた。
s2-49 (169)
「今の話だけで、もう十分です。
 アレックスとウィリアムは大事なお兄ちゃんだけど、正直あなたのこと『お父さん』って思えません。
 ━━・・・・・・お母さんにもあたしが誘拐されかけたなんてこと教えてないし、知ってほしくないんです。
 もう、お母さんには関わらないで、そっとしておいてください。
 ちなみに夫からの伝言なんですけど、『二度と誘拐なんざすんじゃねえ、このクソ野郎』だそうです。これで失礼します」

息継ぎなしでそこまで言い切って、毅然と去る。
そんな妹ダイアナの変化目の当たりにしたアレックスは、爽快感に小さく笑ってしまう。
s2-49 (166)
アレックスはそのまま業務連絡とでもいうような父子の会話を続けた。

「ダイアナと俺の養子縁組の記者会見は俺たちだけでします。父さん用のコメントもこちらで用意するので使ってください。
 父さん達もお元気で。また必要なときには来ます」
「キャサリンにもよろしく伝えてくれ」

かつて半年の仮宿状態だったとはいえ、他人の名前『キャサリン』を騙ってサウス家に養女として入り込んでいたエリン。
死の偽装もした当時には報道でも本当のキャサリンの写真が出回り、エリンの存在は依然として歴史の裏側に隠されたままだ。
この父もエリンの正体も本当はどこまで知っているのか・・・・そもそも、いつ彼女が生きていたことも知ったのか。
一度も問いもせず、父は息子アレックスの好きにさせてる。

「・・・いまの彼女の名前はエリンですよ、父さん」
「まあ、どちらでもいいさ。結局同じ人間のことだろう?達者でやれ」
s2-49 (167)
こうして話は切り上げられた。
いつもそうだ。柔らかく突き放す。

そうして父は暖炉の火の中に視線を置いて一人の世界に入った。
・・・・それがマーガレットの話題が出たせいなのかは知らないが、誰かが目の前にいるときにそうなるのは珍しい。

アレックスは母よりも父のほうが苦手だ。
父として当主として議員として義務は果たせど、個人としては何にも執着せず厭世的で
育ちのよさゆえに人当たりが良さそうに見えるが空虚な人間。
もしもエリンに出会わず世界の美しさを思い出せなかった未来があったとしたら━━━━ 
s2-49 (164)
そんな父は、アレックスにとって暗い将来の自分自身にも見えた。

それを振り切るように廊下でぷんすかとしている妹ダイアナと笑顔で合流した。

「ダイアナ。本当にイアンは・・・『クソ野郎』なんて君に伝言を頼んだの?」
「あたしが付け足したの!イアンならもっとすごいこと言うよ!」

「はは、それもそうだね。でも女性があまり使ってはだめだよ?・・・あと・・・・『種』とか。そういうことも」
「使わないよっ!・・・・んもー、信じらんない!何であんな他人事みたいに言えるんだろ!さいってー!」
s2-49 (172)
「同感だね。ウィリアムも絶対そう言うよ。最低だ」

アレックスは自分で言って想像できてしまって、あっはっは、と久しぶりにこの邸宅で笑った。
2人はそのまま必要省庁だのの調整と挨拶回りを済ませてサンセットバレーの家に帰った。







「━━━━ってわけで『例のあの人』は結婚式にも来ないし、来させる気もありませんっ!」

どこの悪役だというような代名詞でだけダイアナは実父を指し、高らかに宣言。

「あー、そりゃアレだな。ヤなヤツだ。・・・アレクサンダーと違うレベルでズレすぎ」
「・・・・アレックスさんとは似てらっしゃらないのですわね・・・」

ダイアナは兄アレックスの父への胸中も知らず「ぜんぜんっ」と強調した。
s2-49 (34)
そしてウェディングノートを見下ろせば、当時ハマってた丸文字で『花嫁介添え人はリズ!』とある。

「あのね。リズとサニーちゃん、あたしのブライドメイドしてもらえる?
 って言ってもイアンも今忙しくないし、事前準備はお母さんとするつもりだから2人を忙しくはさせないから!」
「いーよー」
「光栄ですわ」

親友リズとサニーの声が重なった。

「でもどこでやるのさ。城?それともサンリット??サニーちゃんはともかく、庶民のアタシがご立派にできるもんかね」とリズ。
s2-49 (28)
「んも~。何言ってんの、そんなあたしだって別に公爵うんぬんなんて未だに分っかんないもん。フツーだよ、フツー!」

ダイアナは、ちらりと視界の隅で眠る小さい命をみる。
前に創ったテレポートマシンはそこまでの長距離では作動しないし、
育児に仕事に勉強にいそがしい友人たちを大それたところに連れ出すこともない。

「こっちでやる!前の誕生日みたいに皆を泊りとかにもしないから。もうイアンとも結婚しちゃってるんだしさ。
 時期も・・・そうだなあ、桜子ちゃんがもうちょっとお姉ちゃんになる頃になるよ。
 ウェディングドレスってね、すごーく時間掛かるんだ!」

エリンの結婚式でさも知ってるかのように、ダイアナはでまかせを言う。
s2-49 (29)
ヘロヘロという表現がふさわしい様子のリズだけが深く考えずに力強く頷き、

「それなら良かったわ。チビがさー、まだ寝る・ゴハン・ウンコのスパンが短いんだよ。
 相談ならメールとかでしてくれればいいから。即返信とかムリだけど」
「そんなの求めないよ、でもありがとー。本当、忙しくさせないから!言っておくけど当日はリズもドレスだからね~」

にひひとダイアナが茶化し、リズは「うっげえ」と遠慮なく吐くフリ。
そして少しでも新生児を抱えてるリズを休ませたい2名は1時間きっかりで帰り支度を始め、
サニーがにこにこしながら「ダイアナちゃん」と促す。

「うん!あのねえ~~~。実はリズにプレゼント連れてきたんだ!やっとできたから・・・名前は、リズが付けてあげてね」
s2-49 (37)
『はじめまして、オーナー・リズ』
「おおおお!?」

「アンドリューみたいに人間同然の家族がいきなり増えたらリズ達もびっくりしちゃうかなって。
 外見は変えられるから、いつでも言ってね。もちろんこのままでもツルツルしてて超可愛いけど」

個人専用のシムボットとは贅沢な!庶民の一般家庭じゃまだまだ高級家電の位置づけだ。
リズは緊張しながらシムボットに珍妙な言葉で尋ねる。

「おお・・・君もアンドリューみたいに考えたりお喋りもするのかね?」
『はい、オーナー・リズ。”兄”のアンドリューと同じように。家事などのお手伝いをもちろんします。
 それだけでなくダイアナさんには子育てに関するプログラムも入れてもらいました』
s2-49 (39)
「マジでか━━━━っ!!」
「あはは、マジマジ❤ ちなみに協力はあたしのお母さんと、庸一のお母さん。
 あと最近のママのお友達のアデルさんってひと。皆あたしたちの先輩ママたちね。
 教育方針とかは勿論リズと庸一次第だけど、基本的なことはちゃんと出来るし知ってるよ」

『オーナー・リズはわたしのお名前をつけていただいたら、ゆっくりお風呂をどうぞ。
 桜子さんはわたしが看ております。夕飯は6時でいいですか?』

ゆっくりお風呂なんて、いつぶりだろうか!!しかも夕飯の準備だと!?
ふおおおおという大感激のままマンガチックな泣き真似をしつつ、リズは高らかにシムボットの名前を告げる。

「お前の名前は出来杉くんだっ・・・・!」
s2-49 (41)
「リズ、その名前はアウト」

すかさずダイアナは審判のごとく止めた。
結局シムボットの名前は後で仕事で不在の庸一と決めることとなった。

「マジでマジでありがとう。でもこんなデザインあったっけ?身体が浮いてるじゃん!」
「リズちゃん、こちらは最新型でまだ市場にも出てないものですわ」
s2-49 (42)
「来年あたしの会社から発売するタイプのコなんだー。大学辞めてね、アンドリューの兄弟いっぱい作るの」と、ダイアナ。
「会社・・・・!?なんでそんな話になったん?」

短時間滞在だったので、ダイアナの仕事に関する近況は全然してなかった。
てっきり教授を続けるかと思ったのに。

「あたしはおぼろげにアンドリューの兄弟つくって色んな人と住まわせてあげたいなあと思ってたんだけど、
 イアンも同じこと考えてたんだって会社辞めたあとでイアンも教えてくれてね。
 あたしさえよければ会社立ち上げしたいっていうから、面倒なことは全部お願いしちゃった!」
s2-49 (43)
あたし、お飾り社長なの!と商売に疎い科学者ダイアナはあっけらかん。

経済界で騒ぎになったイアンの引退劇の真相を知って経済学部だったリズはあんぐり口を開けた。
自律思考シムボットが全世界に普及するのに時間はかからなそうだ。









s2-49 (44)
「あー、気持ちよかったー」

遠乗りをしたダイアナとエリンは満足顔でカントリークラブの馬術場に戻る。
公共の馬術場で時間制でしか乗れなかったのも昔、
いまやイアンの妻となった彼女にもエリンと同じようにプロに預けてる馬がいる。

「久しぶりにおしゃべりしようっていってたのに、結局走ってばっかりだったね」
「というよりも正直切り出し方が分からなくて。あなたに謝ればいいのか分からないのよ」
s2-49 (46)
エリンは美しい猫のように微笑み、そう言って黙る。
沈黙のなかコーヒーが運ばれてきて日が傾き始め、エリンが再び口を開いた。

「でも・・・そうね。やっぱり謝るべきだわ。何も考えてなくて、ごめんなさい。あきれたわよね。
 あなたにもイアンにも迷惑をかけて━━━━ 貴方達だけじゃなく、知らないところできっと傷ついた人もいたわ」
「あきれてはいないけど、・・・・でも、そうだね。あたしも何言ったらいいのか分からないよ」

エリンの秘密を守るためじゃない、アレックスの悲しみを癒すためでもない、
イアンや母マーガレットの苦しみを和らげるためでもない。
その全部が理由じゃないけれど全部が理由なのかもしれない。

「エリン。何が正しいとかはどうでもよくって、あたしがやりたいからやっただけだよ。
 それにあたしだけ何も知らないままじゃなくて良かったなって思ってる。あたしたち家族でしょ?助け合わなきゃ」
s2-49 (47)
するとエリンは珍しく困ったように微笑みながら息を吐き、ダイアナに「でしょ?」と念を押されて、やっと頷いた。

「前からエリンから直接訊きたかったことがあるんだけど、それを教えてくれるかな」
「なにかしら?もうあなたには何も隠さないから何でも訊いてね」

「エリンからちゃんと訊きたいんだけど、イアンとは本当にしてないの?
 ・・・いま考えれば昔のエリン、はぐらかし気味だったけどイアンのこと満更じゃなかったよね。
 だからアレックスも慌てて島からサンセットバレーに来ることにしたって聞いたよ」
「あら、そのこと?・・・・。 やだ、よくよく思えば、私たち複雑な家族かもしれないわね?」

エリンが茶化し、ダイアナと同時に笑う。

「もしもアレックスがいなかったら、・・・なんて。ありえないけど、どうなってたかしらね?
 男の人で深く付き合えたひと、アレックス以外にイアンしかいなかったのは事実だけど。
 ・・・そもそも私とイアンがどうやって会ったか、どこまで知っているのかしら」
s2-49 (48)
「イアンからのナンパでしょ。で風邪引いてて具合が悪くなっちゃったイアンを助けたあげたって。それは本当?」
「それは本当よ。あと、私がアレックスにも言ってあるのも、そこまで」

すると途端に「どういう意味?」とダイアナは緊張する。
そしてエリンは、とうとうこの話を初めて他人に漏らす。これで本当にダイアナへの秘密はもうなくなる。

「正確に言えば『その気』でウチに来てキスまではしたの・・・・言っておくけど妬いちゃイヤよ。
 で、そのときにイアンは気づいたのよ。熱出してたんだか飲みすぎてたんだかはともかく・・・『出来ない』ってね。
 そしたら泣いちゃって」
「・・・・・・。うそでしょ?」

「うふふふふふ❤ でね!そのまま放っといて、シャワーに行ったら勝手に私のベッドで寝ちゃってたってわけ。
 アレックスにも他の誰にもナイショよ。イアン本人とですら1回もこの話してないんだから」
「うっそでしょ!?」
s2-49 (49)
ここにきてエリンが嘘をついてるとは思わないが衝撃的過ぎてそれしか言えない。
ダイアナからすれば夫イアンの都合で”登板”されない夜はない。
それどころかダイアナが”リタイア”することがチラホラあるくらいだっていうのに!

「エリン、それ誰の話!?うっそでしょ!?イアンのこと話してるんだよ!?」
「だから本当。その様子だとあなたにはないみたいね❤」と、エリンは目を細める。
「うーっそでしょ・・・」

いつだかのクリスマスにイアンが泣き上戸というのは偶然知ったが、この真相にダイアナはそれしか言えない。
あのイアンの狼狽の意味も分かると胸中に湧くのは憐憫のような・・・安心のような。
s2-49 (52)
「そもそもねえ。この私と出来なかった男の人なんて、後にも先にも初めてよ。ほんっと失礼しちゃう」
「あっはは!」
「笑うところじゃないのよ!」

エリンは言いながらダイアナと揃って大いに笑う。
昔はバイクと自転車で、背の差も20cm以上あったのに肩を並べて帰った。


時間が進むのは本当に早く。
ダイアナも、エリンと初めて出会ったときの彼女の歳になる。


→第50話(最終話)



関連記事

WEB拍手
いただく拍手が励みになってますのでボタンを「ぽち」とお願いします✿コメント機能はありません
過去の拍手コメへの返信はこちら
Count start 2014.1.1-

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。