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第17話 マーガレットⅢ AnimaⅥ

←第16話



若かりし日のヒルダ・サウスは美しい人だった。
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子供の頃からサウス公爵家への嫁入りが決まっていて、そのための教育に疑問を持ったこともない。
むしろ学内でも選りすぐりの美貌と気位であったので当然の責務だと自負してたほどだった。

しかし年頃になれば恋愛小説だので『自然に芽生える恋』へ憧れを抱くようになって、
彼女はセオリー通りに一番身近な距離の近い年頃の男に惹かれた。
それがヒルダの実家の庭師としてバイトに来ていた植物学専攻の男子学生である。

━━ちなみに許婚で後の夫であるジョン・サウスと会うことは当然あったが、あの通りの分かりにくすぎる男だったので
平均的な愛想がある庭師の男の方がずっと分かりやすい魅力があった。

そしてヒルダが庭師との間に芽生えていたプラトニックな愛情の絆を振り切り、義務を果たすべくジョン・サウスと婚姻した夜。
庭師との一件もよくよく知っていたジョンは新妻に言い放つ。
s3-17[7]
「君に他にも男がいるのは知っているし、私は無理強いする気はない。私の”心配”も結構。 ・・・・いずれは必要になるがね」

彼なりに彼女への同情があってのこの発言、ヒルダは衝撃と恐怖と複雑な恥辱でいっぱいになった。
後のジョンは宣言の通りに新婚でも外で女遊びしている気配をうっすらと漂わせ、行き場のない新妻は庭師の男の下へ。

で、庭師と男女の仲に結局なったあとで「やはり不倫だから」などと悲劇的に破局し・・・
それからゆっくりと一旦はなかなかの甘い雰囲気の中でジョンとの距離を縮めアレックス達が産まれた。

しかし父親となったジョンは自身が大きな流れに逆らうつもりはないものの、
この公爵家の特異性から息子達は少しでも引き離してやりたい。
母親のヒルダは、双子を海外の寄宿学校になど手放したくないという、育児方針の決定的な違いでジョンとは険悪になり、
子供と引き離された彼女はまた孤独となり庭師のもとへ・・・・。

「支援会発足いただいてありがとうございます。これで研究室も閉じなくてすみました」
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「微力ながら、あなたの大切なものを守れてよかったです」
「・・・・僕は・・・。・・・・なにもできなくてすみません」 
「・・・そんなこと言わないでください」

要するに望まぬ結婚をした夫ジョンと同じく、ヒルダもまた流されるまま生きざるをえず初恋の夢を振り切れずにいるのだ。



そんなジョンとヒルダの不幸で泥沼な夫婦の事情を、子供のころから何となく察していたアレックスとウィリアム。
不幸中の幸いがあるとすれば、
ジョンが望んだとおりに不仲の両親から距離をおいて友人たちの中で楽しく育ってゆき、
ジョンが託した願いのとおり、それぞれ愛せる女性を見つけることもできた。


━━しかし、やはりセオリー通り。
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あまり好いてはいないはずながら、自分たちの母親にどこか似ている女性を選んだサウス家の双子たちである。








「・・・・すごい部屋だな~。わかっては、いたけど」

マーガレットの住んでいた街にジョン・サウス公爵がやってきてから10日後、ジョンの外遊に合わせた外国での再会。
指定された部屋の入り口には黒服の男がやはりおり、非常に気まずい思いをしながら入った。
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「ようこそ、ヨーク様。滞在中にお世話をさせていただきます。お茶でもなんでも、お言いつけを」
「あっ、はい!」

そういえば前もそうだったが、
ホテルなのに家来?執事?っぽいひとがいる!と、正式な滞在者になったマーガレットは大慌て。
とはいえ自分の存在は極秘じゃないのだろうと観光はするつもりないなど滞在予定を大雑把に伝えた。

そして親切な執事っぽい人物に勧められるまま、室内を見て回る。
一角にいかにも買いたて!といった某有名ブランドの箱が山盛りになっていて、
それらが「奥さんと、家族へのお土産なんだろうな」と考え至ったところで
マーガレットは自分のしていることの後ろめたさが募った。
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あと同時に。
確かにちょっと分かりにくいところがあるジョンだけれど、
自分が彼を待っている部屋に妻宛のものを分かりやすく置いておくなんて流石に無神経だよなという複雑ないらつきも。

その複雑な心境のまま、
部屋に篭れという指示もないのでマーガレットは観光未満に海外の街を散歩して、
豪奢な部屋でひとりで夕食を食べ終わったあたりで、もう金持ちの生活に飽きた。

「・・・暇だなー・・・」
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大学の課題を念のため持ってきておいて正解だった。
慰めは空気のように寄り添ってくれる、執事っぽい彼だけ。

「・・・あのう、そちらはお帰りはいつごろなんでしょうか?サウス卿をお待ちになりますか?」
「どうぞご指示ください。
 このままマーガレット様のお手伝いもいたしますし、おひとりで寛がれたいとのことでしたら失礼いたします」

・・・もしかして私が帰れって言べき?いや、でも私がこの部屋の借りてるわけじゃないし・・・、と
一般人のマーガレットは対応の仕方がよく分からないので無難に濁してマーガレットは引き下がった。
(残業にさせてたら、ごめんなさい!と心で謝りながら)ジョンがどうにかしてくれるだろう。

数人を引き連れた賑やかさを伴って重くドアが開いて、ぱっとマーガレットは顔を輝かせる。

「おかえりなさいっ」
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体面もなく熱烈歓迎とばかりにマーガレットが駆け寄ると、ジョンは眩しそうに少しだけ目を細める。
引き連れていた黒服の人間たちはホテルの居室の玄関ホールを境界線に入っては来ていない。
ジョンは慣れた動きで執事にジャケットを脱がせて引き渡し、さらにコーヒーを淹れさせたあとで彼にやっと帰宅の命を出した。

「待たせて悪かったね・・・来てくれてよかった」
「も、もちろん来ます!でも、こういうところって何もすることがないもんですね・・・
 さっきの執事の人もいつまでいてもらうべきか分からないし、もう普通に課題やっちゃってました」
「課題?こちらに呼んで悪かったかな」

勉学に支障をださないように、と気にしていたジョンは素直に顔を曇らせる。

「いえ、これは来月まで時間があるので大丈夫です。そういうのに限って私ギリギリまでやらないので」
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「・・・。着替えてはないんだね。・・・気に入らなかったかな」
「? はい?」
「あちらの部屋のだよ」
「はい。私の着替えは執事のひとがそっちのタンスにしまっちゃいましたけど何で知ってるんです?
 あ、そっか、そういう指示してくれてたんでしょうか?」

マーガレットが話してるのは寝室のことだろう。
話が噛み合ってない具合にジョンは例のプレゼントの山がある部屋へ、微妙な表情の彼女を連れてゆく。

「君に買っておいた、これのことなんだが」
「あっ? ・・・ああ~っ!奥さんへのお土産すごい買ったんだと思ってた!・・・あっ!うっわっ、すいませんっ」
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本音をぽろっと盛大に漏らし、自分への贈り物だったかとマーガレットは赤面した。
マーガレット宛のカードも置いておいたのだが他人宛のプレゼントだと思って覗き見すらしなかったのだろうと、
彼女の純朴さと、誤解を招いた自分のまずさに「妻宛のものはいつもスタッフに適当に任せてある」とジョンは呟くしかない。

「じゃ、これはあなたが選んでくれたんですか?こんなに?お忙しいのに?」
「・・・一つの店でばかり買ってしまってすまない」

庶民で学生のマーガレットには雲の上の高級ブランドの山、さらに妻へのものは他人任せという言葉は
簡単に彼女の心を浮上させた。
そしてすぐに彼女は叱られる子供のようにうなだれて、「・・・あの、実は私。やきもち妬いてしまってました。すみません」と、
ジョンにもとっくに分かりきっていたことだったが隠さず素直に謝る。
その可憐で痛々しいようすにジョンは彼女を強く引き寄せた。
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「やはり君が居なければギターは弾かなかったよ、マーガレット。君が必要だ」

目を大きく丸めたあと
、マーガレットはそれはそれは可憐に恥ずかしそうに下唇をかみながら微笑んだ。

そのあとはマーガレットはクリスマスを迎えた子供のようにプレゼントの開封を楽しんだ。
ワンピースにセーター、コート、帽子、スカーフにバッグ・・・
帰ってきたときのジョンは着替えすら期待していたようだったのでもちろん着替えすらした。

こういう高価な品々が欲しいわけじゃなかったが、
彼が愛情表現として時間と手間を割いてくれたなら素直に喜ぶくらいがきっといいと、大人ぶることすらしない。
本心のまま「でも私こういうこと目当てじゃないですからね!」と笑顔を咲かせる。
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「そのようすでは説得力は全くないがね」と、他人なら嫌味にとられかねないトーンのジョンの冗談に
彼女の笑い声が響いた。
自分のすることを好きな女性がこうしてまっすぐ受け止め、楽しんでくれるという幸せにジョンはすべてが解れてゆく。
飾らない彼女のこの空気が好きだと、彼はさらにマーガレットに静かに惹かれた。






家族で目立つ存在でもなく、
何か特別な才能があるわけでもなく、勉強が出来るわけでもない平凡なマーガレット。
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高級ブランドとスイートルームに包まれ、
国内随一の大貴族の当主であり、議員としても存在感が強いジョン・サウスに自分を乞われていることに陶酔する 。

とはいえ。
若い18歳の女性にはこの再会までの10日という体感時間はとても長く・・・
そのせいでジョンはあの最初の頃よりもう冷めてしまっているかもしれないな。
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自分の恋心が傷つきすぎないように、そう予防線として考え至っていた。

だって特別な何かをあげられるほど、
自分は特別じゃない。
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クラスでも物語でも、ちょっと脇役になってしまう程度の私に対する彼の恋なんて、
きっとすぐ色あせて恋遊びで終わってしまうかもしれないんだから、と。


しかし30代になったジョンからすれば、
既に余生だと割り切っているジョンには10日なんて早いもの。
輝かしい時間を知ったあとの灰色のいつもの日常は、マーガレットへの思慕を凄烈に深めてた。

寝室に彼女を連れ込んだもののベッドに急がず、酒も煙草も介入させず。
ひそやかな笑いを含む程度に静かに話をしては思い出したようにキスをする。
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今までの幾多の遊びの女たちへと違って、定型文の褒め言葉をジョンはひとつも使わない。
夢ではなく現実だと確かめるように指先と唇で、首から上だけを品性をもちつつ撫でて愛でることを繰り返した。
反復するほどにマーガレットが身を捩じらせる動きが大きくなっても、性急にならないようにと動かないまま時を過ごす。

これが恋ということか。
欲しいにもかかわらず、本当にいいんだろうかと性欲を押し付けることに躊躇して
そのかわりに唇同士を前戯してるも同然に重ね続け、高校生のように一線だけ守ってる。

唇がひりつき始めるくらいの時間を重ねたころに、
とうとうマーガレットが悩ましげで少しだけ鼻を鳴らして腰掛けのソファにくったり倒れこんだ。
子供でもあるまいし煽るだけ煽られて辛い。
つらいの、と目で語るマーガレットにジョンは被さり、甘い赤い髪の中で恍惚として潤んでる空色の瞳を見下ろす。
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「そろそろセックスしたいんだがいいかい」
「!?ふへェーっ!!?すんごいことおっしゃいますねっ!でもっ、そうですねっ・・・よ、よ、・・・よろこんで・・・

一瞬のち2人は同時に小さく笑いを噴き出した。

「女性を口説くのは不得意なんだよ。・・・好きな女性には、もう。一体どう言うべきなのか皆目わからない」
「はい。もう十分です」

再度噴出したマーガレットの笑い声でムードはないが、そこは紛れもなく愛情に満ちている。








「・・・・うっそみたい・・・・」

数十分寝ては再戦、飲んで食べて寝ては再戦を繰り返して、時間感覚もないまま窓の外の色で朝を知る。
ジョンもさすがに体力消耗で眠り心地ながら逃さないかのように彼女にまだ重なる。

「ジョン、寝なくてだいじょうぶだった・・・?今日もお仕事、でしょ・・・」
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マーガレットの口調も布以外のものもすべて脱ぎ捨てた距離でジョンに投げかけられ、足で彼を軽くたたく。
対してジョンはといえば低く含み笑いしながらうつ伏せて、起きようとする気配はない。

「・・・今日は土曜で公務はない。どっかのクリケットだかポロだかに確か誘われてたが公式行事でもないし行く必要はない」
「ダメ」
「必要ない」
「ダーメー」
「・・・・私は行かないよ」

もう知らない、とマーガレットがうつ伏せるとジョンは彼女の温かみを逃がさないとばかりにすぐ重なる。
マーガレットは昨夜贈られたプレゼントを横目で見ながら、

「ね。プレゼント、本当にありがとう。嬉しかったよ。でももう最後ね。好きだから会いに来てるのに、ああいうこと目当てみたい」
「・・・。・・・・わかったよ。そうしよう」
「それに、あーんな高いもの、あーんなに沢山。毎回持って帰ったら愛人やってるー!って、皆にわかっちゃう」
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ゆくゆくは娘ダイアナにも引き継がれる鋭い物言いで、でもマーガレットは笑みをふくめた柔らかい声でジョンを諌めた。
愛人、とはっきり自称されたジョンが背後で切なそうに肩口でゆっくり息を吐く。
マーガレットは愛人であるという紛れもない事実をマーガレット自身に戯言で触れられただけで罪悪感で苦しい。
よりによって一番愛しい女性を二番手に押し下げて虐げてるのだ。

「・・・・すまない」

ジョンは他に言葉が見つからない。
外の世界では、いや家族の前ですら堅く閉ざしているジョンの奥深く。
本来はきっとナイーブで、そしてまだ青年のままの部分がこうやって傷つく姿を見て、
マーガレットは自分がどれだけ深く彼の心に食い込んでいるかがわかった。

ホントに遊びじゃないんだね、
浮気相手だからなんて私から割り切ってごめんね。

「ちがう。ごめん。もう言わない。ごめんね」
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一緒に迷い込んだ場所から、もう戻れない。







マーガレットはこのようにジョンの公務にひっそり寄り添うだけでなく、
眠るように出番を待って放置されてる国内のサウス公爵家の領地へも秘密裏に招かれた。
s3-17[8]
そこにも当然の使用人達はいるはずなのに気配はなく、まるで妖精のようにいつも完璧なものが提供された。

大胆不適な行動だとは分かりつつも、マーガレットは豪奢なホテルや煌びやかな外遊より
こちらのほうがとてもすきだった。
どこも地平線の向こうまでサウス公爵家の領地で、黒服の男たちも視界にすらいない。
自由になった気がする箱庭に、相変わらずジョンの素人ギターの音色が平和にどこまでも響く。

「ほら、また中指触ってるよー」
「横から色々と言うからだよ」
「ちーがーうよー。ほら。だ、だだ、だー。こらっ!中指はどうしたのっ!ちゃんとやるっ」
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「マーガレット?」

スパルタぶったマーガレットの物言いにジョンが手を止めると、「いじめすぎ?」と彼女が笑ってジョンも微かに口角だけあげる。
すぐまえの夏休みの時期にはジョンの息子の双子達も家に戻っていたが、
彼らも彼らなりに国外の友人宅に遊びに行ったりという年齢になっていて、ジョンとは国内外の方々で日々を過ごした。
いまは秋のさかり。高原はすこし涼しすぎてマーガレットは彼の体温に寄り添う。

「この辺は花が多いね」
「昔はここでも狐狩りをよくやっていたよ。私の代で止めにしたがね」
「狐っておいしい?シチューとかにするの?私シチュー好きなんだ」
「・・・食べはしないよ。今日はシチューを作らせようか」
「えっ、狐食べないんだ!?でもダメ~。私ね、○○っていうところの缶詰のシチューが好きなんだ」
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「缶詰・・・?非常用のものをいつも食べるのかい?」

育ちも階級も年齢さえ違うのに、ふたりはその差異を不思議と満喫していた。
どうでもいい話題をいつもいつも楽しみ、すぐに飽きられるかという杞憂は消えて、この関係は次にくる冬で1年となろうとしていた。
言わない・・・というよりも言えないだけで、もはやジョンから寄せられるものが愛であると知っていたし、
マーガレットも同じくらいの愛を抱いていた。

「マーガレット、ピアス似合っているよ」
「要らないって昔ちゃんと言ったのに、いっつも持って来るよね」
「君が気にしていたように沢山でもないし、財布に入るサイズで目立ちもしないからいいだろう。現にいまも髪で目立ってはいない」
「~~~~そういう政治家の屁理屈って、きらいー」

「これでも何かの助けになるよ、マーガレット」
「色々あればまあ、コーディネートには困らないけどねー。ジョンてば、どうでもいいことを難しく言うよね。理系オタクさん!」
s3-17[36]
このときには実験物理学を専攻していたというジョンが、その方面で頭脳明晰だったらしいことは知っていたが
マーガレットはからかって笑って流し、ジョンも黙ったままギターを弾き続けた。







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